私は小さい頃からゲームが好きで、というかゲームに没入することで現実から逃げていました。

ゲームをしている間は学校のテストも勉強も、宿題や習い事も忘れていられました。


高校に入るまでの私は決して目立つようなタイプではなく、友達はいたのですが自分から何かしようとかいうつもりは全くなく、学校祭などでみんながこの出し物にしようと言えばそれに賛成の挙手をし、友達たちがどこか行こうと言えばそれについていくような消極的な子供でした。

しかし、私自身そんな自分が嫌いでいつもゲームのキャラにじぶを重ね、自分もこんなふうに強かったらと考えていましたが、そんな勇気は私にはありませんでした。


そんな私が変わったのは高校生の時です。

私が入学した高校は定時制高校で、進学より就職に力を入れている高校でした。

そのため、働きながら学ぶを実践していてバイトも公認していましたから、実際通学しながら短時間アルバイトをしている生徒も多くいました。

ただ、その反面部活は生徒にとっては魅力がなく、生徒にとっては同じ時間を使ってやるならバイトの方がお金になるわけで、一円にもならない部活をやるというのは時間の無駄だったわけです。

そのため、私が扉を叩いたバレーボールには、この時部員は誰もいませんでした。

顧問に話を聞けば、実は私が入学した年に残っていた部員はみんな卒業し、その後を継ぐ後輩はいなかったため廃部になるとかならないとかで上と話し合っている最中だったのだそうです。

私は悩みました。

部員が一人もいない部活なんて部として成立するわけもなく、その予算だって降りるはずがありません。それに、部員がいないのだから大会にも出られるはずもなく、実績も出せないのであれば私がここで頑張る理由などありませんでした。

ただ、この時の私はなぜかそれでもやってみたくなり、顧問に入部届を提出してました。

とはいえ、部員は私一人でしたからいつも放課後に体育館の隅で床にボールを打ち当てて壁にぶつかり跳ね返ってきたボールをまた打つ練習を延々としてたり、ボールを真上に上げる一人レシーブをずっとやってたりしてたり、たまに腕立てや腹筋、背筋、スクワットやジョギングをしたり、最初の頃は他の部活をしている部員たちから怪訝な目で見られたりしてました。

そんな目で見られても私がずっと頑張っていられたのは、そんな周囲への反発心からだったのかもしれません。

バレーボールは中学からやってましたが、中学の頃は自分より練習してて上手い部員たちがいて、私は自分が部活をやっている意味がわからず、ただ惰性でやってました。

しかし、こうして一人になって初めて部を潰したくないという気持ちと、何より自分はバレーボールがしたいという気持ちが自分の中にあることが分かったのです。

私は蒸し風呂のように暑い夏でも、毎日体育館に行って一人で練習をしました。

冬の体育館は身を切るような冷たい空気があたりを包みます。それでも私は一心不乱に練習に打ち込みました。

そして高校2年になり、部活説明会がやってきました。

バレーボール部は相変わらず私一人でしたが、私は顧問に促され、一人ステージに上がりました。

通常、部活説明会は部活の実績や内容を説明する部員がマイクの前に立ち、他の主なメンバーはその後ろで簡単な練習風景を見せる形なのですが、バレーボールは私一人しかいなかったものですから、私は一人マイクの前に立って部活の内容を説明しました。そして、最後に今先輩たちはみな卒業し、部員は私一人しかいないことと一人では決して大会に出られず、実績も作れないことから予算が降りず、部活を続けていくことがとても困難なことを新一年生を前に訴えました。

この時の一年生たちは皆、( ゚д゚)?と目を丸くしてぽかーんとしてました。

しかし、この時部活はやはり来なくて私は一人練習してました。

私が新一年生を前にこれだけ訴えても誰も来ないのかと悲しい気持ちにはなりましたが、考えてみれば大会に出られるかもわからない、実績もわからない、入部しても意味があるのかわからないようなものでしたから、入部を躊躇するのは当然でした。

そうして1ヶ月ほど経ったある日、私が昼休みを利用して一人で練習をしていたところに顧問が数人のクラスメイトを連れて私のもとにきました。

顧問に私に新しい部員を連れてきたぞと言い、一人ずつ自己紹介をしました。

が、全員1年の時からずっとつるんでた仲間たちですから私が知らないはずがありません。

仲間たちは「大会に出たら焼肉が食えるらしいから入部した」だの「ずっと一人で練習してるの知ってたけど、なかなか手伝う勇気が持てなかった」だの言っていましたが、ともかくこれで私を含めて部活は六名となり、その1ヶ月後の大会に参加できることとなりました。

大会の結果は1回戦敗退という散々であったが、その健闘ぶりは思わぬ事態へと波及していきました。

この大会を見ていた校長が部活存続を考えてくださり、廃部の話はなかったことになり、来年度の予算は通常に戻すことになったのです。

私にとっては大会で勝った負けたというより、むしろ部活が存続できたことが嬉しく、大会が終わった後は部費でみんな腹いっぱい焼肉を食べました。

大会が終わり、夏休み前の7月の中頃、私たちは早くも来年に向けてのリベンジに燃えていた中、突然顧問が集合をかけてみんなを集めました。

そして顧問の後から見慣れない女子たちが体育館に入ってきました。

女子のリーダーぽい人が、「あのさ、あなたたちの大会見ててさ、それで顧問から話を聞いてアタシたちも何かできないかなって思って、女子もバレーボール部を立ち上げることになったの。でね、ほら、部活といえばマネージャーじゃん?だからうちらからバレーボールの経験がない子を男女共同のマネージャー出すよ」といい、レナちゃんという子を紹介しました。

聞けば、彼女たちはその年に訳あって他校から再入学してきた子たちで、もともとそれぞれの学校でバレーボールをしていた経験者なのだそうです。

そして顧問から、実は女子バレーボール部は長年部員がおらず、とうの昔に廃部になっていたとのことで、女子バレーボール部が復活したのは十数年ぶりとのことでした。

部活として正式に認められた私たちはさっそく夏休みを利用して、チームでの基礎練習や試合形式でのポジションなどを確認しながら女子と練習をしました。

女子バレーボール部は、経験者というだけあってかなりレベルが高く、試合をしても私たちは全く歯が立ちませんでしたが、これが私たちが最低限クリアしなきゃいけないレベルなんだと認識し、その目標に向けて団結しました。

この年も夏に冬に練習する日が続きましたが、みんな練習が始まれば暑い寒いなど一言を口にせず、真剣な眼差しで練習に打ち込んでました。

そして冬休み前になり冬休みの練習はどうするか部員全員と顧問とでミーティングをしていたのですが、年末年始はどうするかという話になり、部員の一人が練習しようと言い出しました。

それに対して顧問はキャプテンとなっていた私に意見を求めました。

私は「私は冬休みとは言ってもやることもなく、以前だったら早く帰ってゲームしたいなとか思ってました。けど、今はみんなと1分でも長くバレーボールがしたいです。」といい、これに反対意見をする部員はいませんでした。

ただ、顧問はどうしても年末年始は帰省しなければならないらしく、代わりの先生に顧問を頼むといいました。

そして年が明けて元旦。

本来なら閉まっているはずの学校の戸を開け、私たちは体育館に向かいました。

すると体育館前の駐車場に黒のクラウンが入ってくるのが見え、ジャージ姿の校長が体育館に入ってきました。

私たちはびっくりして校長に駆け寄りました。

校長は「いやぁ、まさかこの年で顧問を代行するとはね。まあ、たまには体を動かさなきゃ若いものについていけないよ。」と、ハハハと笑いながら軽くストレッチを始めていた。

それから校長は昼まで練習に付き合ってくれて、体育館前にあるシャワールームで汗を洗い落としてから帰っていきました。

そして冬休みも終わり、私たちは相変わらず部活に打ち込みましたが、この頃から女子部とも一緒に駅前に遊びに行ったり買い物に付き合わされたり、ゲームセンターでもUFOキャッチャーやらプリクラやら案内されるようになりました。とはいえ、私はプリクラはやりませんでしたけど。

そして私はずっとビデオゲームとアーケードゲーム専門でやっていたものですから、ふと友人たちがビデオゲームのコーナーで何やら盛り上がっているのを見つけ、話を聞くと対戦相手が誰かわからないけど強くて勝てないのだと言う。

女子たちもそれを見ててなかなか勝てない状況に、なんだか悔しそうでした。

そこで私は、自分がやるよと言って席を変わり、見ず知らずの相手と対戦することにしました。

この時対戦したゲームは私がよくやっているゲームで、私には勝つ作戦がありました。

まず、相手はだいぶやり慣れているようでしたが攻め方は短調でやたらジャンプからの攻撃をしかけてくること、それとその攻撃は必ず大ダメージと大きなのけぞりを生む強攻撃であること。

空中からの強攻撃はたしかに当たれば攻撃の糸口をつかむかなり有効な手ではあるけど、その分モーションが長く、パターン化してしまえば出すタイミングが一定になりやすい。

そのタイミングに合わせてカウンター気味に対空攻撃を出せば相手はカンタンに攻撃の糸口を失い、消極的になってしまう。

案の定、何度かその空中からの攻撃をカウンターや牽制で抑えられてしまった相手はジャンプするのをやめ、防戦一方になってしまった。

そうなればあとはカンタン。こちらは焦ることなく飛び道具を使って追い詰めていけばよい。そして相手の動きをよく見てフィニッシュに派手な大技を決めてしまえば、勝負は着きます。周りの仲間からは黄色い歓声が上がり、それから対戦相手は二度と挑戦してくることはありませんでした。


長くなるので次に続きます