やがて夏休みも終わり、学園祭の時期になりました。

私は生徒会役員ではありませんでしたが、部活の何人かの部員が生徒会に所属していたため、私もその手伝いで夜まで会場準備や各クラスの進捗など確認をしていたのですが、とあるミーティングの中で、なぜか私が総合司会をやることになってしまい、そこから私の仕事が増えることになってしまったのです。

学園祭全体の流れからオープニングセレモニーの段取り、打ち合わせ、リハーサル、さらに各コーナーでの進行の確認など、いくら確認しても足りないくらい私は総合司会という大役に大きなプレッシャーを感じていました。

そして始まった学園祭当日。

私の学園祭は金、土、日と3日間行われるのですが、その初日の金曜は10時からの開催で、遅くても9時に来たらいいということだったのですが、私は不安のあまり、8時前には学校に着いて一人で立ち位置の確認や資材の確認、セリフや進行の確認などしていましたが、内心は緊張のあまり失敗したらどうしようと不安ばかりでした。

そして始まる15分前、ぞろぞろと生徒たちも登校し出していよいよ私の緊張もピークに達した時でした。

資材担当だった後輩の女の子が、「先輩なら大丈夫ですよ。だって、私先輩の活躍見てました。あんな大舞台で優勝できちゃうくらいなんですから、きっと今回もうまく行きますよ!」と。

私はハッとして気づきました。

いつも成績は5教科合計150点以下で、部活では万年補欠、何か夢中になって打ち込めたものもなかった中学時代。あの頃の自分は、何も出来なかったんじゃなく、自分から何かを頑張ろうとする、飛び込む勇気がなかったのではないか。しかし今、自分は大会優勝を成し遂げ、そして学園祭の総合司会という一生に一度もない、あの頃の自分であったなら、決してさせてもらえなかったはずの大役を任された...なら、自信を持ってこの大役をやり切れるはずだ、と。

そして体育館の幕が開かれ、私の目の前に400人以上の午前、午後、夜間部の生徒たちの姿が現れた。

私は一つゆっくり息を吐くと、開会を宣言しました。

「レディースアンドジェントルメン!今日は学園祭にようこそ。みなさまにとって素敵な3日間となることをお約束致しましょう。さあ、今ここに学園祭の開会を宣言致しましょう!」

ちょっと飛んだあいさつですが、私の学校は普段ほとんどの生徒がアルバイトをし、社会の中で生きているため、中にはスナックやバーなどでアルバイトをしている生徒もいます。そこで、私はいかにもショウタイム的なあいさつをしてみようと運営と話し合い、推し進めてきたのです。

私のこのあいさつに会場は一気に盛り上がりを見せ、このテンションのまま次々とコーナーを紹介し、私はいったんステージ横の控えに降りましたが、この後のコーナーでも生徒たちはかなり盛り上がり、オープニングセレモニーは大成功をおさめました。

しかし実は、この時私は誰にも言えないものと戦っていました。

私が誰よりも早く学校に来たのは、実はこの日朝から私は38度くらいの熱があり、気を抜くとフラッとしてしまうくらい体調が悪かったのです。

でも、せっかく掴んだ大役とここまで進めてきた準備、あとみんなに心配をかけさせたくない思いとがいろいろごちゃ混ぜになり、私はふらつく体を押してやるしかありませんでした。

だから、オープニングセレモニーが終わったあと、私は一人生徒会控え室で横になり、そのまま寝てしまいました。

私がふと気がついて目を覚ますと、周りに私を心配する仲間たちや生徒会の人たちがいて、私の身を案ずる人、目を覚ましたと喜ぶ人、よくやった、すげえと私の手を取る人など、その光景に私は呆然としてしまいました。

聞くと、私が一人控え室に戻ってきたあとはずっと寝ていたらしく、最初に気づいたのは生徒会で仕事してる部員の仲間だったそうです。

セレモニーも終わり、みんなで学園内を遊んで回ろうとしたら私の姿が見えず、控え室に来てみたら私が熱を出して倒れてると慌てて冷やしたタオルを持ってきて、それから生徒会の顧問や他の仲間に声をかけてくれて、それから私が起きるまでの数時間ずっと見てくれていたのだといいます。

私は今何時と聞くと、もう4時だよと仲間が言いました。

セレモニーが終わってからだから、5時間も寝ていたのかと我ながら呆れてしまいました。


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