コンラッドの”Heart of Darkness”「闇の奥」:
今回の数ヶ月に渡る読みが終わったので、感想を書きました。お読みいただければ幸いです。(で、95-98%くらいこの有名な小説を理解した気になってます)
注:読み終わったのは、ちょうど2年前の今日のことです。

船乗りの海洋冒険談の体裁で始まりますが、実際には人間の《欲》の深層を追求する作品だと思う。その欲の代表的なものは金欲・名誉欲・性欲だと思います。

さて、物語の中心であり、語り手MarlowのHeroであるKurtzは、上流階級のお嬢さんと婚約したため女性に関する欲はすでに満たされているので、自然と金欲と名誉欲の話しになります。

コンラッドをリスペクトしていると聞くF・スコット・フィッツジェラルドのこの作品への返歌は”The Great Gatsby”だと僕は考えています。で、金欲と名誉欲を達成しているGatsbyに足りないのは性欲(憧れの女であるDaisyの獲得)でした。つまり、Gatsby=Kurtzなのです。

さて、人間の三つの欲である金欲・名誉欲・性欲を追求する哲学的な作品かというと、まったく違います。

はっきり言って語り手Marlowの独断と偏見に満ちた講談です。

彼は人種的偏見とこの時代では軽度の(現代なら重度の)女性差別意識を持ってます。

ポーランドから英国へ移民したコンラッドは、移民先である英国へのナショナリズムとも言える激しく異常な愛国心を隠そうともしません。そして、英国と同じく植民地主義を取る遅れて植民地獲得合戦に参加したベルギーへの蔑視と敵愾心が明らかです。

さて、メインディシュであるKurtzに話しを戻しましょう。Kurtzは高貴な女性の獲得には成功したものの、彼女との生活を維持するだけのためのはずだった金欲(象牙の獲得)に溺れ、名誉欲(白人としてコンゴの原住民を先導する)の達成途上で病に倒れ死にます。

しかし、まあ、優等民族である白人が劣等民族であるコンゴの原住民を先導し感化するなんて、ふざけた話しですよね。でも、この当時、世界を支配していた英国の人たちに支配的思想だったのでしょうね。(なんの臆面もなくさらりと当然のこととして書かれていますから…)

この作品の白眉は、ラストの語り手MarlowとKurtzの”The Intended”(婚約者)である女性との面会だと思います。

で、Kurtzの有名な台詞である”The horror, the horror”の対極にあるのが”a careless contempt for the evanescence of all things”です。

ここに、作者であるコンラッドの死生観がはっきりあらわれています>『Kurtzの有名な台詞である”The horror, the horror”の対極にあるのが”a careless contempt for the evanescence of all things”です』

とはいえ、コンラッドのこの死生観は興味深いです。

僕が死ぬときに、《すべてのものは泡のように消えてゆく、という虚しい悔恨》は持ちたくないので…

Marlowが自分の最期の言葉にしたくないという“a careless contempt for the evanescence of all things”の対極にあるのがKurtzの”The horror, the horror”だと書いたけど、この言葉も彼は呪いの言葉だとしてラストで婚約者に嘘までついて調伏しています。

とはいえ、語り手のMarlowは、Kurtzは最期に”The horror, the horror”とKurtz自身の人生にJudgementをくだしたから、彼を”remarkable man”と呼んで、ずっと彼にLoyalであろうとした訳ですが…

ということで、いろいろと複雑だけど、興味深い作品でした>コンラッドの”Heart of Darkness”「闇の奥」