「今日は父の奢りなんです。僕の給料では、ここに来ることも、ボトルをいれることもできません。」
「でも、昂大のおかげで、この席に座れたのだから、ボトル、お前のもいれておいてやる!」
「なんか、上から言ってるケド、会員は父さんダケだから、僕1人で来られないの、わかって言ってるっしょ。一緒に来る気だろ?」
「バレタ…。アイツが…。邪魔をして、なかなかこの店に来れないんだよ。お前がいないとムリ…。」
「マスター、僕と美咲に甘いからね。」
そう言って、昂大様は、ニコニコ笑った。
「美咲様?」
マスター…。まさか、もう1人…。
「美咲は、僕の妹。」
「美咲は、僕の娘。」
2人同時に答えた。
「ナルホド…。」
マスターよ。どんだけ、子供にヨワイねん…。
「千尋さん。マスター、子供にダケ甘いわけではないんです。彼は、僕の妻にもヨワイ。」
そう言って、親子でお腹を抱えて笑っている。
「なんとなく、わかるような気がします。」
ワタシは、哀れなマスターを思って、チョッピリ同情した。
「他の店を紹介された言うてはりましたケド、よく今まで、この店に来ることを、マスター拒めてましたねぇ。」
「アイツ…。僕にだけは、強気なんだ。何だかんだで、チョロチョロとごまかして。」
「チョロチョロごまかすのは、よーくわかります。」
「でしょ。」
ワタシと和義様が、同士を見つけたように、頷きあっていると、
「裏エンペラーの噂を僕が聞いて、マスターにお願いしたんです。そしたら、チャッカリ父が、一緒に行くと言い出して。いい歳なのに、父もマスターも、学生かって感じですよ。」
「仕方ないじゃないか。」
「どこから仕入れたんです?僕がエンペラーに行くこと。」
息子につっこまれて、タジタジの和義様を助けるべく、
「お二人に来ていただけて、ワタシはほんまに嬉しいです。」
そう言って、助け船を出すと、
「僕が、独占できるはずだったのに。」
やぶ蛇…。だったようだ。
「千尋さん。関西出身ですか?」
強引に和義様が、話を180℃を変えた。昂大様は、まだ和義様をにらんでいる。和義様は、見ないようにしている。
「そうです。」
「関西というか、京都じゃないですか?」
機嫌はなおってなさそうだが、昂大様も話しに乗ってきた。
「東京に来て何年?」
「20年弱ですが、標準語に慣れなくて、変な発音になるんです。バーテンダーですし、話すこともあまりないやろと思って、標準語で話す努力もやめました。」
「言葉は標準だけど、イントネーションが違うんだよね。」
昂大さまが、少し嬉しそうに、
「そっかぁ。裏エンペラーには、秘密が色々あって、その事を誰も話さないって噂は、本当だったんだね。」
「昂大。そんな噂があるのか?」
「京都出身なんて噂、飛んでない。だけど、僕達がわかるほどに、話したら、すぐ京都とはわからなくても、関西だってわかったのに、誰も話さないんだよ。僕達だって、たぶん誰かに聞かれても、話さないだろ?」
「確かにね。話さないというか、話したくない。」
「そういう事だよ。裏エンペラーの事を、誰もが秘密にするっていうのが、噂の真実ってことかな。」
「ナルホド…」
と、ワタシも一緒になって頷いていると、
「千尋さんも一緒に頷いてどうするの。」
「噂関係には疎くて、ワタシもよくわからないので。」
2人が同時に笑った。
「まだまだ、たくさん秘密がありそう。」
「秘密にしてることなんて、1つもないんですよ。」
「千尋さんにとっては、秘密ではないんだろうケド、僕達にとっては、秘密にしておきたいこともあるんですよ。ね、父さん。」
2人で肩まで組んじゃって…。
「プライベートな事が、1つも噂されないなんて、不思議だけど、たぶんそれも、皆共通の秘密なんだね。」
昂大様が、閃いたと言わんばかりに言うと、
「昂大、お前どこから仕入れてるの?」
「何を?」
「情報。」
「企業秘密。」
「チッ。」
「チッ、って言ったね。母さんにチクルよ。」
「母さんはやめろ。」
「じゃ、聞かないで。」
「…。」
「和義様。夜の街は噂だらけです。でも、エンペラーのような高級店は、人の出入りも制限されます。なので、逆に、小さなお店で飲まれると、あらゆる噂や情報なんかが、飛び交うんですよ。」
ワタシが笑いながら、そう言うと、
「そ。父さんが行く高級店でなんかじゃ手に入らない、いろんな事を、僕は知ってるんだよ。」
「昂大様は、そういった小さなお店に行かはるんですか?」
「僕、平社員だからね。」
「社長さんの息子さんなのに?」
「社長の息子って、誰も知らないんですよ。」
「エッ?」
「世襲制は、僕自身も反対なので、実力で頑張ろうかと。父もそうだったので。」
「素晴らしいですね。実力で認められたなら、誰も文句を言えないですもん。」
「僕の会社には、とりあえず入社してもらったんだケド、ほんとは他にも内定決まっててね。他に行きそうで怖かったから、先に押さえたんだ。」
「昂大様は、他の会社に勤めようとしてはったんですか?」
「ウン。コネとかなんとか言われるのめんどくさかったから。そしたらこの親父。あらゆる手を使って。」
「あらゆるってほどじゃない。母さんがいたから。」
なんとなく、家の組織図が見えてきた。
「お前が発揮するであろう未来の実力を、僕が逃すはずないだろう。」
「実力があるかどうかなんて、わからないじゃない。」
「あるに決まってる。お前は僕の息子だからね。」
そう言って、和義様はニコニコ笑った。
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