皆さんお元気ですか?
とんでもなく長い間お休みしてしまいましたね。
もう更新することもないかもと思っていたのですが、連載途中のものを完結させてから、と思い戻ってきました。
なんとか書き終えられたらと思います。
こちらのお話、ぜひ最初から読み返して楽しんでいただけたら嬉しいです!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「桜、きれいに咲いたね」

潤が校庭の大きな桜の木を見て呟いた。

「そうだな」
「ね、せんせー、あとであの木の下で一緒に写真撮ろ?」

にっこりと笑いながら俺を見る潤に、俺も頷く。

「ん。そうだな」

正直、俺の目には桜よりも潤の方が綺麗に見えるから、写真を撮る場所なんてどうでもよかったけど。


「潤ちゃん!こんなところにいたの?もう卒業式始まっちゃうよ!」
「まぁ。ごめん、探してた?」

息を切らし走ってきた相葉にも、潤は全く慌てる様子がない。

「もう、卒業生代表なんだからさ、もうちょっと慌ててよ」
「んふ、ごめんごめん。じゃあね、せんせー。また後で」

相葉に手を引かれながらも、俺に手を振る潤に俺も笑いながら手を振り返していると、後ろからスリッパで歩いてくる足音がした。
振り向くと、ニノが俺を見つけてやってくるところだった。

「翔さん、こんなところにいたの?行きますよ、もう卒業式始まるから」
「ニノ。俺のこと探しに来たのか?」
「いや、始まる前にトイレ行っとこうと思って出てきただけ」

そう言ってニノは手を拭きながら俺の横に立った。

「そっか。智くんは、もう体育館?」
「でしょ。一応卒業生のクラス担任だからね」


今日は、潤と相葉の卒業式だった。

潤と気持ちが通じ合ってから今日まで、相葉やニノ、智くんの協力もあり、何とか学校や他の生徒に気づかれることなくこの日を迎えることができたのだ。

もちろん今日まで何事もなく過ごしてきたわけではなく、何度か気づかれそうになったり、別れの危機もあった。
何しろ潤がどんどん綺麗になって、とにかくもてるのが一つの原因。
潤の気持ちを疑ったことはないけれど、あいつは無防備で思わせぶりな態度をとることがある。
本人に自覚はないようだけど、友達として接しているだけのつもりが相手が勝手に勘違いしてのぼせ上ってしっまうことが多々あったのだ。
そのたびにやきもきするものの、表立って文句を言うわけにもいかずイライラしてしまうこともあった。
その間を取り持ってくれるのは相葉、ニノ、智くん。
だけどその3人だって俺にとっては油断のならない相手なわけで・・・。
そんな俺の態度を、勝手に『怒らせた』と勘違いして潤が落ち込んでしまったり、気持ちがすれ違うこともあった。
それでも、俺たちの気持ちはずっと変わることがなく。
ようやく明日からは、教師としてではなく一人の男として潤と付き合うことができるのだ。

潤の中学時代の辛く悲しい思い出は、潤の中で深い傷となってずっと残ってしまうことは変わりない。
それでも、今の潤には俺がいる。
俺が、ずっと潤のそばにいる。
その傷も丸ごと全部、俺が包み込んでやりたいと思う。

問題だった体育の授業は、制服の下に体育着を着たらどうかと思ったのだが、夏は汗をかくから授業の後みんな着替えるし、ずっと汗を吸った体育着を着るのは嫌だというので、結局授業の前にトイレで着替えるということで解決した。
もちろんそうなると毎回着替えるときにトイレに行くことを不審に思う生徒が出る。
が、そこはなぜか『松本ならしょうがない』という結論になるらしかった。
なぜそうなるのか相葉にも聞いたことがあるが、相葉曰く『松本潤の着替えはドキドキするから見ちゃいけないってみんな思ってるみたい』とのことだった・・・。

時々智くんに絵のモデルになってほしいと頼まれることも若干心配ではあったけれど、『絵を描いてるときに変なことしないよ』と言う智くんの言葉を信じることにした。


「お、翔くん、ニノ、やっと来た」

体育館に入ると、智くんがいつものように穏やかに笑った。

智くんは、結局3年間潤の担任を務めることになった。
2年、3年とクラス替えもあったが偶然にもずっと智くんが担任で。
相葉とは2年の時にクラスが別になったけれど、3年でまた同じクラスになり、今も相変わらず仲がいい。
俺が嫉妬するほどに・・・。
ニノは去年相葉のクラスの担任になり、なぜか相葉と妙に気が合い仲良くなっていた。
俺も去年から1年生のクラスを受け持っていた。
クラスを受け持つとそれまではなかった問題も多くあり、クラスの生徒たちとの関係性も濃くなる。
そのせいで、時々潤がすねたりすることも。
が、ちらちらと様子を見に来る潤に注目が集まってしまい、潤のファンクラブまでできてしまったので1年のクラスには来るなと俺が言ったために、潤がさらにすねるという問題も起きたが・・・
なんとか休みの日に遠出してデートすることで、潤のご機嫌はとれたようだった。

「大野さん、生徒の名前呼んでる最中にあくびとかしないようにね」

校長の話を聞く間、すでにあくびをかみ殺している智くんにニノが小声で言った。

「んあ・・・了解」

クラスの担任が、1人1人の名前を呼び、呼ばれた生徒が壇上に上がり卒業証書を受け取る。

智くんのクラスの番になり、マイクの前に立つ。
いつもは猫背気味だが、今日はその背筋もまっすぐで姿勢がよかった。
そして声も、いつもの眠そうな声ではなく凜と張りのある声だった。

「あの人、どっちが本物なんでしょうね」

ニノがボソッと言った。

「さあ・・・どっちもじゃない?」

なんだかんだ、優秀な先生なんだよな。
潤もいつの間にか智くんに懐いて俺のこともいろいろ相談していたみたいだ。
ぼんやりしているように見えて生徒たちのことをちゃんと見ているし、話も聞いてる。
何より誰に対しても公平なんだ。
あ、唯一潤に対してはちょっと甘いとこもあるけど。

「松本潤」

「はい」

潤の声が心地よく体育館に響いた。
3年間でちょっと背が伸びた。
そして顔も精悍になり無造作に伸ばした髪が男っぽい印象を与えたが、白い肌に大きな目、長い睫毛、赤い唇は相変わらず艶っぽくて、見惚れるほど綺麗だった。
まっすぐな姿勢も肩で風を切るような歩き方も、入学したころよりも堂々として大人っぽくなった気がする。
そして、人の心を見透かすような視線と挑発するような笑みを向けられると、潤から目をそらすことなどできなくなる。
でもその中身は驚くほど純粋で、まじめで、そしてちょっと天然だ。

そんな潤を、ずっと大切にしたいと思った。
ずっと一緒にいたいと。
これからもきっといろいろあるだろうけれど・・・

それでも、この気持ちだけはずっと変わらないという自信はあった。



「松本!一緒に写真撮ろうぜ!」

卒業式が終わり、生徒たちは校庭に出ていた。
校庭の大きな桜の木の下は、ちょっとしたフォトスポット状態。
さすがに高校生ともなると親と一緒に、っていう生徒はそんなにいなかったが、友達同士撮り合ったり、担任を囲んで撮ってみたり。
そして、そこへ下級生までやってくるとさらにその場所は込み合うことになり・・・
中でも潤はめちゃくちゃ人気者で、ここぞとばかりに写真を撮られまくっていた。
もちろんクラスメイト達からも引っ張りだこ状態。

「すごいっすね、潤くん」

ニノが俺の隣で呟いた。

「ん・・・。俺、写真撮れんのかな」
「さあ・・・あ、大野さんが一緒に撮るみたいですね」

智くんが、潤のクラスメイト達に引っ張られ輪の中心に入った。
潤が楽しそうに智くんの隣に並ぶ。
そして、クラスメイト達が集まる中、智くんは堂々と潤の肩に腕を回していた・・・。

「・・・・あの人、調子にのってるな」
「まあ・・・担任だしね」

こんなことくらいで妬いてちゃ潤の恋人は務まらない。

「翔ちゃんもおいでよ」

智くんが、俺を手招きした。
潤が、ちらりと俺を見る。

「行ってらっしゃい。あ、俺もあとで潤くんと撮らせてくださいね、、ツーショット」
「お前な、なんでツーショ・・・」
「ほら、早く行かないとまた潤くん連れていかれちゃいますよ、モテモテなんだから」

ニノに言われて見ると、2年生が潤に声をかけているところだった。

俺は慌てて駆け出し、思わず潤の腕をつかんだ。

「せんせー・・・」

潤の頬がかすかに染まる。

「ほら、翔ちゃんそこ立って。俺が撮ってやるから」

智くんが、俺の腕を引っ張り潤の隣に並べて立たせた。

「撮るよー、ハイ、チーズ」

智くんが素早く数枚の写真を撮る。

俺は、ちらりと潤を見た。
何となく、緊張する。
学校では、なるべく離れるようにしてたから。

なんて思っていると―――

「もう、せんせーじゃないね」

潤が、にっこりと笑って俺を見た。

「あ、うん、そうだな」
「じゃあ、これからはみんなの前でもしょおくんて呼んでもいいんだ?」

付き合うようになって、2人きりの時はお互いを名前で呼ぶようになっていた。
舌足らずな声で『しょおくん』と呼ぶ潤はとてもかわいくて・・・
そうだ。
これからは先生と生徒じゃないんだ。
そう思うと、ちょっと照れ臭いような、嬉しいような不思議な気持ちだった。

「ねえ、まぁ」

潤が、近くでバスケ部の連中と写真を撮っていた相葉に声をかけた。

「何?潤ちゃん」
「俺、先に帰るね。あとで連絡するから」
「え!潤ちゃん、あとでみんなでカラオケ―――」
「だから、後で連絡する。俺、今からしょおくんとデート」
「は!?」

驚いたのは、相葉だけじゃなかった。

一瞬周りが静まり、みんなが注目する中―――

「しょおくん、行こ!!」

潤が、俺の手を掴むと思い切り走りだしたのだった。

「お、おい!」
「じゃあね、二宮せんせも大野せんせも、また遊ぼうね!!」




「・・・・みんな、びっくりしてたぞ」
「だって、早くしょおくんと2人になりたかったから」

学校から少し離れ、ようやく立ち止まった潤。
潤は息も切れていないが、俺は久しぶりに全速力で走ったせいでバテバテだ。

それでも、潤の言葉に思わず笑みが零れる。

「・・・俺も、早く2人になりたかったよ、潤と」

そう言って、俺は潤の手を引き寄せた。

タイミングよく、周りには誰もいない。

そのまま潤のあごに手を伸ばし、そっと触れるだけのキスをした。

一瞬驚きに見開かれた潤の目が、恥ずかしそうな、嬉しそうな光を宿す。

「―――好きだよ、潤」

そして桜の花びらが舞い散る中で。

俺たちはもう一度キスをした―――。

 

 

 


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