結婚した友人や、会社の同僚に「子供とか考えてるの?」と聞いたことはありませんか?
その言葉は「地雷を踏んだかもよ」ということを書きたいと思います。
先日公開したnoteは、多くの方がシェアをしていただけたおかげで、閲覧数は3,000件(2018/7/17時点)まで伸び、経験者/治療当事者から情報共有もどんどんいただいている状況です。本当にありがとうございました。
経験者/治療当事者から寄せられた経験談の中で、「治療をしながら働く大変さ」についての言及がいくつもありました。今回は、その現状と周囲の言葉が本人を傷つけている可能性があるということをテーマに書きたいと思います。
■当事者が向き合う「3種類」の負担
まず、不妊治療をしながら働く方、特に女性がどのような負担を抱えながら働いているのかを、ヒアリングした内容をもとにご紹介します。
企業勤めをされている方、特に部下を持たれている方には知っておいて欲しいです。
治療中の負担は、大きく分類すると3種類に分かれます。
1)身体的な負担:薬の副作用など
2)精神的な負担:不安や悲しみ、自己嫌悪、そして周囲へ気疲れ
3)経済的な負担:高額な治療費がいつまで続くかわからない不安、そして「経済的に諦めなければいけないときがくる」という不安
1) 身体的な負担:薬の副作用など
治療経験者の方へのヒアリングをしていると、
「薬の副作用が辛い。仕事をしているときに体調が悪くなると、理由を伝えることも出来ず、本当に辛い。」
という「薬の副作用」についての負担を多くの方から伺いました。
治療に取り組む中で、女性は「排卵誘発」などのために薬を服用します。副作用が出ない方もいらっしゃいますが、体調不良になる方は多くいらっしゃいます。
もし職場で治療をしている方がいると分かっているのであれば、さりげなく体調を気遣ってあげて欲しいと思います。
しかし実際は、ご本人が周囲に、治療のことを伝えていないケースがほとんどだとは思います。
周囲に伝えていないケースだと、「体調悪いの?どうしたの?」と聞かれても「大丈夫です」と答えるしかなかったり。。。
なので、もし「最近体調が悪そうな日が増えたな・・・」と思ったら、「もしかして」と、治療の可能性もほんの少しでいいので考えてみてください。
そして「さりげなく」体調を気遣ってあげるのは、ささやかながらも支えになるのではないかと思います。「言葉にはしない気遣い」があると本人も助かると思います。
そうした「気遣いのある環境」が、「治療のことを伝えやすい環境」に変わるかもしれません。
2) 精神的な負担:不安や悲しみ、自己嫌悪、そして周囲へ気疲れ
「今回もダメだった・・・いつになったら妊娠できるのだろう・・・」
「友人が出産したとき、素直に喜べなかった。LINEではスタンプを送るのが精一杯だった。そんな自分が嫌になった・・・」
「クリニックからは急に通院日を指定されるので、仕事の予定調整が毎回大変でストレスがたまっていました。職場にはかなり気を遣っていました・・・周囲もかなり気遣ってくれていて、ありがたいのですが・・・」
こんな声を、たくさん伺いました。
まず、不妊治療は終わりが見えません。体外受精の手術をしたからといって、必ず妊娠できるわけではありません。
不妊治療では、投薬治療をしながら排卵促進などを行い、タイミングをみて人工授精や体外受精などを行います。そして妊娠したかどうかの結果を待地、残念ながらも生理がきたら、「リセット」となります。そしてまた、投薬・・・という繰り返しです。
何度か「リセット」が続くと、「自分はいつまでこの治療生活を送るのだろうか・・・」と終わりの見えない不安に潰されそうになります。
そういった不安を抱えていることを、知っておいて欲しいと思います。
また、辛いことの一つが知人の「妊娠報告」。
もちろん、とても素晴らしいことで、祝いたい気持ちはある一方、「羨ましい」「なんで自分だけ。。。」という感情が生まれてしまう。
そしてLINEグループ、インスタ、Facebookで報告が来ても、「スタンプを押すので精一杯」とう状態に。
そんな「ブラックな自分」に気づいてしまい、自己嫌悪に陥ってしまうんです。
最後に、仕事と通院のスケジューリングの大変さ。
通院スケジュールは突発的に決まっていきます。血液検査をして、「ちなみに、明後日も来てください」みたいなことが普通に起こります。
働きながら治療をしている方にとっては、実は仕事のスケジューリングがとても大きな負担になっています。
周囲に伝えていない場合は、「前回は休む理由で歯医者を使ってしまった、、、理由づけをどうしよう」という不安とストレスにも向き合っています。
こういうことを考えると、やはり「伝えやすい上司/部活との関係性作り」や「職場の理解」がとても大切であると思います。
3) 経済的な負担:高額な治療費、そして「経済的に諦めなければいけないときがくる」という不安
不妊治療にかかる費用は、どれほどなのか。一般的に、1回のチャレンジにつき以下のような治療費がかかると言われています。
病院でのタイミング法:約5千円~1万円
超音波検査や尿検査などで排卵日を予測し、タイミングをあわせてセックスをし、自然妊娠を期待するというものです。
男性の精子に異常がなく、不妊の原因がはっきりしない場合に、まず行う方法です。
人工授精:約1万円~3万円
排卵のタイミングにあわせて精子を採取し、濃縮などの処理をした精子を、子宮内に注入し、自然に妊娠することを期待する方法です。
タイミング法を続けて結果が出ない場合の次のステップとして行うことが多いです。
体外受精、顕微授精:約30万円~70万円
女性の体から卵子を取り出して、採取した精子と容器の中で受精させ、その授精卵を女性の体にもどす方法です。
前述のタイミング方や人工授精では妊娠できない、または妊娠しなかった場合や、女性の年齢が高く妊娠を急ぐ場合などに行います。
顕微授精は、顕微鏡下で卵子の中に精子を直接挿入させる方法です。
これらは、一回で妊娠することはないため、何度かチャレンジをすることになります。
体外受精のステップまで進み2回の施術で妊娠するケースだと、以下のような費用がかかります。
トータル費用:約80~130万円
・タイミング法4回:約3~5万円
・人工授精3回:約3~9万円
・体外受精:60~100万円
・その他薬代など
そして、別に「体外受精を2回やれば妊娠する」という確証もなく、常に「今回で終わるだろうか・・・」という不安を抱えています。
また、経済的な負担が大きいため、「いつまでも続けられない」という問題もあります。
「治療を辞めざるをえないとき、自分は諦めがつくだろうか」
「子供のいない人生を、受け入れられるだろうか」
そんな不安を抱えていることを、知っておいて欲しいと思います。
「地雷」踏んでませんか?
上記の「治療をしながら働くということの負担」、そして「世界一の不妊大国、日本」という状況を知ったら、「子供とか考えているの?」という発言が、どれだけ相手を傷つける可能性を持っているのかを理解できると思います。
治療をまだしていなくても、「子供ができなくて悩んだことがある夫婦」は3組に1組は存在します。
そして、当然のこととして、「結婚するかどうか」や「子供を持つかどうか」は個人が持つ権利であり、これだけ価値観が多様化した現代において、他人が干渉すべきではない領域の話になってきています。
「世界一の不妊大国、日本」と言われる日本において、「子供とか考えているの?」は地雷を踏みにいっている。
少しでも多くの方に、こうした事実が届けばいいと思います。
ただ、本質的には「地雷を踏まないようにする社会」ではなく「地雷の根源が生まれない社会」を目指すべきなんですけどね。頑張ります。
今回は以上です!ありがとうございました!
(お知らせ)
Twitterでは、毎日「不妊治療」や「性教育」に関することを呟いています。
一度、覗いていただけると幸いです。