いじわる(4)
目覚ましの音が痛いくらい腰と頭に響いて思わず顔をしかめると,尚人は手を伸ばして目覚ましを止めた。
「っつぅ・・・」
口に出しながら目覚し時計を覗きこむと、短針はすでに8時を回っていた。
「やばい!」
集合時間まで時間がなくて、勢いをつけて起き上がろうとした尚人はあまりの腰の痛みに再びベッドの上の隆の上に折り重なるように倒れた。
「・・・・・・なに。どした?」
緊張感のない声の主が,胸の上の尚人を抱きしめ下に引き込もうとする。
「ばっ!お前のせいだよ。遅刻するだろうが、どけ!」
怒鳴られると,眠そうな目をこすりながら「いくの?」と、口をもぐもぐと動かして,聞いた。
「あたりまえだ!ほら,お前も起きろよ!」
軽く頭を小突く。
「でも,それじゃあ尚人は出来ないじゃん」
「誰のせいだよ。だれの・・・」
「俺だよ。尚人は全部俺のだもん。俺のこと好きだろ? 大切だろ? 尚人」
「なに言ってるんだよ。俺はお前と違っていろいろやんなきゃいけないことがあるんだよ。だから、哲哉も仕事も、松本もサッカーもみんなすきなんだっ!」
お前が一番だけどな。心の中で付け加えておいた。
そう言い残すと、尚人は痛みをこらえて起きあがると寝室を抜け出した。
ブルーのユニフォームを着た彼等がグラウンドを走るのを、目頭に手を当て眩しそうに目を細めた尚人が眺めていた。
「この暑いのに頑張ってるじゃない。尚人君」
相変わらず格好だけは一人前に決めた哲哉がそう言いながら隣に並んだ。
「来たの?」
「来いって言ったでしょう。貴方」
「そうだっけ?」
すっとぼけて見せる。
「それに僕。スポンサー様だから」
胸を張ってそう答えた哲哉が尚人を上から下までを眺めながめる。
「それよりそれ,暑くないの?」
アディダスのジャージを首から足先までびっちりと着こんでいるのを指摘した。
「ひ・・・人のこといえないだろ!」
「大丈夫。僕はちゃんとサンオイル持ってきたからね」
意味不明の言葉をかえす。
「独占欲強いのも大変だよね。こ~んな暑い日に暑苦しいかっこうして、楽しみにしていた練習までサボらせるなんて・・・いやぁ、本当に愛されてるよねぇ。尚人君」
感心感心。どうせなら,そのエネルギーを仕事でも発揮してくれたら良いのにねぇ・・・と、一人納得しているその横で、サングラスをかけた。
「あ、そうだ! 後で,松本達が差し入れ持って遊びに来るから、仲間に入れてくれって言ってたよ」
思い出したように口にする哲哉の言葉が終わらぬうちに、大声とともに松本本人が現れた・・・
「尚人さーん」
「げっ」
「あ,練習終わったのかなぁ」
言われてグランドに視線を戻すと,本当にみんなが引き上げてくるところだった。
隆のタオルを手に歩き出そうとした尚人を松本が呼びとめる。
「尚人さんは練習してないの?」
「・・・・・・どうも」
残念そうにそう聞いた松本の後ろにいつものようにひっそりと篠原が立っていた。
「今日は練習日だって言うからさし入れ持ってきたのに。こっちは、尚人さんの分で篠原のやつはみんなの分」
小さなクーラーバックを持ち上げて見せた後、篠原の大きなクーラーボックスを指差した。
(・・・・・・自分で持たずに篠原に持たせるなんて,しかも重そうなのに・・・・・・)
あきれながらやっとのことで例を言うと,篠原は不機嫌疎な顔を眉ひとつ動かさずに頭を下げた。
「尚人!」
篠原に輪をかけて不機嫌な声が尚人を呼ぶ。
声だけで不機嫌さが伝わるだけに振り返らずにいると隆に肩を引かれ大勢のギャラリーがいるにもかかわらず、有無も言わず抱きしめられた。
自力で脱出を図ったが失敗に終わり,逃げる気力を失った耳元でぼそりと呟いた。
「なんでココに松本がいるわけ?」
(お,俺のせいじゃないぞ・・・哲哉が呼んだんだよ・・・だから,こんなとこでそう言うことは・・・)
隆の手のひらが尚人の腰のあたりをサワサワと這いまわる。
「仲がいいねぇ、二人とも」
面白そうに呟く哲哉に、尚人は(勘弁してくれよぉ~)と、心の中で悲鳴を上げた。
微笑ましそうにこちらを見ているギャラリーに尚人はこの後の展開を考えると頭が痛くなってきた・・・
-end-
ちょっとだけ続きがありますが,スクラップブックのみの公開になります)m