こちらのお話も今回はちょっとシリアスです。
もちろんこのまま終わることはありません!
たぶん・・・・
明るいハッピーエンドをいつも心がけてるんですけどね・・・・。
とりあえず頑張ります!!



。・:*。・:*。・:*。・:*。・:*。・:*。・:*。・:*。・:*。・

 

 

「ごちそうさま」

潤が茶碗と箸を置く。

「潤くん、それだけ?半分も残ってるよ」

カズが心配そうに声をかけると、潤はちょっと笑って頷いた。

「今日、あんまりお腹すいてなくて」

「潤、大丈夫?具合―――」

雅紀も心配そうにそう言いかけたとき、ソファーの上のスマホが鳴った。

食事のときは、全員がスマホをソファーに置いておく決まりだ。


潤が席を立つ。

鳴っていたのは潤のスマホだった。

「―――父さんからだ。俺、自分の部屋に行くね」

そう言って、潤はスマホを持って部屋に入って行った。



俺たちは食事を続けながらも、お互いの顔を見た。

「・・・父さんからって、今日の件かな」

雅紀の言葉に翔くんが頷いた。

「たぶんね。あの後、教頭から電話あって、父さんに連絡したって言ってたから」

「あいつ、どうなるの?」

カズが興味なさげに言った。

「さあね。職員会議が開かれたっぽいけど、詳しい内容はわからない。でもたぶん、他の学校に転任てことで済ませるんじゃない?」

翔くんの言葉に雅紀もカズも不満そうだ。

もちろん俺も不満だけど。

「動画も画像も削除したし、触ったっていうのも授業中少し手が触れただけ、って言われたらそれ以上追及できないし。転任させられるなら今後はうちらに関わることはないだろうから」

俺がそう言うと、カズがため息をついた。

「潤くんは、他の子が被害にあわないようにって言ってたよ。もし、他の学校で同じようなことがあったら・・・」

「でも俺らには、これ以上何もできないよ。警察に言ったところで、写真撮られたってだけじゃ・・・」

「・・・潤、大丈夫かな。顔色悪かったし、食欲もないって」

雅紀が潤の部屋の扉を見つめた。

「―――後で、紅茶でも持って行くよ。確かクッキーがあっただろ。それと一緒に」

俺がそう言うと、3人は黙って頷いたのだった。





いつもは潤が一番先に風呂に入るんだけど、今日は『最後でいい』と言って部屋に閉じこもってしまった。

こんなことは初めてで、俺たちも戸惑っていた。

以前美術教師に襲われかけたときもケロッとしていて特にショックを受けている様子はなかった。

だが今回は―――



コンコン



紅茶とクッキーの乗ったトレイを持って、俺は潤の部屋の扉をノックした。

「潤、入るよ」

部屋に入ると、潤はベッドの上に体を起こした。

「寝てたの?」

「ううん。ごろごろしてただけ。クッキー?」

「うん。ごはん、あんまり食べなかっただろ?お腹すくと思って」

「ありがと、智」

そう言って潤は笑ったけれど、やっぱり元気がなかった。

「父さん、何だって?」

俺は潤の隣に座り、その髪を撫でた。

「教頭先生から電話あったって。すごい謝られたけど、とりあえずめちゃくちゃ怒っといたからって」

「ふふ・・・・父さんらしい。俺らにもメールが来たよ。潤のことを頼むって。心配してた」

「うん・・・・」

「潤・・・・?どうした?もうあいつは潤に近づかないよ」

「わかってる・・・。あいつに前から触られたりしてたこと、みんなに黙っててごめんね」

「いいよ。そりゃ言ってほしかったけど・・・・。俺らに心配かけたくなかったんだろ?」

俺はそう言って、潤の肩を抱いたけれど・・・・

潤はうつむいたまま、かすかに肩を震わせていた。


―――泣いてる・・・・?


「潤?どうした?大丈夫か?なんか・・・・あいつに、されてたのか?俺らが知ってること以外、何か―――」

俺の言葉に、潤は黙って首を振った。

でも、膝の上で握られた手には、潤の涙が零れ落ちた。

「潤・・・・?なあ、言ってくれよ。何があった?」

俺は潤の体の向きを変え、正面からその顔を覗き込んだ。

潤が、ゆっくりとその泣き濡れた顔を上げる。

大きな目にいっぱいの涙が溢れ、そのきれいな睫毛を濡らしていた。

きゅっと唇を結び、じっと俺を見つめるその目は。

なぜだか艶っぽくて俺の胸の鼓動が早くなった。

「潤・・・・?」

「智・・・・」

声変わりして、ちょっと低く、でも甘く鼻にかかるその声で呼ばれると、俺の胸がギュッと苦しくなる。

背も伸びて、もう俺にも追いつきそうだ。

でも中身はずっと変わらない『かわいい潤』のまま・・・・

「潤・・・俺・・・・」

潤が瞬きをすると、ポロリと涙が零れ落ちた。

あまりに綺麗なその涙の行方を追っていると―――

「――――!?」

突然、潤が俺に抱きついた。

潤の涙があっという間に俺の肩を濡らす。

「じゅ・・・ん・・・?どした・・・・?」

ドキドキしているのを気付かれないように、俺は平静を装う。

そっとその震える背中に腕を回して、優しく抱きしめる。

「潤・・・・」

「智・・・・俺・・・・ずっとここにいてもいい・・・・?」

「あ・・・当たり前だろ?急に何言うんだよ。俺たちは家族なんだから、いていいに決まってるじゃん」

「俺が・・・・どんな人間でも?」

「どんな人間だっていうの・・・潤は、潤でしょ?」

「・・・・ずっと、一緒にいてくれる・・・・?」

「もちろん。嫌がったって一緒にいるよ」

わざと軽い感じでそう言って、俺は潤の背中を撫でた。

「ありがと・・・・」

そう言って、潤が一層きつく俺に抱きつく。

俺はただ、潤の背中を撫でることしかできなかった。

声を殺して泣き続ける潤が、愛しくて・・・・。

潤に何があったのか。

無理に聞き出すことはしたくなかった。

潤が言いたくないのであれば、言いたくなるまで待つしかない・・・・。



しばらくすると、潤の体の震えはなくなっていた。

潤がそっと俺から離れ、恥ずかしそうに俯く。

「ごめんね・・・・」

「全然。逆に嬉しいよ」

「何それ」

潤が笑った。

いつもの潤の笑顔にはまだなっていなかったけれど・・・・

「・・・紅茶、飲んだらお風呂入るね」

「うん。あ、紅茶冷めてるだろ。入れ直してくるよ」

「いいよ、このままで」

「そう?」

潤は冷たい飲み物が苦手で、夏でもコーヒーや紅茶は温かいものを飲んでいた。

「・・・もうすぐ、夏休みだろ?どっか行きたいとこあるか?」

俺が聞くと、潤は冷めた紅茶に口をつけながらちょっと首を傾げた。

「うーん・・・みんなと一緒ならどこでもいいよ」

「わかった。もし行きたいとこあったら教えて。じゃあな」

「うん」




部屋を出ると、俺はリビングのソファーでテレビを見ているカズのそばへ行った。

「―――潤くん、どうだった?」

「ん・・・・なんか・・・悩んでるみたいだな」

「何を?」

カズがソファーに寝そべったまま俺を見上げた。

「それが、わからない。言ってくれないんだ」

「智にも?」

「ん」

「・・・・それは・・・・よっぽどだね」

「うん。よっぽどだよ」

俺とカズは、そのまま黙ってテレビを見ていたけれど―――

その内容は、全く頭に入ってこなかった・・・・。

 

 

 


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