木原なつみ

 

 

エイトグループの飲食事業と不動産事業は順調に業績を伸ばした。

聖一は、「魚八」の店舗には出なくなったが、店舗は店長に任せ、経営に専念するようになった。

ただ、夜遊びは、毎日ではなくなったが、止めることはなかった。

 

そんなある日、飲みに行ってお金を使うなら自分で店を経営しようと思い、中洲にスナックをオープンした。

オープンさせたはいいが、お客は聖一の飲み友達がほとんどで、売上にはつながらず、1年で閉店した。

 

また、ハウジングで所有する賃貸物件で、ファッションヘルスが閉店することになった。

聖一は自分で営業してみたくなり、自らもそういった風俗店に通うようになった。

大阪や東京などにも出かけ、風俗で働く子から直接話を聞いた。

 

風俗で働く理由は、借金の返済もあるが、自分で何らかの店を持ちたいからお金を貯めているという理由も意外と多かった。

聖一は、借金返済のための子にターゲットを絞り、「無人君」などの自動貸付機から出てくる子で、見た目が良い子に声をかけまくり、数人の女の子をスカウトした。

 

株式会社エイトレディを資本金1,000万円で設立し、風俗業に参入した。

 

賃貸物件を寮として提供し、大阪や東京などの遠方から短期的に出勤する子も確保した。

福岡に縁がない子は、ネットのホームページで顔出しできるので、店はたちまち人気店となった。

 

ところが、数年後に福岡市内の性風俗店は、中洲でしか営業が出来なくなり、仕方なく店を閉めることにした。

 

ただ、デリバリーヘルスであればどこでも営業ができるので、有店舗から無店舗になり、結局のところ、店舗の維持費が無くなった分だけ、利益となった。

 

店の女の子は出入りが激しいので、聖一は時間があれば、消費者金融の店舗の前で女の子に声をかけていた。

「なっちゃん。」と聖一が声をかけると木原なつみはびっくりしたように聖一を見た。

 

木原なつみは、聖一の行きつけの飲み屋にいた子で、1年前に東京の六本木で働くと言って、その店を辞めた子だ。

 

「なんしよっと。」と、聖一が福岡風の挨拶をすると、なつみは下を向いた。

「お茶でも飲もう。」と言う聖一に、なつみはだまって従った。

 

話を聞くと、勢いよく六本木に行ったが、思うように店での売上が上がらず、入店から2か月の時給保証が終わると、時給を下げられ、出勤調整されてしまう。

そのたびに、店を変わるがどこも同じで、何店舗か入店退店を繰り返し、働ける店が無くなり、麻布十番に借りたマンションの家賃も支払が苦しくなったので、福岡に帰ってきたのである。

 

聖一は、話を聞きながら「当然だろう。」と思った。

この木原なつみは、見た目こそ普通であるが、背中にはやくざ映画に出てくるような刺青がある。性格も決して良いとは言えなく、すぐにわかりやすいウソをつく癖がある。

聖一は、六本木に行ったことはないが、六本木と言えば、銀座ほどではないにしても割と高級なイメージを持っている。

そんなところで、可愛らしいワンポイントならまだしも、がっつり刺青がある子が働けるはずがないと思っていた。

 

中洲から東京に進出する子は、中洲の○○でNO.1だったという子がほとんどである。

「中洲で頑張れなかった子が、東京のしかも六本木で通用するはずがない。」と、聖一は、なつみから東京進出の話を聞いた時のことを思い出した。

 

なつみは、東京に行く際に、聖一に50万円でからだを売っていた。

「あたしは100万円だけど、聖ちゃんなら50万円でいいよ。」と、なつみが聖一に言ってきたのである。

聖一は、お前ごときが50万円はないだろうと思いながらも、餞別代りと思い直しその話に乗った過去がある。

 

聖一は、取敢えず手持ちの10万円をなつみに渡し、後日連絡するように言い残してその場を離れた。

 

あんな刺青がある子をデリヘル嬢として雇っても、客が付かないことは目に見えている。客が付かなければ、なつみも稼ぐことが出来ない。

聖一は、なつみを何とかしてあげたいと思いはしたが、今のところいいアイデアは浮かばなかった。

 

今日もなつみは、アディダスのTシャツを着ていた。

 

 

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