ずっと拍手お礼小話の方で少しずつ上げていたお話です。
以前連載していた『魅せられて』というお話の続編です。
自分で書いたお話ですが、本当に書いていて楽しかったお話。
産みの苦しみもありましたが、とにかくミステリアスな潤ちゃんをかくのが大好きで。
その続編を、また書いてみようと思い立ちました。

今後も少しずつ小話の方で更新していけたらと思っていますので、時々覗いて、感想などいただけたら嬉しいです。
 

 

星星星星星星星星星星星

 

 

「俺、その人会いたくないなあ」

ポツリと潤が言った。

「え・・・・急にどうした?」

今日は依頼人の女性に会う日だ。

俺は探偵事務所の所長で潤は探偵。
2人だけの探偵事務所だけど潤の特殊な能力のおかげで繁盛している。

「ニノの紹介だから会わないわけにいかないだろ?今日は俺だけで会ってもいいけど・・・・」
「・・・・彼女、何か変だよ」
「は?まだ会ってもないのに・・・・あ」

さっき、ニノが事務所へやってきた。
大野さんを介して聞いていたニノの知り合いだという女性からの捜査依頼。
今日これから会う約束なのだが、ニノはその彼女のことをわざわざ俺たちに頼みに来たのだ。
潤が、ちょっと無口になっていたのは感じていた。

ニノを通して、彼女の姿が見えていた・・・・?

潤には、会った人の目に過去映ったものが見えるという特殊能力があるのだ。
その潤が感じた違和感。

「変って、どんな風に?」
「・・・・・わからないけど。なんか・・・・・怖い」
「怖いって・・・・依頼内容はその女性の義理の兄のことだろ?別に危ないことはないんじゃないか?」
「・・・・・・」
「・・・わかったよ。とりあえず、俺が1人で会ってくる。お前は留守番してて」

会う、と言ってもこの事務所の下にある喫茶店で会うわけだからすぐに行き来できる距離だ。

「うん、ごめん、しょおくん」

自分から言い出したくせに、申し訳なさそうに目を伏せる潤。
長い睫毛が作る影が綺麗だった。
こんな時にすら見惚れてしまう、男のくせに誰よりもきれいな潤。
まぁ、潤には大野智っていう恋人がいるんだけどね。
それでもこうして潤の信頼を受けるだけで満足するなんて、俺も丸くなったよなあ。
そんなことをこっそり考えて、俺は苦笑したのだった・・・・



「いらっしゃい翔ちゃん!例の人、まだ来てないよ」

事務所の下の喫茶店の店長、相葉がそう言って俺が座るいつもの席に水の入ったグラスを置いた。
相葉とは幼馴染で潤とも仲が良かった。
依頼人と話をする時には事務所よりもここで会うことが多かったのは依頼人を緊張させないためでもあり、相葉の柔らかい雰囲気はそんな意味でもとても有効だった。

「潤ちゃんは?」
「今日は留守番」
「へえ?あ、いらっしゃい」

その時ちょうど、女性が店に入ってきた。
店内をきょろきょろしていた女性を見て、俺は右手を上げた。
その女性は俺を見るとほっとしたように微笑みこちらに歩いてきた。

ニノの高校時代の同級生だという彼女はなかなかの美人だった。
モデルの仕事をしていたこともあるらしい。
そんな彼女と先日同窓会で再会したというニノ。
知り合いが探偵をやっているとニノから聞いて、義理の兄のことで相談したいことがあると言われたらしい。

「今日は、お2人じゃないんですね」
「ああ、ちょっともう1人は別件で事務所に残ってまして」
「そうなんですね」

柔らかい笑みを浮かべる彼女。
名前は白井蓉子といった。
彼女のことが『怖い』と言った潤。
どうしてそう思ったのか、その時の俺には全く分からなかった・・・・・


「わたしの姉の夫・・・・義理の兄のことを調べてほしいんです」

白井蓉子はそう言って、サラリーマンらしき30代くらいの男の写真を俺の前に置いた。

「何か、この人に問題が?」
「・・・・浮気を、しているんじゃないかと思うんです」
「何か根拠が?」
「もともと、義兄はとても真面目で仕事が終わるとまっすぐ家に帰って来るような人だったんです」
「なるほど」
「それが、最近は毎日帰りが遅いし朝帰りまでするようになって・・・・・」
「本人はなんと?」
「仕事の付き合いだと・・・・でも、今までそんなこと全くなかったのに突然なんですよ。おかしくないですか?」

蓉子の必死な様子に、少しだけ違和感を感じた。

「それは、お姉さんから聞いたんですか?」

俺の言葉に、蓉子が一瞬はっとした表情になったのを俺は見逃さなかった。

「そう、そうです。姉が・・・・最近、彼がおかしいと連絡して来て・・・・・」
「・・・・それで、お義兄さんの浮気の証拠を掴むというご依頼でよろしいですか?」
「え、ええ。お願いできますか?」
「・・・・わかりました。では―――」

なんとなく、何かがひっかかるような妙な違和感があったのは事実だった。

だが、それが何なのか、結局よくわからないまま、俺は彼女の依頼を受けることになった・・・・・。





「大野さん、今日のごはん、ハンバーグですって」
「・・・・何でお前が知ってるんだよ」

俺はじろりとニノを睨みつけた。
ニノが、俺を見てにやりと笑う。

「さっき、LINEで聞きました。今日は潤くんのごはんが食べたいなって送ったんですよ」
「お前な・・・・」
「楽しみだなー、潤くんのハンバーグすげえうまいんだよなー」
「・・・・なんなんだよ」
「は?」
「何か潤に用があるんだろ?」

俺の言葉にニノが一瞬目を見開く。

「すげー、よくわかりましたね」
「俺だって一応刑事だかんな。お前見てればそのくらいはわかる」

俺が刑事になって10年。
後輩のニノと組むことになって5年。
潤と一緒に暮らすようになって・・・・・どのくらいだっけ?

ああ、2年か。

もうずっと、潤とは一緒に暮らしているような気持ちになっていた・・・・


「潤くんと翔さんに紹介した俺の知り合いのことなんですけど」
「ああ、義兄さんのことで相談があるとか言ってたやつ」
「はい。その彼女の話をした時・・・・潤くんの様子がおかしかったんです」
「おかしかった?潤が?」

ニノがその知り合いの女性のことを話に潤のいる探偵事務所を訪ねた時、俺は下の相葉ちゃんの店でコーヒーを飲んでいた。

「俺がその彼女の話をし出した途端、考え込んじゃって・・・・家では、普通でした?」
「ああ、別に何もおかしなことは・・・・」

もともとそんなにおしゃべりな方でもない。
それに、その女性の依頼のことも潤は俺には何も・・・・

「まぁ、そもそも何で彼女が俺にそんな相談してきたのか・・・・」
「お前が刑事で、知り合いに探偵がいるって話したからだろ?」
「そうなんですけど、そもそも俺は彼女とそんな親しくもなかったし、話しかけてきたこと自体不思議で」
「へえ?」

ニノが、首を傾げて考え込んだ。
ニノは頭がいい。
というか、頭の回転が速く勘がいい。
一緒に捜査に当たっていても、ニノのそういう部分に助けられることが多い。

「・・・・今日、彼女が探偵事務所に行ってるはずなんですよ」
「ああ、そうだってな」
「で、さっき翔さんに電話してみたんですけど・・・・・」
「うん?」
「・・・・潤くんは、同席しなかったって」
「え、そうなの?」
「ええ。潤くんが・・・・その彼女と会いたくないって言ったらしいです」
「会いたくないって・・・・」

会ったことなんてないのに?

「・・・・・彼女のことが、怖いと言っていたそうです」
「怖い・・・・・?」

いやな予感がした。

潤には、普通の人にはない特殊な能力がある。

その潤が、『怖い』と言って会うのを拒否した女性。

何も、ないわけがなかった・・・・・・。




「じゅ~ん?どした?」

家に帰った俺は部屋が暗いことに驚いたが、寝室から少し光が漏れているのに気付き、扉をそっと開けた。
ベッドにうつぶせに寝ていた潤が、はっとしたように体を起こす。

「あ・・・・智、お帰り。ごめん、今夕飯・・・・」
「ああ、大丈夫。どうした?具合悪い?」

少し顔色が悪いように見えた。

「そんなこと、ないよ。ごめんね、すぐ起きるから―――」

そう言ってちょっと笑うと、潤はベッドから降りた。

が―――

ふらり、と潤の体が揺れる。

「あぶね!」

俺は咄嗟に潤に駆け寄りその体を抱きしめた。

「!!・・・・・潤、おまえ熱あるじゃん」

潤の体が熱かった。

「・・・・・少し、風邪気味なんだ。大丈夫だから・・・・」

微かに目を伏せ、俺の方を見ようとしない潤。

これは・・・・・

「潤?お前・・・・また余計な力、使おうとした・・・・?」

潤の特殊な能力は、その人が過去に見た光景が見えてくるというもの。
あくまでもその人の目を通した光景だから、その人が見ていないものは見えない。
だけど、強く神経を集中させることで、その人が過去に会ったことがある人間の置かれている状況までが見えてくることもあるらしい。
もちろん、本来は見えないものを見ようとするわけだから相当の集中力が必要となり、その力を使い過ぎることによって
体調を崩してしまうこともあるのだ。

「・・・・ニノが紹介した依頼者に、おまえは会わなかったんだって?」
「・・・・しょおくんに聞いたの?」
「ニノがな。翔ちゃんもニノも心配してる。お前が、いつもと違うって」
「・・・・・怖いんだ」
「その人が?潤、一体お前の目には何が見えて―――潤!?」

その瞬間だった。

潤の体から一気に力が抜け、そのまま俺に体を預けるようにして、気を失ってしまったのだった・・・・・



すごい熱だった。
俺は潤をベッドに寝かせると、とりあえず服を着替えさせ、脇の下と額を冷やした。
息が荒い。
力を使い過ぎたからなのか、それとも本当に風邪なのか、俺には判断できなかった。

「・・・・あんま、無理すんな・・・・」

そう呟きながら、俺はそっと潤の髪を撫でた。

「さ・・・・とし・・・・?」

うっすらを目を開き、潤が俺を見上げる。
熱っぽく潤んだ瞳。
なんだか痛々しかった。

「・・・・寝てな。明日、熱が下がらなかったら仕事は休め。翔ちゃんには連絡しとくから」
「智・・・・ニノに・・・・・」
「ん?ニノ?」
「ニノに・・・・気をつけてって、言っといて」
「え?」
「あの人・・・・危ないから、ニノ・・・・気をつけないと・・・・」
「ニノに、なんかするのか?なんで・・・・潤?」

気付けば、潤は目を閉じて眠っていた。
寝息が、さっきよりも落ち着いた気がする。
俺はそっと部屋を出ると、リビングのソファーに座りニノに電話を掛けた。

『・・・・・危ない?彼女が?』
「うん。潤がそう言ってる」
『そう・・・・。潤くんは大丈夫?』
「かなり熱が高くて辛そうだ。明日も熱が下がらないようなら休ませるよ」
『そっか・・・・。実は、さっき彼女から連絡があって』
「なんて?」
『会って話したいことがあるって・・・・内容はわからない』
「・・・・会うのか?」
『そのつもりだったけど・・・・・』

どうしてその女が危ないのか。
潤はその理由を言わなかった。
会うだけで危ないとは思えないけど・・・・・

「それ、俺も一緒に行っていいか?」
『いや、俺も今それ言おうと思ってました。お願いします』
「ん。じゃ、明日」

漠然とした不安。

潤が何を怖がっているのか、その女にあったら何かわかるのだろうか・・・・?
 

 

 

 

 


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