「手伝ってくれてありがとぉ。はい、コーヒーどうぞ」

作業が終わった厨房で、潤が俺の前にコーヒーを置いてくれる。

「あ・・・ありがと。あのさ、明日も朝早いんでしょ?体、大丈夫?」

時間はすでに夜中の12時を過ぎていいた。

「全然大丈夫。翔くんこそ、明日も仕事でしょ?付き合わせちゃってごめんね」
「いや、俺は・・・・」

帰っていいと言われたのに、半ば強引についてきたのは俺の方だ。
こんな状況でも、潤と2人きりでいるのが嬉しいなんて、俺も相当だと思う。

潤は・・・・違うのかな。

お互いの気持ちを告白して、2人の気持ちは通じあったと思ってたけど・・・

「あの・・・さ、しょおくん?」
「え?」
「その・・・汗、かいてない?ずっと作業してたし・・・」
「ああ、そういえば・・・・。でも、うち目の前だし、帰ってすぐシャワー浴びるから大丈夫だよ」
「あ、そっか。そうだよね・・・・」

苦笑して頭を掻く潤。

その様子がなんだか妙にそわそわしているようで・・・・

「潤?どうかした?」
「・・・・シャワーなら・・・」
「え?」
「シャワーなら・・・・ここの2階にもあるから、使って行ったらって・・・・思ったんだけど。そうだよね、翔くんのマンション、この目の前だもんね」

言いながら、潤の頬が徐々に真っ赤になっていく。

―――え・・・それって・・・・そういう意味にとっていいのか・・・・?

潤の手が、そわそわと動いてコーヒーカップに入れたスプーンがかちゃかちゃと音を立てる。

頬を染めて俯くその姿が可愛くて、しばらく見惚れていたら何も言わないことを否定の意味にとったのか、小さく溜息をついて悲しそうに眉を下げた。

「あー・・・ごめん、じゃ、俺も、帰るから・・・・」
「え、なんで?」
「なんでって・・・・」

今度は俺を見上げて目を瞬かせる。

コロコロと変わる表情が本当に可愛くて、ああ、やっぱり好きだなあと実感する。

「シャワー・・・貸してくれるんでしょ?」
「え、うん、え?」

目を瞬かせながら真っ赤になっていく潤を見て、俺は思わず噴き出してしまう。

「ふ・・・・今日はまだ、離れたくない・・・・って思ったんだけど。潤は?」
「・・・・俺も・・・・・離れたく、ないよ・・・・」

潤の手を、そっと握る。

白くて長い、しなやかな指。

繊細なショコラを作るための、きれいな手。

この手で、俺に触れて欲しい。

「・・・好きだよ、潤・・・」
「翔くん・・・・」

軽く手を引き寄せると、潤は簡単にバランスを崩して俺の胸に倒れ込んだ。

そっと腰に手を回すと、潤も遠慮がちに俺の背中に手を回してくれる。

恥ずかしそうに俯いた顔は耳まで真っ赤で、長い睫毛が白い肌に影を作っている。

―――キス、したいな・・・・

なんとなく、智くんの気持ちがわかった気がした。
こんなに可愛い弟がいたら、そりゃあ離したくないだろう。
ハグだってしたくなるし、ちゅーだって・・・・

・・・・・・・

「―――潤・・・・」

俺の声に、上目使いに俺を見上げた潤のあごに手を添え、唇を重ねた。

「!・・・・・っ、ん・・・・っ、は・・・・・」

合間に漏れる潤の吐息に、腰に回した手に力がこもる。

「潤・・・・上にあるのは、シャワーだけ・・・?」

俺の言葉に、潤は恥ずかしそうに俯く。

実は聞いたことがある。
徹夜になって家に帰る時間がなくなった時、仮眠をとれるように物置として使っている部屋にベッドが置いてあるんだと・・・・。

「潤・・・・」

耳元で囁けば、ピクリと震える体。

―――あーもう、限界・・・・

「・・・シャワー、貸して?」

こくんと頷き、繋いだ手はそのままに歩き出す潤と一緒に、俺は厨房を出て狭い階段を上がり段ボールなどが積み上げられてより狭くなった通路で足を止めた。

両脇に、店を改装する前から使っていたらしいクラシカルな木目の扉が2つ。

「・・・こっちが、シャワー。こっちが・・・・」

照れて俯く潤の手を握り直し、自分の心臓の音が聞こえないかと不安になりながら、俺は口を開いた。

「・・・潤、先にシャワー浴びる?」
「翔くん、先に・・・・」
「・・・うん、わかった」

こんなに緊張したのはいつ以来だろと思うくらい心臓はバクバクしていたけれど、それを悟られないように冷静なふりをする。

潤も緊張しているのか、俯いたままなかなか俺と目を合わせようとしない。

部屋からバスタオルと袋に入ったままの真新しい下着を持って来てくれる。

「服、俺のスウェットしかないけど・・・あとで持っていくから」
「ん、わかった。ありがとう」

潤はフルフルと首を振ると、部屋の中に入ってしまった。

俺は潤に聞こえないよう大きな溜息をつき、バスルームの扉を開けた。
シャワーを浴びている間も俺の頭の中は潤でいっぱいで。
このまま勢いで泊まってしまってもいいのだろうかと不安になる半面、あの透けるように白い肌に、赤い唇に、もっと触れてみたいという欲求を抑えられそうになかった。

でもきっと、潤も不安なんじゃないだろうか。
俺よりも緊張している様子の潤の瞳には、不安が揺れている気がした。

だけど・・・・・


シャワーを浴び終え、用意された下着とスウェットを身につけるとバスルームを出てすぐ隣の部屋の扉をノックした。

すぐに開けられる扉。
顔を出した潤は、ちらりと俺を見た後すぐに目をそらしてしまった。

「あ・・・・適当に、座ってて。俺、シャワー浴びてくる」
「うん、わかった」

横をすり抜けていく潤を見送って。

俺はタオルで頭を拭きながら、部屋の中を見渡した。

雑然と積み上げられた段ボールは部屋の隅に無理やり押しやられ、ベッドはきれいに整えられていた。

俺はベッドに腰掛けて・・・・

そういえば、俺が座る前ベッドのシーツはきれいにぴんと張られていて、座った形跡は全くなかったと気付く。

潤が緊張して落ち着きなく部屋の中を片付けたり、ベッドのシーツを丁寧に整える姿が目に浮かんで、思わず口元が緩む。

―――ほんとに・・・・かわいい。







―――どうしよ・・・

シャワーを浴びながら、俺は今日何度目かの溜息をついていた。

翔くんとまだ離れたくなくて、思わず・・・・

でも、男の人と付き合うなんて初めてだし、この先どうしたらいいのかなんて全くわからなかった。

部屋には、セミダブルサイズのベッドが1つ。

泊まっていくのかな。
それとも・・・・

ちっとも考えのまとまらないままシャワーを終え、タオルを取ろうとシャワーカーテンの隙間から手を伸ばし洗面台に置いたはずのそれを探ったけれど―――

―――あれ?ない?

おかしいな、確かにそこに置いて―――

俺はカーテンを開けると、洗面台の上を見て―――

初めて、そこに翔くんが立っていることに気付いた。

「え・・・・しょおく・・・・ッ!」

うわ、見られた!
男同士なんだからそんなに恥ずかしがらなくてもよさそうなものだけれど、翔くん相手ではそうもいかなかった。
カズやまぁくんだったら、全然平気なのに―――

慌ててカーテンを引こうとして―――

いきなり翔くんに手首を掴まれ、ぐいっと引っ張られた。

次の瞬間、俺は翔くんの腕の中にいた・・・・・。


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