「ありがと。翔くんのおかげで、ちゃんと智を見送れたよ」

そう言ってにっこり笑う潤は本当に嬉しそうで。

「いや、よかったね」

本当に良かった。

それは本当にそう思ってるんだけども、どうにもすっきりしないのは、やっぱりあのキスシーンを見せられたからだ。

スキンシップが激しいのはわかっていても、やっぱりあれはやり過ぎだと思う。

見慣れるなんて、絶対無理だ。

「翔くん?どうかした?」
「あ・・・いや、別に」
「そう?・・・・あの、さ、ちょっと飲んでいく?」

ちょっと恥ずかしそうにそう言った潤に、俺は思わず足を止める。

「え・・・」
「あ、なんか用事あるんならいいんだけど、ほら、せっかくレストラン連れて行ってもらったのに、最後ゆっくりできなかったから・・・・」
「あぁ・・・別に、気にしないでいいのに。あ、でも、行こうか。別に用事とかないし、潤くんさえよければ―――」

そう言った俺を、潤はちょっと不満そうに、首を傾げて見た。

「・・・もう、言ってくれないんだ」
「へ?」
「あの時―――俺のこと、呼び捨てにしてくれたのに、潤って」
「え・・・ええ?うそ?いつ?」
「あのレストランで。あの時・・・・俺、本当はそれがすげえ嬉しかった」

そう言って恥ずかしそうに頬を染める潤の横顔が、可愛くて、愛しくて・・・・

―――うわぁ、どうしよう、俺・・・・

「・・・俺のために、見送りに行こうって言ってくれたこともすごく嬉しかったけど。でもそれよりも、名前を呼んでくれたことが嬉しくて・・・・すげえ、俺、不純だなあって・・・・」

俺は思わず足を止め、隣を歩く潤の手首を掴んだ。

夜の道を並んで歩いていた2人。

潤も俺に合わせて足を止める。

だけど片手で口元を隠したまま俺の方を見ない。

「・・・・それってさ・・・・それって・・・・俺のこと・・・・」

潤はなにも言わず、目を泳がせる。

「潤くん・・・・潤・・・こっち、向いて」

その言葉に潤の肩が微かに震え、ゆっくりと俺の方を向く。
瞳が微かに潤んでいるように見えた。

「俺の、勘違いだったらごめん。でも・・・・もしそうなら、俺に先に言わせて欲しい。―――潤」
「・・・はい」
「俺・・・・潤が、好きだよ」

潤の瞳が、大きく見開かれた。

「・・・嘘・・・ほんとに?」
「ほんと。ずっと、好きだった。ずっと、潤に会いたくて店に通ってた。本当は甘いもの苦手だったけど、潤との接点が欲しくて毎日潤の作ったショコラを食べた。潤の傍にいる、二宮くんや相葉くんが羨ましかった。智くんなんかは羨ましいの通りこして憎らしかった」
「え・・・・何で?だって智は・・・・」
「お兄さんだからこその距離に、腹が立ったんだよ。あんな風にハグしたり、キスしたりしてるの見たら・・・俺なんて、どうしたって敵わないって思っちゃうしさ」

潤が、驚いて目を瞬かせた。

思わず、胸に仕舞っていたことを吐露してしまった。

でも言わずにいられなかった。

この胸のもやもやを―――

「ああいうの・・・また見なくちゃいけないって思うとすげえ、いやで・・・嫌だけど、離れたくないし、いつか俺もそんな風に―――」

そこまで言って、俺は我に返り言葉を止めた。

「・・・・すれば、いいじゃん」

潤が、上目使いに口を尖らせ、拗ねたように言う。

「え・・・・」
「すればいい・・・んだよ。俺は・・・・して欲しい」

言いながら恥ずかしくなってしまったのか、潤の顔が見る間に赤くなっていくのが暗い中でもわかった。

手首を掴む手に、ちょっと力を込める。

「あの・・・さ、これから、俺の―――」

部屋に来ないかと誘おうとして、躊躇する。
さすがにそれは急過ぎるだろうかと。


『~~~~~~~』


「あ・・・・ごめん、携帯・・・・」

潤の携帯が震え、おかげで2人の間の緊張感が途切れる。

「―――もしもし―――まぁくん?どうしたの?―――え、停電?」

潤の顔色が変わる。

「―――うん―――うん、それ、まずいかも。俺もすぐ行く」

よくわからないけれど、緊急事態のようだった。

電話を切ると、潤は申し訳なさそうに俺を見た。

「ごめん、翔くん。俺、店に行かないと」
「どうかした?」
「うん、なんかあの地域で急に停電になったって・・・・。一時的なものだろうけど、原因がよくわからないらしくて。冷蔵庫の電源が落ちちゃうと、中のショコラがダメになっちゃう可能性がある」
「それ、大変じゃん。急いでいかないと。タクシー、拾おう」
「あ、でも翔くんは―――」
「俺もいく」
「え・・・」

潤の戸惑った瞳が、俺を見ていた。

「・・・・まだ、離れたくない。こんなときに、非常識かもしれないけど・・・。ダメ、かな・・・・」

俺の言葉に、潤は首を振った。

「俺も・・・・一緒にいたい」

自然に、俺たちは手を繋いだ。
絡まる指が、熱い―――





「あ、潤ちゃん!!―――と、え、櫻井さん?」

暗い店の中へ入ると、懐中電灯を持った相葉が気付いて厨房から出てきた。

「まぁくん、どんな感じ?」
「あ・・・今、ニノが氷を入れたトレイにショコラを―――」
「潤くん!・・・あ、どうも」

あとから出てきた二宮も俺に気付いて、微かに顔を顰める。

「すいません、部外者なのに・・・でも、もし何か手伝えることがあれば―――」

俺の言葉に、二宮が肩をすくめた。

「ショーケースの中には氷とドライアイス入れましたし、あとは復旧を待つだけですよ。復旧が遅れるようならまたどっかから氷を調達しないといけないけど、たぶんそろそろ―――」

その時だった。

チカチカと音を立て、厨房の明かりがついた。
微かなモーター音とともに冷蔵庫の電源もついたようだった。

「ほら、ね」

二宮の言葉に、潤がほっと息をついた。

「よかった・・・・。カズ、まぁくん、本当にありがと。2人がいてくれてよかった」

潤がぺこりと頭を下げ、満面の笑顔を2人に向けると、2人も照れくさそうに笑った。

「何言ってんの。ここは俺たちの店なんだから、あたりまえでしょ?」
「そうだよ。ショコラがダメになっちゃったら、俺たちだって困るんだから。―――それより、せっかくのデート、切り上げてきちゃったの?」

二宮がちらりと俺たちに視線を向ける。

「デ―――!デートじゃ、ないし!」

そう言った潤の顔は真っ赤だ。

―――ああ、やっぱり可愛いなあ。

「・・・・智、見送ってきた」
「あ・・・空港、行ったんだ?智さん、喜んでたでしょ?潤ちゃんに会えて」
「うん・・・たぶん。でも俺、ずっと迷ってて・・・・でも、翔くんが・・・」

潤が笑顔で俺を見る。
つられるように、二宮と相葉も俺を見た。

「あ、いや、俺は・・・・。ただ、旅先でお兄さんが事故にでもあったら、きっと見送りに行かなかったこと後悔するんじゃないかと思って・・・」
「・・・正解。俺もそう思ってましたよ。さっきも、この暗い店の中で相葉さんと作業しながら話してたんだ。智さんはあんな風に言ったけど、きっと潤くんは行きたいと思ってるはずだって」

二宮の言葉に相葉も頷く。

「智さんだって、本当は潤ちゃんに来て欲しいと思ってたよ。だってあの人、潤ちゃん大好きなんだから」
「でしょうね。普通に仲のいい兄弟だって、あんなスキンシップなかなかしない」

そう言って俺が溜息をつくと、二宮と相葉がゲラゲラと笑った。
潤は目を瞬かせてきょとんとしている。

「だよね!いくら可愛い弟だって、キスとか、しないよね、普通!」
「ハグだって、なかなかしないよ!あの人、毎日だからね?朝店に顔出して潤くんにハグ、昼にまた来てハグ、夜迎えに来てまたハグ!潤くんが、甘やかすから」
「え~、だって、智が喜ぶから」

口を尖らせる潤が可愛くて、俺は苦笑する。

「そんなこと言ってるから、今まで付き合った彼女とかだって長続きしなかったんでしょ?ブラコンって、よく言われてたじゃない。今度は・・・・そんなことなさそうだけど?」

二宮がにやりと笑って俺を見る。

げ・・・なんか、やな感じ・・・・

「うるさいよ、カズ」

頬を染める潤に、二宮は楽しそうに笑って相葉の肩を叩いた。

「さ、俺たちはもう帰ろう。あとのことはお2人に任せます。氷とかドライアイスとか、片付けといてくださいね、櫻井さん」
「え・・・・俺?」
「当然でしょ?今日1日潤くんを独り占めしてたんだから、それくらいはやってもらわないと。じゃ、潤くん、また明日」
「あ・・・ありがと、カズ。まぁくんも、ありがとね」
「どーいたしまして!また明日ね、潤ちゃん!櫻井さんも、お休み!」
「あ・・・おやすみ・・・なさい・・・」


2人が店を出ていくと、急に店の中は静かになった。

店内の明かりは消えていて、厨房の明かりだけがついて潤と2人きり、なんとなく気まずい雰囲気になる。

「えっと・・・・あ、氷とドライアイス、片付けなくちゃだね」

わざとらしく大きな声を出した俺に、潤もはっと我に返ったように顔を上げた。

「あ・・・・うん、じゃ、俺氷片付けるから・・・・翔くん、ショーケースの中のドライアイス、こっちに持って来てくれる?」
「了解!」

そうして、俺たちは夜中の店の中、黙々と作業を始めたのだった・・・・・。



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