根拠の薄い混合診療禁止 全面解禁と新規制を | 山本洋一ブログ とことん正論

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元日経新聞記者が政治、経済問題の裏側を解説!

 政府は先日発表した成長戦略に、保険診療と保険外診療を併用できる「混合診療」の対象拡大を盛り込んだ。混合診療を巡っては解禁派と解禁慎重派が真っ向から対立しており、民間識者らが主張した全面解禁は今回も見送られた。なぜ意見が食い違うのか、そしてどのような「解」が正しいのだろうか。


 診療には保険が適用されて患者負担が13割となる保険診療と、保険が適用されず患者が全額負担する自由診療がある。混合診療とはこの二つの診療を同時に受ける際、保険診療部分については保険を適用し、自由診療部分は患者が全額負担すること。当たり前のことのように聞こえるが、日本ではこの混合診療が原則禁止されている。そのため、患者がほんの一部でも自由診療を受けると、保険診療分も含むすべての診療費用が全額自己負担となる。


 厚生労働省は混合診療禁止の理由について①患者の負担が不当に拡大する恐れがある②化学駅根拠のない特殊な医療の実施を助長する恐れがあるーーと説明している。混合診療を禁止しておけば患者は本来払うべき治療費よりも多額の負担をしなければならないため、自由診療に躊躇する人が多い。しかし、混合診療が解禁となれば本来の負担額となるため自由診療を選択する人が増え、医者ももうけの大きい自由診療を勧めるようになるという言い分だ。


 この二つの指摘は事実かもしれない。しかし、だからといって混合診療を禁止することで解決しようというアプローチは明らかにおかしい。経済学的に考えるとデタラメな理論もいいところだ。保険に加入している患者が保険診療分も自己で負担するのは筋が通らない。


 私も混合診療の解禁が国民皆保険の崩壊や患者負担の増加、医療格差の拡大につながってはならないと考える。しかし、それには混合診療の禁止ではなく、別の規制で対応すべきだ。例えば医者に今よりも厳しい説明責任を課したり、保険診療を優先するよう義務付けたり、いろいろな対応が考えられる。厚労省はやみくもに解禁に反対するのではなく、より良い制度に改良すべく頭をひねるべきだ。


 厚労省が反対する背景には日本医師会の存在がある。医師会とは開業医を中心とした圧力団体であり、混合診療の解禁で自由診療を選択する患者が増えれば、町のクリニックから大病院に患者が流れると危惧している。口では「お金の有無で医療の格差が生まれてはならない」などと言っているが、本音はそこにある。


 私は町医者も重要だし、逆に大病院から町医者に患者を移すことで医療費の効率化を図るべきだと考えている。病気になったとき、けがをしたときはまず、いつもの「かかりつけ医」に見てもらい、その病院で対応できなければ症状に合わせて最適な大病院を紹介する。これこそ本来あるべき姿であり、なんでもかんでも大病院にまず行こうとする今の体制は明らかにおかしい。


 今回の成長戦略では混合診療禁止を前提に、少しだけ例外を増やそうという方向が盛り込まれた。これではほとんど変わらない。混合診療は全面的に解禁し、弊害が生まれぬよう新たな規制を設けるべき。メディアも有識者も一度、アタマをからっぽにして、何をすべきか考えればこの案にたどり着くはずだ。