..は、息をきらしながら、家へ帰って来ました。そして、屋根裏の、きたない自分の部屋に入って、
「ああ、よかった」
と、ほっと安心しました。
ただ一つ、残っている片方のガラスの靴が、楽しい夢のかたみとなりました。.は、それを戸棚のなかにしまいました。
さて、王子さまは、美しいお姫さまのことが忘られません。どうかして、このガラスの靴をたよりに、探し出したいと思って、
「この小さなガラスの靴に、ぴったりと合う足を持った少女と結婚する」
という、お布告を出しました。
家来たちは、ガラスの靴を持って、これはと思う娘たちのところへ行って、はかせてみましたが、みんな合いませんでした。とうとう.の家へも、家来たちがやって来ました。姉娘たちに、はかせてみましたが、やっぱりだめでした。
.は、そのガラスの靴が、自分のものだと、すぐに知りましたから、
「あたしに、合わないかしら?」
と、笑いながらいいました。
すると、姉娘たちはふき出して、
「なんて図々しいことをいうんだろう!」
と、あざけりました。
けれど、家来たちは、.が美しいのを見て、ぜひ試させたいと思いました。
「どうぞ、はいてみて下さい」
そこで、.は、その靴に足を入れました。ところが、どうでしょう!まるで蝋で型をとった靴みたいに、ぴったりと合いました。
「や、や、や!あなたでした。あなたでした!」
家来たちは、驚いてしまいました。
姉娘たちも、驚いて顔色を変えました。
.は、屋根裏の戸棚から、もう一つのガラスの靴をとり出して来て、片方の足にはきました。もう疑う余地はありません。
そこへ、いつの間にか、魔法使のお婆さんが来ました。
そして、.の身体にちょっと杖をあてますと、ぼろ服はたちまち美しい服に変りました。姉娘たちは、思わずその前にひれ伏してしまいました。
「.さん、どうぞ許して下さい。わたしたちは、意地わるばかりしました」
「ほんとに、長い間、苦しめました。さぞ、辛かったでしょう。どうぞ許して下さい」
二人は、心からお詫をしました。
そこへ、お母さまも来ました。お母さまも泣いてあやまりました。
「.や。どうぞわたしをぶっておくれ、たたいておくれ、蹴っておくれ」
お母さまは、気が狂ったようにいいましたが、もともとやさしい気だての.は、すこしも怨みがましいこともいわず、ただうれし泣きに泣いて許しました。
ああ、そのために、.は、いよいよ美しく、光りかがやいて見えました。家来たちは、.が美しいばかりでなく、心も美しいことを知りました。この方よりほかに、王子さまの結婚なさる相手はいないと思いました。
「さ、一刻も早くお城へまいりましょう。王子さまはお待兼ねでございます」
家来たちは、.にお供をして、お城へ行きました。王子さまのお喜びは、たとえようもありません。
それから間もなく、賢い王子さまと、美しい.の結婚式が、国中の人々の祝福の間に行われました。そして、いつまでも凋むことを知らぬ、白と紅の薔薇のように、二人は楽しく幸福でありました。
(おわり)
「ああ、よかった」
と、ほっと安心しました。
ただ一つ、残っている片方のガラスの靴が、楽しい夢のかたみとなりました。.は、それを戸棚のなかにしまいました。
さて、王子さまは、美しいお姫さまのことが忘られません。どうかして、このガラスの靴をたよりに、探し出したいと思って、
「この小さなガラスの靴に、ぴったりと合う足を持った少女と結婚する」
という、お布告を出しました。
家来たちは、ガラスの靴を持って、これはと思う娘たちのところへ行って、はかせてみましたが、みんな合いませんでした。とうとう.の家へも、家来たちがやって来ました。姉娘たちに、はかせてみましたが、やっぱりだめでした。
.は、そのガラスの靴が、自分のものだと、すぐに知りましたから、
「あたしに、合わないかしら?」
と、笑いながらいいました。
すると、姉娘たちはふき出して、
「なんて図々しいことをいうんだろう!」
と、あざけりました。
けれど、家来たちは、.が美しいのを見て、ぜひ試させたいと思いました。
「どうぞ、はいてみて下さい」
そこで、.は、その靴に足を入れました。ところが、どうでしょう!まるで蝋で型をとった靴みたいに、ぴったりと合いました。
「や、や、や!あなたでした。あなたでした!」
家来たちは、驚いてしまいました。
姉娘たちも、驚いて顔色を変えました。
.は、屋根裏の戸棚から、もう一つのガラスの靴をとり出して来て、片方の足にはきました。もう疑う余地はありません。
そこへ、いつの間にか、魔法使のお婆さんが来ました。
そして、.の身体にちょっと杖をあてますと、ぼろ服はたちまち美しい服に変りました。姉娘たちは、思わずその前にひれ伏してしまいました。
「.さん、どうぞ許して下さい。わたしたちは、意地わるばかりしました」
「ほんとに、長い間、苦しめました。さぞ、辛かったでしょう。どうぞ許して下さい」
二人は、心からお詫をしました。
そこへ、お母さまも来ました。お母さまも泣いてあやまりました。
「.や。どうぞわたしをぶっておくれ、たたいておくれ、蹴っておくれ」
お母さまは、気が狂ったようにいいましたが、もともとやさしい気だての.は、すこしも怨みがましいこともいわず、ただうれし泣きに泣いて許しました。
ああ、そのために、.は、いよいよ美しく、光りかがやいて見えました。家来たちは、.が美しいばかりでなく、心も美しいことを知りました。この方よりほかに、王子さまの結婚なさる相手はいないと思いました。
「さ、一刻も早くお城へまいりましょう。王子さまはお待兼ねでございます」
家来たちは、.にお供をして、お城へ行きました。王子さまのお喜びは、たとえようもありません。
それから間もなく、賢い王子さまと、美しい.の結婚式が、国中の人々の祝福の間に行われました。そして、いつまでも凋むことを知らぬ、白と紅の薔薇のように、二人は楽しく幸福でありました。
(おわり)
青空文庫より『シンデレラ』
原作:シャルル・ペロー
翻案:水谷まさる
