人事異動

 

前年7月10日

鈴木勇男(内閣府事務官 検査局総務課 金融証券検査官)

 

福岡国税局に出向させる

 

金融庁長官 ○○○○

 

霞が関の合同庁舎で人事担当の課長補佐から人事異動通知書(辞令)を受け取った鈴木は、その足で羽田空港に向かった。

 

2年間過ごした船橋市の北習志野にある宿舎は、事前に退去手続を終えて、昨晩はビジネスホテルに宿泊した。

親しい同僚たちへの挨拶も昨日終らせていた。

 

2年間の最後の晩餐として、鈴木が選んだのは、虎ノ門にある「ハングリータイガー」のスパゲティーだった。

ここは、鈴木がスパゲティーが好きになるきっかけを与えてくれたからである。

ここも昨日訪れ、大好きなペスカトーレの大盛をたいらげていた。

 

東京でやることは何もない。

 

鈴木は、福岡空港へ到着すると、この日はそのまま自宅へ帰った。

 

翌日の朝、遅く自宅を出た鈴木は博多税務署のある吉塚駅の改札を出て、ゆっくりと税務署に向かって歩き出した。

 

税務署に着くと一階の奥にある食堂で缶コーヒーを買い、それを持って喫煙所に向かった。

 

喫煙所には誰もいなかった。壁にこびりついたニコチンが汗を吸ったシャツに付かないよう気を付けながらタバコを吸い、缶コーヒーを飲み干した。

 

二階の法人課税第二部門に行くと、今回の人事で国税局に異動になる沢村が、「お疲れ様です。」と、立ち上がりながら言った。

鈴木もそれに答えると、沢村は近くにあった椅子を持ってきて座り、鈴木に自分が今まで座っていた椅子をすすめた。

 

沢村からの、前事務年度の調査事績や予算などの引継を終わらせると、鈴木は挨拶回りをした。

二階の総務課に行き総務課長と総務課の職員に簡単な挨拶をし、署長は着任していなかったので、そのまま一階の法人担当の副署長を訪ねた。

 

副署長室では、着任したばかりの橋本副署長と法人課税第一部門の入江統括官が打合せしていたので、二人に着任の挨拶をした。

鈴木を含め、三人とも今回の異動で、博多税務署に異動となっていた。

 

法人課税第一部門の入江は、鈴木と同じ統括官でも第一部門は部門の要で、ランクが上である。

橋本副署長は、鈴木の直属の上司ということになる。

 

博多税務署では、数か月前に職員が収賄容疑で、国税監察官から地検に告発されるという事件があった。

中洲管理班の上席国税調査官が、調査先であるソープランドの女性経営者と職務上、不適切な交際をしたというもので、当時は大きく報道された。

 

中洲管理班とは、中洲が納税地(本社)となっている法人をすべて管理し、申告内容に不審な点があれば調査するという、中洲専門の調査部門である。

 

事件の後、中洲管理班は解体され、中洲は特調統括がすべて管理することになった。つまり、鈴木が管理することになったのである。

ちなみに、告発された上席国税調査官は、懲戒免職に放ったが、離婚して独身であったからか、不起訴となった。

 

なお、この事件の直後、大阪国税局の職員が、名古屋で銀行強盗をしたという報道があり、福岡の事件は報道されなくなった。

たまたま、この二つの事件の職員は二人とも鈴木の知人であった。

 

橋本副署長から中洲管理の件についての話を聞いた鈴木は不安があった。

調査自体は各部門の職員が行い、それに対する調査のアドバイスや進行管理をするというものであった。

 

鈴木は統括官の中では一番若く、他部門の統括官は鈴木から見ると大先輩ばかりである。

加えて調査を担当する職員にも鈴木より先輩がいる。

 

「やりにくいな。」と思いながらも「やるしかない。」ことは、鈴木も理解していた。

 

午後は、個別に親しい職員へのあいさつ回りに終始した。

どこでも金融庁での仕事の内容の質問ばかりだった。

 

話をしても理解できないだろうと思った鈴木は仕事の中身は適当に話をし、「全国いろんなところへ長期出張が出来て面白かった。」ところを強調して話しを終えた。

 

自分の席に戻ると、新メンバーが全員そろっていた。

法人課税第二部門は、特別調査班四名、調査指導班二名、一般調査担当二名と統括官の鈴木で計九名となる。

 

ただし、一般調査担当の一名は直ぐに半年間の研修に行くことが決まっており、実質八名体制となる。

 

前任の沢村は、国税局に行ったが、夕方には戻り、新旧メンバーでの懇親会が五時半から、「魚八」で予定されている。

 

 

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税理士 山下好一

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