接待をしていらっしゃるお客様は多い。和義様は、ホントに上手にワタシを守りつつ、お客様に満足頂けるようにしてくださった。下手な人もたまにはいて、マスターが出ばらないといけないときもあり、和義様の実力を知ったような気がした。
いちお定時に電気は落とすが、金曜と土曜は、それからしばらくお客様は帰らない。なので、いつも遅くなるのだが、今日のお客様はきちんと閉店前にお帰りになられた。
ワタシが掃除や明日の準備をしていると、黒服2人がやって来た。
「お疲れさまです。千尋さんあがってください。後はやっておきます。」
「あんがとー。でも、あとグラス拭くだけやから。」
「やっておきますよ。」
「あがってください。」
2人に急かされて、仕方なくスタッフルームに行き、携帯を見ると、昂大からラインが入っていた。
もう来てるんか。それで黒服君達が…。
黒服達は、最後のお客様を見送りに外に出ているのだ。それで昂大を見たようだった。
外に出ると昂大が車からいつものように手を振って待っていてくれた。
「タダイマ。」
「おかえり、千尋ちゃん。お疲れ様でした。今日は父さんが来る日だったね。」
車を走らせながら、楽しそうに話す。
「接待されてたようやよ。」
「ウン。」
「お父さん?接待上手で驚いた。でも、さすがやと思ったわ。」
「父さんの人脈やコネは、僕には一生かかってもかなわない。」
「そうなんや。」
「さりげない気遣いとブレない信念で、顧客満足度がマイナスになったためしがないんだよ。クレームも最終的に父さんに丸投げ状態になる時も、結局穏便にすんじゃうんだよな。そもそも、社長が出るような大きなクレームのはずなのに。どうやっておさめてるのか聞いた事があるんだけど、ただお詫びに行って、お酒を飲んだだけだって言うんだよ。」
「怒ってはるお客様を、どうやってお酒飲むとか説得できるんやろ…。」
「だよね。社長マジックって言われてて、僕もわからない。」
「ウーン。マスターといい、和義様といい。どんな隠し技持ってるんやろね。」
「マスターなら、わかりやすい。」
「ん?どして?」
「マスターは、剣を隠し持ってる。」
「剣?」
「ウン。千尋ちゃんの前の席。あそこのゴールドチケット、実際チケットはないけれど、それをチラつかせれば、大概の苦難はなんとかなりそうだもん。」
「ナルホド。」
「それに、月1のイベの招待券とか。マスターはレアなものをたくさん持ってるよね。」
「考えたことなかったけど、確かに。」
「タブン、なかなか出さないだろうけど。カウンター席に座れる権利は。」
「厳選してるとは聞いたけど、そんな使い方があったとは思わなかった。」
「やり手だよね。最終手段だろうし、そこまで困るまでに、マスターなら解決しちゃってると思うけどね。」
家に着くと、キッチンからお馴染みの香りがした。
「ンフフ。冷凍してあったカレー。頂いちゃった!」
「かまへんよー。食べてくれてありがとう。」
「美味しすぎて、明日の分もと思って、いくつか一緒に解凍しちゃった。」
「ウンウン。」
ワタシが嬉しそうにしていると、
「ネェネェ、もしかしてそうするだろうって解ってて、たくさん作っといてくれたんじゃない?」
「ん?どうだろ。」
実は、当たっている。たくさん食べてくれるだろうと、いつもより多めに作っておいたのだ。
ワタシは顔がニヤニヤするのを防げないだろうと、そのままお風呂の準備を始めた。