7月のお知らせから2ヵ月あまり、待ちに待った「能登半島復興支援チャリティー演技会」が開催、配信されました。

配信のみのイベントというのが国内では初めてで(それだけ国内のファンは恵まれてきたという事なのですが)、馴染みのない配信サイトへの登録やチケットの購入に四苦八苦された方も多かった今回。やまぽんも御多分に漏れず、一向に先に進まないチケット購入画面に「何回ログインさせるんじゃいむかっ」と若干切れつつ何とかアカウント作成→購入→テレビへのアプリ導入まで漕ぎつけました。

当日ちゃんと繋がってテレビ画面に「配信開始までお待ちください」的なメッセージが映し出された時は本当にホッとしましたよね。このドキドキ感に何か既視感を感じながら待っていたのですが、どなたかがTwitterで「ライスト観戦思い出して懐かしい」的な事を書いてて「それだ!」と(笑)。競技時代、夜中だったり明け方だったり日中だったりに、ここは繋がらないあっちはフリーズするとか右往左往しながらのライスト観戦、ちゃんと映るまではドキドキだったなぁ。

 

 

そうして始まった演技会は「羽生結弦 notte stellata」とはまた雰囲気の違う、ひたすらに前を向いて立ち上がり進んでいこうとする強い力と、それを暖かく見守り支える大きな愛を感じる時間だったように思います。

 

オープニングに地元の和太鼓演奏グループの「輪島・和太鼓虎之介」による「能登國切籠祭」の演奏による演技を持ってきたのがこの演技会を象徴していますよね。

メロディがない和太鼓のみの演奏の表現って難しいと思うんですが(曲の一部にのっているんじゃなくて全編が太鼓だけなので)、和太鼓の力強い音の表現や強弱の抑揚を上半身(特に腕)のダイナミックな動きとスケーティングとでインパクトのある表現になっていましたよね。最初字幕を見落としていて「振付誰だろう?腕の動きはあっこちゃんっぽいよなぁ、でも足元は羽生くんっぽいなぁ」などど呟いていたのですが、大体当たってて嬉しい♪

何人もの方がもう触れていて今更なんですけど、羽生くんがフェンスの陰からバンっとカメラにフレームインしてくる演出、配信限定だからこそ出来る演出でいいですよね音譜羽生くんの目力がまた太鼓の力強さにはまっててよかったですよね音譜今回予算が限られた中でされていた配信ならではのささやかな工夫(リンクサイド出入口や通路のカメラとか)が印象的だったな。

 

続く輪島・和太鼓虎之介による演奏(オープニングと同じタイトルだったけど長さがかなり違ったのでオープニングは抜粋したものだったのかな?)、能登高校書道部の皆さんと和太鼓奏者今井昴さんによる書道パフォーマンス。最初に出演者にこのふたつの団体があるのを見た時「コラボなのかな?どういう形で出演するのかな?」と思っていたのですが、それぞれが独自の素晴らしいパフォーマンスを披露してくれましたキラキラ私書道パフォーマンスを通して見るの初めてだったんですが、あの文字を美しく書くだけでも大変なのに和太鼓のリズムに合わせて息を合わせて書き上げていくの、本当に素晴らしかったキラキラ

地元の若い皆さんのパフォーマンスを提案したのが羽生くんなのかテレビ金沢の方なのかは分かりません(その辺りの経緯は取材の中で触れられていなかったと記憶しています)。ぶっちゃけ「チャリティー公演として収益を上げる」ことだけ考えるならばスケーターの演技だけでよかった訳ですし(人数もう少し増やすとか、グループナンバー追加するとか、羽生くんが2プロ滑るとか、時間を長くする方法はありますし)。

でも「被災地の為に何が出来るか」を考えた時に「寄付を募る」ことだけじゃなくてもっと違う寄り添い方を考えたんじゃないかと。それが今回のパフォーマンスだったのではないかと思うんですよね。

『挑戦』という副題がついた今回、極端な話羽生くん達プロスケーターは今回特別な挑戦をした訳ではありません(たった1日でグループナンバーを合わせるのは相当大変だったと思いますが)。この言葉は地元の皆さんに贈られた言葉なんですね。「ひたすらに前を向いて立ち上がり進んでいこうとする強い力」の象徴が若い皆さんのパフォーマンスだったのかなと、演技会を見終えて(生徒さんからの質問だったり先生からのお話だったりを聞いて)そう感じました。

 

スケーターの皆さんのパフォーマンスは一曲ずつ。

無良くんは『燦燦』

届いてほしい希望を込めて…もう選曲がぴったりだよね。無良くんの力強いスケート(雄大なイーグルがいいよね)が三浦大知さんの伸びやかな歌声ととても合っていたように思います。

アナウンサーの方が「大丈夫、側にいる」とナレーションされていましたが、実は歌詞の中に「側にいる」という言葉はないんですよね。でも無良くんの中にきっとその想いはあったように思います。それがね、何か一緒に演技会をつくってるなぁって感じがしましたね(あとね、羽生くんとのグータッチが2015年国別FSを彷彿とさせて胸アツ…)。

それにしてもやはり狭いリンクは難しいのか3Tの着氷が結構危なかったあせるやはり無良くんには最低ホッケーサイズは必要あせる

あっこちゃんはソチシーズンSPの『愛の賛歌』

ソチ落ち以降の方は知らないかもしれないので貼ってみる、現役最後のワールドでのPBの演技です。

長久保コーチ(お元気だろうか)がお好きな曲だという話は聞いていたのだけれど、当時はボーカル曲が禁止されていたので新たに収録しなおしてもらったという話を今回初めてフォロワーさんからうかがいました。

勿論当時と違ってジャンプ減らしているので振付は違っている部分はありますが、2Aを降りた瞬間からの困難を乗り越えた先の生きる喜びを表すかのような笑顔に満ちたStSqは変わらず、とても大好きな演技です。いつかまたどんな形でも幸せは訪れるのだと伝えてくれるプログラム、この演技会にぴったりだったと思います。

さっとんは『Stabat Mater dolorsa』

このプログラムは鎮魂の舞いですね(「悲しみの聖母」という意味、キリストが十字架にかけられた時の聖母マリアの悲しみを歌っているそうです)。荘厳な音色を纏ったさっとんの端正なスケーティングが美しくて素晴らしかった。

4人がどうやって演目を決めたのかは知る由もありませんが、伝えたいメッセージをそれぞれが伝えるかのような絶妙な組み合わせだったように思います。

 

そして羽生くんは『春よ、来い』

newsweekでのインタビューの中で「もうこれしかない、皆さんに優しい気持ちになってほしい」と選曲の理由について話していました。

私の中で『notte stellata』や『あの夏へ』は祈りのプログラムでもどちらかというと鎮魂だったり昇華だったりをイメージさせるプログラムで、『春よ、来い』は歩き出す為にそっと背中を押してくれるようなプログラムなんですよね(多分RE_PRAYでの印象が強い)。震災から9か月あまりが過ぎてようやく少しずつ進み始めた能登では「辛く苦しくてもいつかまた『春』はやってくる」と伝えてくれるこの演技はきっと必要だったんだと感じました……まさかこの時点では1週間後にあんな豪雨被害にみまわれるとは思いもしませんでしたから。

今はまた先の見えない困難な状況にある能登半島。再び「復旧」の段階に逆戻りしてしまってこういった演技会で励ます時期ではなくなってしまったことを考えると、本当に奇跡的なタイミングだったんだなと。

少しずつこの記事を書く中で、最初に付けたタイトルをちょっとだけ変更しました。今はまだ想像することも出来ないかもしれないけれど、それでも必ず春は巡りくる。能登の皆さんがそう思えるように、これから先こういった支援が意味のあるものになる状態になるように、私達も微力ながら出来る事を探していきたいですね。

それにしても。初めて見る「明るい照明の中での『春よ、来い』」は暖かい慈愛の眼差しはそのままに、今まで以上に前向きな未来への希望に満ちた演技だったように思います。リンクが狭い(ホッケーサイズより小さいそう)為かいつもよりややスピードは控えた印象ですが(相変わらずひと蹴りの伸びは尋常じゃありませんが)、エフォートレスにリンクを舞う姿は流石でした。嫋やかで柔らかい指先まで神経の行き届いた美しい演技、リンクが狭い分エレメンツの配置を変えてリンクサイドの子ども達の前でインパクトのある演技をしていたような印象なのですが果たして…?

 

フィナーレはMrs.GREEN APPLEの『ケセラセラ』

この言葉は「なるようになる」という意味ですが、羽生くんは沖縄の「なんくるないさ」という言葉になぞらえて話していました。「ケセラセラ」と同様に「運を天に任せる」という意味で使われがちだけれど、本来の「なんくるないさ」は「全力で物事に取り組んだ先のことは神のみぞ知る」という意味合いなんだそうですね。多分羽生くんの心情的にはこの「なんくるないさ」の方がより近いんだろうなぁ。

笑顔がいっぱいのこのプログラム、本当はオープニングと同じくチャリティーTシャツで演じるのが一番いいんでしょうが、流石に羽生くんの着替えが間に合わないよねw

ソロパートは絶対セルフコレオだと初見で確信していましたが(あの頻繁にテンポが変わる複雑な間奏をこれでもかというくらい音を拾ってステップで表現しようなんて羽生くんくらいだw)やはりそうでしたね音譜あっこちゃんとの共同の振付だそうですが、他のスケーターに振付するの初めてかな?(あ、FaOI2018でセルフコレオを織田くんと共有していたか)。無良くんと2人のパートとかサビ辺りの足さばきは羽生くん独特の動きだったように見えたのでちょっと大変そうに見えました(主に無良くんが…と思ってたらメンシプで同じようなこと言ってて笑ってしまったw)

いつか全編セルフコレオで見てみたいなぁ……でもミセスの曲って(特にこういう曲って)音が複雑すぎてすっごい体力求められそうだよね(笑)

 

 

今回のチャリティー演技会、寄付金を募る目的の一般的なチャリティーイベントと何が違うのかというと前述した通り「被災地の方々と一緒につくり上げている」というところですよね。

寄付金を集めるだけならチャリティーオークションとかトークショーとか仙台での演技会とか色々方法があったと思います。でも羽生くんは金沢で、出来るだけ被災地と近い場所で被災地の方々と一緒にやりたかった。一緒に作り上げていく事で、金沢という地で演じる事で、被災地にいる方々に「見守っているよ」「寄り添っていくよ」「支えていくよ」というメッセージを伝えたかったのではないでしょうか。

この羽生くんの企画を可能にしたのが羽生くんとevery.の関係、更にいうならば海老澤さんの存在だったと思うんですよ。

いくら抜群の知名度を誇る羽生くんといえども石川には何の伝手もない。そこで「単独公演でタッグを組んでいるテレ朝」ではなく日テレの海老澤さんに相談するのは「『共に前へ』展」から「羽生結弦 伝えたい思い」「羽生結弦 notte stellata」へと続いてきた流れを考えればごく自然なことで、そこから繋がって今回の企画が実現したんだろうなと。

Twitterの方にも書いたんですが、私には忘れられない光景があるんです。

ソチオリンピック、明け方のフラワーセレモニーを見届けて幸せな気分で眠りについて。起きてわくわくしながら録画したニュースを見たらプレカンの映像が流れてて、そこには思い詰めたような硬い表情で震災について語る羽生くんがいました。

何故人生で一番幸せだろう瞬間にそんな辛そうな表情にならなければならないのか、そんな質問をしなければならないのか、当時半泣きしながら夫に訴えた記憶があります(八つ当たりで申し訳ない…)。

でも今なら分かるんですよね、あそこが彼にとってのひとつのスタートだったと。その年の夏の石巻と八戸があって、あそこから少しずつ形になっていったんだと(ああこれもevery.ですよね…今身近で力を貸してくれる人達はそういう羽生くんの葛藤を見守ってきた人達なんだな)。

インタビューの中で無良くんが「チャリティーという形で実際に開催するのは中々出来ない中でゆづの力で開催出来た」というような事を話していました。

羽生くんがいう「金メダルふたつ取って、そこからが被災地支援のスタート」という言葉の意味がここにあるんですよね。その圧倒的知名度が発言力を高め、人とお金を動かして組織を動かす。そしてまだ無名な時代から応援してくれていた人達との繋がりが加わり、今回の演技会が実現したんだと思います。

あれから10年、今回初めて彼から動いて実現したチャリティー演技会(今までのようにevery.主導であれば主催は日テレで協賛がテレビ金沢になっていたと思います)、今後の彼の道筋のひとつになっていくのかもしれませんね。

 

 

Newsweekのロングインタビューでは今回の演技会のことというよりも、それを入口に「東日本大震災から現在までの羽生結弦の心境や生き方の変遷」、つまり「今の羽生結弦になるまで」の一面が本人の言葉で淡々と綴られています。

「被災地の子ども達は否応なく大人にならざるを得ない」というのは大きな災害が起こるたびに聞く言葉です。羽生くんの場合同じ年頃の少年達と違ってほんの少し有名だったが為に、それこそ本人が望むと望まざるとに関わらず色んなものを背負ってしまう事になった。最終的に本人がそれらの想いを咀嚼して受け入れて歩いていく事を選びましたが、今幸せですか?と問われて「幸せですよ、みんなが喜んでいてくれるから」という言葉を読んだ時に「そうじゃない幸せもあってほしいな」と思ってしまったんですよね。そこじゃないところに求める幸せもあればいいなと……ひとりの成人した男性に対して余計なお世話以外の何物でもないんですけどねあせる

今後ライフワークとなっていくだろう今回のような復興支援の活動、それが羽生くん自身が幸せを感じられるものになるといいなぁと願ってます。

 

何はともあれ、羽生くんが自分のフィギュアスケートを極める為、皆の期待に応える為、被災地の支援の為、全力で進んでいく日々はまだまだ続いていきます。

私もまた少しでも彼の想いが叶う力になれるよう頑張って応援していきたいなと思っています……まぁ激流に流されっぱなしなんですけどねw

 

 

あ、メンシプ動画の感想は時間がないのでTwitterにまとめました(笑)

長いツリーですがよろしければ読んでやってくださいあせる