今回のお話は、以前連載していた『星を掴むように』の続編になります。
もちろんこちらのお話だけでも大丈夫だと思いますが、5人の関係性など詳細を知りたい方は、カテゴリ一覧の中から『星を掴むように』をお読みいただけたらと思います。
今回錦戸くんが登場していますが、キャラがよくわかっていないのでそこはあまりこだわらず、1人の登場人物として見ていただいた方がいいかと・・・。
あまりシリアスにならず、明るいお話に出来たらいいなと思ってます。
゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
「誰、あれ」
翔さんが不機嫌さを露わに、眉間にしわを寄せた。
「・・・同じ大学の学生ですよ。最近やたら、潤くんの周りをうろつき始めて・・・・最初は潤くんも鬱陶しがってたけど、最近はなんか妙に仲良くなっちゃって・・・」
「・・・智くんは、知ってるの?」
「さぁ・・・あの人、今3ヶ月後に控えた個展の準備で忙しいって潤くんが言ってましたよ」
「・・・ふーん」
文句言いたげに俺を睨みつける翔さん。
潤くんがあの男を連れてきたのは俺のせいじゃないっつーの・・・・。
潤くんがアルバイトをしているカフェの店長の翔さんは、頭が良くてイケメンで、彼目当ての女性客も少なくないのだけれど、本人はいたってクールである特定の人物以外には興味を示さないし、気持ちを乱すこともない。
まぁ、特定の人物っていうのは潤くんなんだけどね。
潤くんは俺の幼馴染で超美形な大学生。
俺にとってもすごく大事な存在なんだけど、彼にはすでに恋人がいる。
しかも男の。
「ニノぉ、あの潤ちゃんの友達、何者?妙ににやついてて気になるんだけど」
そう言って厨房の奥にあるこの小さな部屋に入ってきたのは、この店のアルバイトで俺や潤くんの高校の時の同級生、相葉さんだ。
バカで調子が良くてときどきうざいけど、この人の明るさが潤くんは大好きらしい。
「・・・潤くんのバイトが終わるまで待たせろっていうんだからしょうがないでしょ。にやついてるだけなら害はないし」
「そうじゃなくって、なんであいつが潤ちゃんのこと待ってるのかって聞きたいのよ、俺は」
「・・・それは、潤くんに聞いてよ。潤くんがあいつを連れてきたんだから。なんか、あいつに相談したいことがあるんだって」
「潤が?」
「何を?」
「だから、潤くんに聞いてってば!俺だって教えてもらってないんだから!」
思わずそう言い捨て、俺は部屋を出た。
店の奥のテーブルに、そいつは座っていた。
他にも客はいたけれどそれぞれすでにオーダーも済んでいて、潤くんはそいつの傍で何か話しこんでいた。
そいつ―――錦戸亮は同じ大学の1学年下のやつだ。
大阪出身だとかで関西弁を使い、小柄で細くてイケメンで、年上に受けがいいのかよく上の学年の女子大生に『亮くんて可愛いよね』なんて言われていた。
そいつが何で潤くんと仲がいいのか。
実は俺もよくは知らない。
いつの間にか講義のあと一緒にいたり、2人で食堂でランチを食べていたりしていたのだ。
「あ、二宮くん、もう帰るん?」
「なんで俺が帰るんだよ。俺は潤くんと帰るの」
「あ~、そんなん、心配せんでも俺が潤くん送ってくのに」
「なんでだよ。お前こそ帰れよ」
「カズ、何怒ってんの?」
「別に、怒ってないよ。潤くん、こいつになんの用があんの?」
『亮に、相談したいことがあって』
そう言って、こいつをバイト先のこのカフェにまで連れてきた潤くん。
その相談が何なのか、潤くんは俺に教えてくれない。
それに、いらいらしてる俺。
潤くんが俺に、隠し事をするなんて・・・・
「仕事上がったら、話するから・・・その時に、カズにも言うよ。本当は、智に先に相談したかったんだけど・・・」
そう言って、潤くんは俯いた。
長い睫毛が白い肌に影をつくり、アンニュイな雰囲気を醸し出す。
「大野さんは、来れないって?」
「うん。今とりかかってる絵がもうすぐ出来上がりそうだからって・・・・。しょうがないよ。大事な個展だもん」
にしたって。
俺は、ちらりと錦戸を見た。
こんな男が潤くんに近づいてるってわかったら、大野さんだって黙ってないと思うんだけど。
たぶんだけど、潤くんは大野さんにこいつのことを言ってないんだと思う。
「すいませ~ん」
レジのところにいた客が、潤くんに声を掛けた。
「あ、はい!」
潤くんが慌てて駆けていく。
そんな潤くんを見てにやつく錦戸。
「・・・いやらしい目で見てるんじゃないよ」
「なんやの、怖いなあ。ええやん、潤くんかわいいし、見たなるやん」
「気持ち悪いっつーの」
「ふはは、なんや俺、二宮くんに嫌われとるなあ。まぁ大事な大事な潤くんの隣奪ってしまったからしゃあないか」
「奪われてねえし。そもそも、潤くんの隣にいていいのは俺でもお前でもねえよ」
「あぁ・・・『智くん』やろ?」
にやりと錦戸が笑い、俺はじろりと錦戸を睨みつけた。
「んふふ、なんで『智くん』のことを知ってるんだっちゅー顔やね。潤くんから聞いたに決まってるやん?俺と潤くんは、親友やからね」
ガタンッ
俺は、思わず音をたてて立ち上がった。
レジにいた潤くんと、カウンターにいた相葉さんが驚いてこっちを見ていた。
「―――ふざけんな。お前が・・・潤くんの何をわかってるっていうんだよ」
「・・・なんでも、わかるよ?潤くんのことなら。ま、ええよ。親友の座は二宮くんのものやもんね。そんじゃ俺は・・・潤くんの恋人にしてもらおかな?」
「お前・・・!」
思わず錦戸に掴みかかろうとして―――
寸でのところで、俺たちの間に潤くんが滑り込んでくる。
「カズ!何してんだよ?」
「・・・・別に」
「別にって―――」
「俺と潤くんが仲いいのが気に入らないんやろ?」
錦戸の言葉に、潤くんが振り向いた。
「・・・亮、カズに何言ったの?」
「なんも言ってへんよ」
錦戸が肩をすくめた。
「・・・カズに、変なこと言うなよ」
「は?」
「俺たちは小さいころからずっと一緒で、家族みたいなもんなんだ。カズを傷つけるのは・・・お前でも、許さない」
きっぱりと言い切った潤くんに俺ははっと顔を上げ、錦戸は驚いたように目を見開いた。
「・・・仕事終わるまで、おとなしく待ってろよ。カズ、奥の部屋にいて」
「・・・うん、わかった」
俺はそう言ってちょっと笑うと、錦戸に背を向けた。
部屋に入る前、ちらりと振り返ると―――
錦戸が、不本意そうに腕を組み、溜息をついているのが見えた。
おれは・・・・
潤くんが俺の味方をしてくれたことが嬉しくて、思わず緩む頬をごまかすように咳払いなんかして、部屋にいた翔さんに怪訝な顔をされたりしていた・・・。
「う~ん・・・・なんか違うんだよなあ」
俺は油絵の具で描かれたキャンバスの前に座り、腕を組んだ。
もう少しで仕上がるのだけれど・・・・
途中まではうまくいっていたのに、ここへ来て最初思い描いていたのと何かが違う気がして、筆が進まなくなってしまった。
その時、絵の具などを載せたテーブルに置いていた携帯が震えた。
「―――もしもし。―――あ、翔くん、久しぶり―――うん、まあ、なんとかね」
『そう・・・。あのさ、ここんとこずっと、そっちのアトリエにこもりっきりだって聞いたけど』
「あー、うん・・・もう少しで出来上がりそうな絵があってさ・・・なんとか仕上げちゃおうと思って」
『そっか。忙しいんだ』
翔くんの、どこかいらついてるような言い方が気になった。
「どうかした?」
『・・・潤の大学にいる、錦戸亮って男知ってる?』
「錦戸・・・?さあ、知らないけど」
『そう・・・。今、そいつが店に来てるんだけど。ニノの話じゃ、潤が呼んだらしい』
「え・・・」
『潤は、その男に相談したいことがあるって言ってる』
「相談・・・?」
『それが何なのか、潤は俺らにも言わない。仕事が終わってから話すって言ってるけど・・・智くん』
「え?」
『その錦戸って男、たぶん潤に気があるよ』
「え・・・ええ!?」
『仕事の邪魔するのは気が進まなかったけど・・・一応知らせとく。潤は、すっかり錦戸のこと信用してるみたいだし、あいつの、一度気を許した奴にはとことん懐く性質、わかってるだろ?』
相談・・・・?
潤に気がある・・・?
電話が切れてからも、俺は仕事に集中することができなかった。
胸騒ぎがして・・・・・
「悪霊!?」
俺は錦戸の言葉に思わず大きな声を上げた。
店を閉め、俺と潤くんと錦戸は1つのテーブルに、カウンターの席に相葉さんと翔さんが座って話を聞いていた。
相葉さんと翔さんも顔を見合わせ驚いていた。
「いや、ちゃうて。悪霊やなくて、浮遊霊や。要するに、自分が死んだことに気付かんとその辺を漂ってる霊のことやな。そいつが、今潤くんに憑いてるんや」
「潤くんに憑いてるって・・・」
俺は潤くんを見た。
潤くんは、少し疲れたように笑った。
「最近、ちゃんと寝てるはずなのにずっと疲れが取れなくて・・・・頭痛もひどくて、体のどこかが悪いんじゃないかと思ってたんだけど、病院に行っても何でもないって言われて・・・」
「大野さんには言わなかったの?」
「だって、智は今忙しいし・・・余計な心配かけたくなかったから」
そう言って俯く潤くん。
優しい潤くんの気持ちはわかるけど・・・・
「・・・その、潤の体調不良の原因が浮遊霊のせいだっていうのか?」
翔さんが言った。
「そうやね」
「なんでそんなことがお前にわかる?」
「簡単や。俺は霊感が人より強いねん。まぁ、ばあちゃんほどやないけど。俺のばあちゃんはいわゆる霊媒師ってやつやったんや。2年前に他界してしもうたけど。で、まぁ俺もそのばあちゃんの血を受け継いだんかなんか知らんけどガキの頃から人には見えんもんが見えたり、感じたりすることがようあって・・・。で、2週間くらい前から変な霊が潤くんの周りをうろついてるんに気付いてな。一応注意はしとったんやけど」
錦戸の言葉に、潤くんは口を尖らせた。
「だって、俺には見えないもん。そんなのいきなり信じろっていう方が無理だよ」
「せやけど、潤くんの姉ちゃんの霊は見えたんやろ?そんな経験してんのに、何で俺の言うこと信じてくれへんの」
「潤くん、なっちゃんのこと・・・」
俺の言葉に、潤くんは首を振った。
「話してないよ。だから、信じる気になったんだ。亮が、知ってるはずのないことだから」
「・・・そういうことか」
「な?二宮くんも信じる気になったやろ?」
「あいにく、俺は潤くんみたいに素直じゃないから」
事故で亡くなった潤くんのお姉さんのなっちゃんの霊が潤くんの中に入ってた話は、俺と大野さん、それからあとから事情を話した翔さんと相葉さんだけが知っていることだ。
でも、俺と潤くんの話をどっかで聞いてたってことも考えられる。
錦戸は、ちょっと呆れたように俺を見た。
「疑い深いやっちゃなぁ。ま、ええわ。潤くんが信じてくれてるんやから。で、その霊がなかなか潤くんから離れんもんやから、なんとかせなあかんと思ってこうして時間作ってもらったんや」
「・・・・お前が、霊を払うことができるって言うのか?」
「これでも、ばあちゃんに小さいころから陰陽道だなんだと教えこまれとったんやで。浮遊霊の1人や2人、まかせとき!」
そう言って胸を張る錦戸に、俺たちは不安な気持ちで顔を見合わせるしかなかった・・・・。
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