こちらの連載も再開です!
一応ラストまで考えてはいるので、今回は止まらずに行けるかなと・・・・たぶん。
お話の感想などもいただけたら嬉しいです!
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あっけに取られている社員たちを後に、俺は松本とカズを連れて部長室へと入った。
ここはうちの部署の一角に作られた小部屋で、一応部長である俺の部屋になっている。
と言っても全面ガラス張りになっていて部署からは丸見え。
防音ガラスだから声は漏れないけれど、仕事をさぼっていればすぐにばれる。
「お前、気をつけろよ。社員たちにばれたらどうすんだ」
俺の言葉に、カズはにやりと笑って肩をすくめた。
「心配しなくてもあそこで話すつもりなんてなかったよ。これでも空気は読める方なんで」
「わかってっけど・・・・。ああ、ごめんな松本。カズのこと、こないだ言おうと思ってたのに忘れちゃって」
「あ、いえ。あの、俺のことって・・・・」
松本が居づらそうに肩を揺らした。
「あ~、それね。ええと・・・・」
カズは相変わらずにやにやと俺を見ている。
まったく、面倒なやつに面倒なこと知られちまったな・・・。
「だから、これですよ」
そう言うと、カズが突然俺の席に座り、ノートパソコンを開いた。
「あ、おい!」
「会社のパソコンに、こんな私的なファイル置いとくから・・・あ、あった。ほら、すぐ見つかるじゃない」
「こら!」
カズが開けたのは、パソコンに保存していた松本を隠し撮りした写真を保存したファイル。
毎日こっそり撮りだめしてたやつだ。
仕事の合間にそれを見るの日々のが癒しだったのだ。
「あ、それ・・・・」
いつの間にか松本も一緒になってパソコンの画面を覗き込んでいた。
すぐ隣に立つ松本からは、ほのかに甘い香りがして・・・
―――横顔もかわいい。やっぱいいな・・・・
「ちょっとおじさん、俺の後ろで変な空気出さないでくれる?」
「変な空気ってなんだよ。てか、おい、それ全部消すつもりかよ!」
「だってこれ、本人にばれちゃったんでしょ?他の人にばれるのだって時間の問題だよ。おじさんの趣味嗜好のせいで松本さんがこの会社にいられなくなっちゃったらどうすんの」
カズの言葉に、俺はぐっと詰まる。
「それは・・・・困る」
「でしょ。心配しなくてもちゃんとUSBメモリに保存しといたから、見たかったら自分ちのパソコンで見なさいよ」
「・・・・わかった」
「そんながっかりした声出さないでよ。・・・松本さん、ごめんね。うちのおじさんが迷惑かけて」
カズがニコッと笑って松本を見た。
カズは普段は不愛想だが、自分が気に入った相手に対してはかわいらしい笑顔を見せたりする。
この笑顔はまさにそれ・・・・
何となく胸騒ぎがした。
「別に、迷惑とかじゃ・・・・」
「隠し撮りとかもばれたらまずいからもうやめさせるんで。その話をするために松本さんを呼んだんでしょ?おじさん」
「ん?ああ、そう。実は・・・酔った勢いでカズに松本のこと話しちゃってさ。そしたら、隠し撮りは気持ち悪いからやめろって。あと会社用のパソコンに画像保存するのもやめろって言われて。それから、松本にちゃんと謝れって言われて」
「え・・・俺に?」
松本が意外そうな顔をする。
「隠し撮りしてたこと、ごめん。これからは撮りたいってちゃんと言うわ」
「・・・・はい」
きょとんとしながらも素直に返事をする松本。
普通だったら気持ち悪がられそうだけど。
松本はそんな様子を微塵も見せない。
俺が上司だからっていうのもあるかもしれないけれど、それでも、松本のそういう素直な反応がかわいくて仕方なかった・・・・。
智くんと松本、それから本社から出向してきた二宮が揃って部長室へ行くと、俺たちは通常通りの仕事に戻った。
けど、俺はどうも仕事に集中できずにいた。
あの二宮という社員が智くんの従弟だったということにも驚きだけど・・・。
年の離れた従兄弟がいるということは聞いたことがあったけど、本人とは会ったことがなかった。
しかも同じ会社の、本社に勤めていたなんて。
あんまり自分のことは話さない人ではあるけども。
いや、それよりも。
なんで松本が一緒にいるんだ?
智くんと二宮がどんな話をしているのかは知らないけど、どうしてそこに松本まで呼ばれるのか。
まるで意味が分からなかった。
「課長、この得意先の件ですけど―――」
「あ、ああ、何?」
社員に話しかけられ、俺は慌てて頭を切り替えたのだった。
しばらくすると松本と二宮は自分の席へ戻り、仕事を始めた。
二宮は松本の隣で、松本の説明を熱心に聞いていた。
松本の肩越しに、パソコンの画面を見ている二宮。
その距離が妙に近くて、俺の胸がざわざわする。
いや、一緒に仕事するわけだし、松本のパソコンを見ているだけだと思えばなんてことないんだろうけど。
なんて言うか・・・・
時折松本の顔を見る二宮の目が、妙に熱っぽいような、そんな気がしたのだ。
「二宮さんの歓迎会やりましょうよ!」
昼休憩に入ると、入社5年目の女性社員、菊池がそう言って部署内を見渡した。
「お、いいね~、どこでやる?いつもの駅前の居酒屋?」
「あ、あそこ先週から改装中で休みだよ、確か」
「マジで?じゃあどっかいいとこないかな。松本、お前知らない?」
菊池と同期の宮本が松本を見る。
突然振られた松本が目を瞬かせる。
「え・・・俺ですか?」
「だってお前の自宅が一番会社から近いし。この辺、地元だろ?どっかいいとこ知らないの?」
宮本の言葉に松本はしばし考え。
「ないこともないですけど・・・・ちょっと、聞いてみてからでもいいですか?」
と言ったのだった。
外で昼飯を済ませ戻ると、ちょうど廊下で松本が電話をしているところだった。
「―――ほんとに?大丈夫?結構人数多いから、もし迷惑なら―――そお?それなら―――うん、詳しいこと決まったらまた連絡するよ。ありがと、まぁくん」
そう言ってほほ笑むと電話を終えた松本がくるりと向きを変え、俺に気づいた。
「あ、課長」
「電話、もしかして歓迎会の件か?」
「あ―――はい、まあ。友達の家が居酒屋やってて、そこなら紹介できるかなって。広くはないですけど、味は保証します」
そう言って笑う松本。
ちょっと恥ずかしそうに、でもなんだか誇らしげにそう言う松本はかわいかった。
「そうなのか。迷惑じゃなければ、ぜひお願いするよ」
「はい」
「そう言えば、さっき部長室で何話してたんだ?あの市二宮と」
「え・・・・それはその・・・・仕事のことで、ちょっと」
松本の目が泳ぐ。
素直というか、なんと言うか。
嘘が下手だ。
そんなところもかわいいと思ってしまう俺も、相当重症かもしれない、と思った・・・・。