片付けは、分担表に従い、店の全員でするので、割りと早く片付く。
分担のない昂大は、マスターの指示に従って、テキパキかたづけていた。
テーブルや椅子もピカピカに磨かれ、いつものお店に戻った。
片付けが終わり、みんな明日のために続々と帰っていく。
ワタシも着替えを終えてロビーに戻ると、昂大とマスターが話をしていた。
「終わったよ。お疲れさまでした。」
「お疲れ様でした。」
と、ニコニコ顔のマスター。
「お疲れ様でした。千尋ちゃん。帰ろうか?」
昂大は、酔ってないようだった。
「和義様は?」
「とっくに帰ったよ。来月も招待されたいとかなんとか言いながら…。」
マスターは、さっきとはうって変わって、なんとなく悲しそうだった。
「なんで悲しそうなんです?」
「招待されるために、頻繁にここへ来るとか言ってた。」
「いいことじゃないですか。マスターの思惑通りでしょう。」
「千尋ちゃん、田上様から、僕の薄暗い過去の話しとか、聞いてるでしょう?」
「そんなには…。」
「嘘だ!」
「薄暗い過去とか何ですか?」
「僕のあることないことをベラベラと…。」
「全部あることでしょうに。」
「ヤッパリ、聞いてるんだぁ。」
「そんな器の小さいことでどうしますか!」
頭を抱えたマスターに、いままで黙って聞いていた昂大が、
「マスター。僕は器が小さいなんて、思ってないから。」
と、小さくフォローしたようだが、ただ追い討ちをかけただけのようだった。
マスターは、
「お疲れ様。」
と片手を挙げて、フラフラと社長室に向かって歩いていった。
「帰ろっか?」
「大丈夫かな?」
「何が?」
「マスター。」
「明日には忘れてはるから、大丈夫。」
「そか。じゃ、帰ろ。」
昂大が手を出すので、つい手を繋いでしまい、慌てて手を離そうとしたが、更に強く握られてしまい、カバンで隠そうとしたら、繋いだ手を胸の前に持っていって、腕を挟み込まれてしまった。
「昂大。」
「皆知ってるのに、隠すなんて変だよ。」
「隠すっちゅうか、ハズカシイねん。」
「僕は、もっと千尋ちゃんの彼氏だって知ってほしいし、自慢したい。僕のことがハズカシイの?」
「ちゃう。ワタシがどんな顔になってるかわからんから、ハズカシイねん。」
「そうなんだ。ヨカッタ。今の千尋ちゃんの顔は…。」
と言って、ワタシの顔を覗みこむ。
「スゴク綺麗。照れて恥ずかしがってる千尋ちゃんは、ホントにあどけなくて、守ってあげたい。」
ワタシは更に顔が熱くなるのを感じて、
「タクシーさん待ってはると思うから、急ご。」
と、先にたって歩き始めた。
店の前に、ちゃんとタクシーは待っていてくれて、2人で乗り込む。
「家までお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
手を離さない昂大に、気になっていたことを聞く。
「昂大、酔ってないよね?飲まなかったん?」
「飲んだよ。でも、酔うほどじゃない。というか、ほとんどウーロン。」
「なんで?」
「千尋ちゃんの出番まで、飲まないでおこうと思ってた。」
「お嬢様達、許してくれた?」
「モチロン。たくさんいじめたから、許してあげるって。でも、千尋ちゃんの仕事の邪魔はしたらダメだって言われて、カウンターに行くのは許してもらえなかったんだ。」
「ナルホド。」
「千尋ちゃんの衣裳。それに、振り付け…。近づき過ぎというか、腰とか持っちゃってた。それがなければ、最高だったのに…。」
「衣裳と振り付けって、どうしようもない所やねんけど。それさえなければって、それしかないんやけど。」
「わかってるよ。わかってる。でも、もっとお肌は隠して、振り付けも、もっと離れて出来なかったのか…ってマスターに愚痴ったら、マスターが、よくわからないんだけど、もっと自信を持てとか言い出して…。」
アイツ…。
「なんか言ってた?」
「ウウン。それだけだけど。」
「そっか。」
タクシーは、無事家まで送り届けてくれた。