ちらりと、店の入り口に目を向ける。


ちょうど、店の外のロビーのようなところが視界に入る。


そこに黒いスーツの2人組の男の姿が見えた。


まさに、その2人が探していたSPだった。


だけど―――



ラインを打ってしばらくすると、智とニノが来て、2人に話しかけるのが見えた。


「・・・・・・」


俺は、もう一度智にラインを送った。


『―――その2人は、犯人じゃない。だけど、話を聞いておいて』


「どうかしましたか?」


向井直人が、不思議そうに俺を見つめた。


俺は口の端を少し上げると、少し首を傾げ直人を見つめる。


「いえ、別に―――。あの、直人さんはこのあと、何かご予定ありますか?」


俺の言葉に、直人は頬を赤らめ嬉しそうに首を振った。


「いえ、予定なんて、何も―――その、実は潤さんさえよろしければ、このあともご一緒できないかと考えていたのですが―――」


「嬉しいですね。それでは、このホテルのバーでちょっと飲みませんか?」


「ええ、いいですね!―――ちょっと」


直人は近くにいたウェイターを呼ぶと、カードを渡した。


その様子をじっと見つめ―――


直人がちらりとこちらを見た瞬間に、少し目を細めて微笑む。


直人の頬が紅潮し、興奮を隠すように咳払いなどをしている。


―――ちょっとかわいそうかな・・・・・。ごめんね。


心の中で、そっと謝り―――


俺は、再度智にラインを送った・・・・・。





レストランを出て、俺と直人はエレベーターに乗り込み、バーのある地下へと向かった。


エレベーターには俺と直人の2人だけ。


直人が、ちらちらと俺の方を伺っているのがわかった。


俺はそれに気付かないふりをしていたけれど―――


「―――潤さん!」


突然、直人が俺の肩を掴んできた。


「―――はい・・・・?」


至近距離で見つめられ、思わず後ずさろうとして壁にあたり、追い詰められたことを知る。


―――やば・・・・


「潤さん、僕と・・・・お付き合いしてくれませんか」


「あ、あの、それは―――」


「僕は、真剣なんです!初めてあなたと会った時から、僕の頭の中はあなたでいっぱいで―――」


「ちょ・・・・ちょっと、落ち着いてください。こんなところで・・・・」


「部屋を、とってあるんです」


「え・・・・・」


「このホテルに。最上階のスウィートです。どうか、お願いです、僕と―――」


ぐっと顔を近づけてくる直人。


「うわ、ちょ、ま―――」


あと少しで唇が触れそうになったその時―――



エレベーターが1階に着き、ゆっくり止まると扉が開いた。


そこにいたのは―――


「―――何してんの?」


「―――智!」


そこにいたのは、腕を組んで直人と俺を睨みつける智だった・・・・・。






「―――だから反対だったんだ!この作戦!」


「ごめんてば・・・・でも何もされてないよ?」


「されてからじゃ遅いだろ!?」


頭から湯気が出そうな勢いで運転席に座る潤に怒鳴っていると、後部座席から遠慮がちな声が―――


「あのー・・・・」


その声に、ぎろりとバックミラーを睨みつける俺。


後部座席に座っていた向井直人が、びくっと体を震わせた。


「智、直人さん怯えてるから―――」


潤が、車を運転しながら苦笑して俺を見る。


「―――ふんっ」


何が、『直人さん』だよ!


むかむかと怒りの収まらない俺に、直人が恐る恐る声をかけてくる。


「あ、あの・・・・もしかしてお2人は、そういう関係で・・・・・?」


俺と潤は、顔を見合わせた。


潤は俺にちょっと笑って見せると、バックミラー越しに頷いて見せた。


「ええ、そうです。彼は、僕の―――大切な人です」


潤の言葉に、俺の胸が熱くなる。


現金だとは思っても、潤の口からそう言ってもらったことでさっきまでの怒りは嘘みたいに消えていた。


「―――すいません。あなたを騙すようなことをして―――」


潤の言葉に、直人は苦笑して頭を掻いた。


「はは・・・・いや、可笑しいとは思ったんですよ。あなたのようなきれいな人が、俺なんか相手にするわけないですよね・・・・」


なんだか、不思議な感じだった。


政治家を父に持ち、自分は弁護士として成功しているのに、この人は自分に自信が持てないでいるのか・・・・・。


信号で車が止まると、潤がくるりと後ろを振り向いた。


まっすぐに、直人を見つめる。


「あなたは、素敵な人です。優しくて、繊細で・・・・・とても魅力的です」


直人が、驚いて潤を見た。


「え・・・・・」


「もっと、自信持ってください。あなたは、自分が思ってるよりもずっとイイ男なんですから」


そう言って、にっこりと微笑む潤。


その瞬間信号が青になり、潤は前を向いて車を発進させた。


「・・・・・ありがとう・・・・・・」


顔を真っ赤にして俯いた直人を、俺はまた複雑な気持ちでバックミラー越しに見つめた。


―――潤が優しいのはわかってる。


直人は、本気で潤に惹かれてたんだ。


その直人に、ちゃんと向かい合おうとする。


それが、潤だ。


だからこそ俺も―――


そのとき、ふいに潤の手が俺の手に重なった。


潤を見ると、潤は前を向いたまま微かに笑みを浮かべていた。


俺は・・・・潤の手を、ぎゅっと握り返した・・・・・。





前の車はニノが運転し、その後部座席には向井のSP2人が乗っていた。


SPは犯人ではないという潤の言葉。


とりあえず事件当日の話を聞こうと2人に声をかけた。


そして話している最中、再び潤からのライン。


『直接俺も話したいから、2人を事務所に連れて行って。智は俺の車に乗って』


3人を先に行かせ、俺だけ残したのは直人に事情を説明するためだったらしいけれど。


おかげであんな場面に遭遇して、よかったのか悪かったのか・・・・・。


直人から見えないようにこっそり手を繋ぎ、ようやく気持ちも穏やかになり―――


「―――で、何から説明すればいいの?」


「まずは、自己紹介すれば?直人さん、智のこと何ものだかもわかってないし」


―――そういえばそうだった。


「じゃあ・・・・僕は、大野智。一応刑事なんですけど・・・・」


「え!刑事!?」


直人が驚いて目を見開く。


潤が、隣でぷっと吹き出した。


「一応ってなんだよ!」


「だってさぁ」


「あの・・・・どうして刑事さんが・・・・・もしかして、上野久美子さんの・・・・・?」


直人の言葉に、潤がぴたりと笑うのを止めた。


俺も、くるりと後ろを振り返る。


「あなたと久美子さんが会った日のことを、詳しく聞きたいんですよ」


俺の言葉に、直人の顔色がさっと青くなったのだった・・・・・。




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