地下鉄に乗った。



立ちながらドアにもたれて、小説を読んでた。




車内が込んできた。




僕の真横にも一人の男性が立っていた。





男性はケータイをピコピコいじっていた。






いじりながら歌っていた。





走行中でガタゴトうるさいのをいいことに歌っていた。







その人の歌がガンガン僕の耳に飛び込んでくる。






コブクロの『蕾』だった。







「消えそうに~♪」






彼の歌の魔力に僕の集中力は消えていった。







もう小説は読めない。








地下鉄を違う線に乗り換えた。







乗り換えたら、またその人と同じ車両に乗った。






彼の隣をキープしてやった。







地下鉄がガタゴトうるさいのをいいことに、歌ってやった。








コブクロの「桜」。







「桜の花びら散るたびに~♪」







僕の声も騒音の中に散っていた…。