地元に戻り、転職し、少しずつ精神の状態が

回復しているわたしに届いたのは一通のはがきでした。

……前の職場の、唯一の女の先輩の、結婚式の招待状でした。

その結婚式には、わたしと仲の良い同期が何人も出席する

とのことでしたので、わたしはすぐに返事を致しました。

……これが、さくとの二度目の出会いに繋がるわけです。


結婚式の日にちは、3月31日でした。

結婚式が隣の県で行われるというとのことで、前の職場からは車で4時間程かかります。

わたしの地元は、その結婚式会場までの道のりの、

通り道でしたので、途中で拾ってもらえることとなりました。

その車を運転していたのが、さくでした。

さくはわたしをみて、開口一番に「いずみ、痩せたなー」といいました。

わたしは「そうですかー!?ありがとうございます!!」と元気一杯に答えました。

それからは車内で長時間運転しているさくのことなどお構いなしに、

久しぶりに会った同期たちと昔話に華を咲かせていました。

けれどわたしは、本当は少し気付いていました。

わたしだって女の端くれなのです。

……さくが、あわよくば、と男の本能を出しつつあるということを。

その予感が確信に変わったのが、結婚式の会場についてすぐのことです。

さくは、わたしにわざわざ煙草を持つよう言いました。

わたしは二つ返事で了承し、煙草を鞄に潜めました。



その日の深夜のことです。

ホテルの部屋に着いて少ししてから、わたしの携帯がメールを受信いたしました。

送り主を、わたしは携帯の画面など見ずともわかっていました。……さくでした。

さくは間もなく、海を渡り、さらにかなりの時間車を走らせなければ辿り着かない、

遠い地への転勤がそのときすでに決まっておりました。

さくからのメールは、その転勤話もあり、

わたしとちょっと話がしたいという内容でした。

……わたしはさくから預かった煙草を手に取り、化粧を落として部屋を出ました。

きっと、わたしはどこか寂しかったのです。

だれかに、愛されたかったのかもしれません。

もしくは、ただ単に断ることに気が引けたのかもしれません。

わたしは自他共に認めるほど「頼まれると断れない」人間でしたから。


部屋に着くと、まず、ホテルの浴衣姿に着替えたわたしを見てさくは

「そんなラフなかっこうできたんだ」と苦笑いをしました。

さくはTシャツにジーンズで、煙草を吸っていました。

わたしはお邪魔します、と部屋に入り、

ベッドに座るさくの隣に腰を下ろしました。

なんだか、変に緊張しました。

さくは、ぽつりぽつりと呟くように話をしていました。

いまの部下(わたしも知っている子です)が反抗的な態度で、どうしようもないこと、

転勤話がすぐ目の前まで迫っていること、

わたしのことがずっと心配だったこと、

そして今日、わたしの元気そうな姿を見て安心したこと……

さくは結構自分で喋りたいというタイプでしたので、

わたしははい、と、相槌をなんとなく打っておりました。

そんな中でさくはわたしに「ぎゅっとしていいか?」と聞いてきました。

まあ、ハグくらいなら……わたしはOKをし、さくは力強く、でも優しくわたしを抱きしめました。

さくは髭を伸ばしていたので、さくが時折頭を動かすと、首筋にさくの髭がこすられ、

くすぐったくて身をよじったりしていました。

……ですが、ただ単に久しぶりの感触に、緊張していただけなのかもしれません。

そして、ハグだけで終わるはずがありませんでした。

わたしから体を離すとさくは「キスしていいか?」と聞きました。

わたしはそれにはあえて返事をせず、俯きました。

そんなわたしの頬をさくの手が包み、そのまま、わたしは引き寄せられました。

……それが、わたしとさくの本当の「はじまり」でした。


このとき、わたしがさくを突き放していれば、わたしはこんなに泣くこともありませんでした。

けれど、幸せだと思えることも、人をもう一度信じてみようと思うこともなく、

ただなんとなくすぎる毎日を流されるかのように過ごしていたのかと思うと、

それはとてももったいないことだということに気付きました。


不器用で、誰かからの愛情に飢えていたわたしと、バカ正直で嘘がつけない、ちょっと

大人気ないさくが出逢えたのは、神様がわたしにくれた贈り物なのかもしれません。


事が済んでから、さくはわたしに言いました。

「一緒に朝までいよう」

その一言に、わたしは正直、驚きました。

わたしは事が済んだらそそくさと自分の部屋に戻るつもりでしたから。

……というのも、さくは戻って欲しいと思っている、とばかり思ってましたから。

すこし、その一言がうれしかったのです。



わたしはそれだけでもうれしいくらい、誰かから愛されたくてたまりませんでした。

だけど、さくが結婚していることも当然、知っていました。

間もなく、奥さんの待つ家に帰ってしまうということも。

……一度彼を愛してしまえば、深く傷つくのはさくではなく、わたしだけだということも。

わたしは滑稽でしょうか。わたしは……いつまで経っても、バカな女でしょうか。