セ ッ ク スと食事ってのはよく似てる。


快楽で罪悪感を誤魔化すあたりはそっくりだ。


ひとつまみの恋が、ひとつまみの塩が、どんな下手物も美味しくしてくれる。


俺たちは恋をすれば誰とでもやるし、ちょっと味付けすればなんでも喰う。


この一手間がけだものとの境なんだけどな。


だからあれだ。


口はま ん こと同じだ。


普段は閉ざして上手く隠しちゃいるが、美味しそうなものを見つけてみろ。


ま ん こは愛液で濡れ、口の中は涎まみれだ。


口説き文句なんて、口から糞を吐く行為だ。


そんな口で、俺の名を呼ぶんじゃねえ。



しかしこの、一手間ってのが、どうにも俺をナイーブにさせやがる。


猿みたいな汚らわしい生き物との違いはここだ。


彼奴らから見たら俺たちはさぞ滑稽だろう。


交尾するには聖書より分厚いマニュアルが必要なんだ。

飯を喰うには屍骸をどうやっていたぶるか、じっくり吟味する。


性癖ってのは性欲じゃない。
欲望を取り繕う様式美なんだ。


俺はうんざりしたんだ。


ナイーブを臆面なく書き殴る自分に。


インクの匂いもしない文は、ゆきずりのセ ッ ク スみたいなもんだ。


ザ ー メ ン臭い布団にくるまって眠る。
同じ夢なんて見やしない。
セ ッ ク スを知らない子どものままごとと同じ。


俺は恥ずかしくなったんだ。


欲望を持て余していることに。


誰にも話していない昨日視た夢がそうさせるんだ。


反抗期の時みたいに肥大した自意識がそうさせるんだ。


そんな時は、消えてなくなりたいと思うもんさ。


なんつうか、魂の容れ物が汚らわしく思えるんだ。


何日も洗っていない洋服を着ている様に。


この俺は俺じゃない。


行間に生きるのはやめろ。


そいつを殺して、楽しいことだけやって生きるんだ。







親父が死んで、一ヶ月が経とうとしている。

死因は急性心筋梗塞だった。

親父が逝った時、どうしても己が赦せなかった俺は病院の壁を思い切り殴った。

人生であそこまで気持ちの入ったパンチは初めてだっただろう。

その結果、俺は右拳を粉砕骨折し、手術するはめになった。

傷みが俺の罪悪感を解消してくれることを期待したが、骨を軋ませる狂おしさは戒めであると、やり場のない感情を説得するほか、なかった。

おそらくこの先、時間や日々の雑多が俺の哀しみや怒りを和らげるであろう。

しかし俺は、自分を一生赦さないと決めた。


死の前日まで、俺は親父を愛していなかった。

彼の死はなんと憐れであろう。

畳の上ではなく、仲の良い友人の傍で死ねた事は、親父にとって最上の死に方であったのかもしれない。

それは俺にとっても、唯一、幸いなことであった。


親に死に場も与えられず、母の支えにならねばならないはずの俺のザマはなんと惨めなことであろう。


俺は喪主を努め、親父を見送りに来てくれた人達にひたすら頭を下げ続けた。

あんなに人様に頭を下げたのは初めてで、今では礼も堂に入ったものだ。


仮通夜の日、親父と供に斎場に寝泊まりした俺と、母と、妹は沈黙に耐え切れず、俺がたまたま持っていたiPodで延々とブルーハーツを聴いて夜を明かした。


様々な事務的な手続きに追われ、一ヶ月が経とうとし、間もなく四十九日を迎えようとしている。

喪失感は、同時に、死の存在感を認識させる。

この現象はやはりドーナツの穴のようだ。

でもわからない。

親父はいつ、死んだのだろうか。

医者が俺達に伝えた臨終は、三月九日午後三時丁度。

その四時間程前、家を出ていく親父を俺は見掛けた。

あの時の親父は生きていたと考えてよいのだろうか。


死から生を逆算した場合、結局、誕生の瞬間まで末期の匂いが漂ってしまう。

おそらく、このように逆算してしまうのは俺がまだ親父の死を受け入れることが出来ないからだろう。

だから死を、生をさかのぼり、何か自分に出来ることはなかったか探してしまう。


おかげで死と生の境界はますます曖昧だ。

生きるか死ぬかを選択させる絶望は、武士の切腹のように己の尊厳を護るための名誉である。


自分が酷く厭世的になっているのがよくわかる。


俺は母や妹を助けねばならぬので、厭世観を棄て、社会に少しでも迎合していようとここに駄文を重ね、愛想笑いをしようとしてきた。


俺は混乱し迷っている。

文を書けば書くほど死は俺を魅惑し、取り込まれ、追求せずにはいられない。

絶望に対する選択に、なんのためらいを持たない自分が怖くて仕方ない。

社会的に禁じられた快楽のように魅力的なのだ。


だから一度、考えるのを止めてみようと思う。

禁酒か、禁煙か、禁欲か、
或いは筒井康隆のように断筆か、
なんでもいいけれど、俺はちょっと疲れてしまった。


御清聴、ありがとう。








僕が希望とかいつ求めたであろうか


強く輝く光はより一層、影を際立たせる


長く伸びる影は現世に生きる唯一の二次元からの存在だ


さして仲良くなろうとも思わないが、健気に、粛々と僕と交わろうとする稀有な存在だ


彼(或いは彼女)と交わる時、それは僕が生命の維持を辞し、地に臥した時に相違ない


肉体が朽ちて地に還るならば、細胞のひとつひとつが影と交わるのも可能であろう


つまり影とは、僕のあるべき死の姿なのであり、常に死の匂いを背負って生きているのだ