「・・・・・・・やっぱこの髪型、やだ」
潤が鏡を見て呟いた。
「え、いや、似合ってるよ?今度の役柄に合わせたんでしょ?」
俺の言葉にも、潤は眉間にしわを寄せる。
「嬉しくないよ、しょおくん」
「ご、ごめん」
あれから2年。
俺たちは一緒に暮らしていて、俺の仕事も順調だった。
そして潤も今や売れっ子俳優で、来月から始まるドラマの役作りのため髪型を変えたばかりだった。
原作は超人気漫画で、潤の役どころは金持ちの御曹司でわがままな俺様の高校生だそうだ。
その役に合わせるということで、2年前の時とはまた雰囲気の違うパーマをかけて、ちょっと変わった髪型となっていた。
俳優になった潤と暮らし始めて気付いたことは、潤はものすごくストイックだということだった。
普段はのんびりしているというか、見た目に反しておっとりしたところがあるのだが、こと仕事となると人が変わったようにその役に合わせて役作りをし、食事制限や役柄の研究に没頭し話しかけるのもはばかれるほどの集中力を見せるのだ。
俺はそんな潤の一面に驚きつつも、恋人として愛しく思うのと同時に、尊敬できる存在となっていた。
そして―――
「潤くん、準備できた?」
そう言って部屋を覗きこんだのは―――
「ニノ、今日って遅くなりそう?」
「いや、今日は顔合わせだけだと思うから、そんなに遅くはならないと思うよ」
「ん、わかった。じゃ、しょおくん今日は一緒にご飯食べよ」
そう言った潤の笑顔が可愛くて、頬が緩みそうになると―――
「はいはい、もう時間ないから行こう、潤くん」
と、ニノが俺たちの間に入りこみ潤の腕を取る。
「おい!マネージャーだからって横暴なことすんなよ!」
「ふん」
そう。
ニノは今潤のマネージャーとして働いていた。
実家のマンガ喫茶でアルバイトをしていたニノは、あれから潤の事務所でマネージャーを募集していることを知り、それに応募し見事に合格したのだった。
そのおかげで、潤は今や俺といるよりニノといる時間の方が長いのだから、俺としては複雑な気持ちで・・・・・。
「あ、そういえば相葉ちゃんが明日休みだから遊びに来たいって」
潤の言葉に、ニノが顔を顰める。
「また?あの人、しょっちゅうここに来てるじゃん」
「んふふ、楽しいんだって。それから智からも、メール来てた」
「え、智くん帰国したの?俺聞いてないんだけど」
俺は驚いて潤の手元を覗きこんだ。
独立してフリーになった智くんは、半年前にイタリアへ渡っていた。
ある有名な建築家との共同創作のためだということで、当時、ちょっとしたニュースになっていた。
「今朝メールが来たんだよ」
―――智くん、相変わらず潤大好きだな・・・・・。
『今日行くから、一緒に飲もう』
簡潔な文。
でも潤は嬉しそうに笑った。
「みんなが揃うの久しぶりだね。俺、がんばっておいしいもの作るから」
さっきまで髪型が気に入らないとぼやいていたとは思えないほど、ご機嫌な潤を見て俺も思わず笑顔になる。
「ん。仕事、がんばってな」
「うん!行ってきます」
笑顔で手を振り出ていく潤を送り出してから、俺も会社へ行くために着替え始めたのだった。
「智、お帰り!」
「潤!会いたかった!」
玄関のドアを開けたとたん、智くんは潤に思いっきり抱きついた。
「ふはは、俺も会いたかったよ」
コアラのようにがっしり抱きつく智くんに、俺たちは呆れた視線を送りつつ、楽しそうに笑う潤から智くんを引きはがしにかかった。
「おおちゃん!いきなり何してんのさ!」
「まだ飲んでないのにもう酔っぱらってんですか?ほら、うちのタレントに抱きつかないで!」
「智くん!離れて!」
「い~や~だ~!」
「「「いやだじゃない!!!」」」
「ふはははは・・・・・っ」
潤の作ってくれた料理を食べながら、ビールを飲む。
5人揃うのは半年ぶりで、俺たちは最初からかなりハイテンションだった。
特に智くんは潤にべったりで、離れようとしない。
「智、イタリア楽しかった?」
「楽しかったよ~。今度潤も一緒に行こうよ。なんか、潤に似合いそうなところだよ」
「ほんと?いいなあ。今度のドラマが終わったら行ってみようかな」
「え~、潤ちゃんが行くなら俺も行きたい」
「相葉さん、あなたは次クールのドラマの話あるって聞いてますよ。イタリア行ってる場合じゃないでしょ」
「うわ、なんでニノが知ってんの?」
「相葉さんのマネージャーが愚痴ってました。潤くんと一緒のやつに出たいとか、セリフ覚えられないから無口な役がいいとか、注文が多いって。ちなみに、潤くんが旅行に行くときは俺もついて行きますからね」
「え?そうなの?」
潤が目を瞬かせる。
「そりゃ、マネージャーだから」
そういえば、相葉くんも最近は俳優としてドラマに出ることが多くなってきた。
セリフを覚えるのは大変そうだけど、とても頑張っているようだった。
みんながそれぞれ自分の道を歩き始めていたが、5人集まるときは昔に戻るようだった。
潤を真ん中に、笑ったり、怒ったり。
そのうちみんな酔っぱらって、1人、また1人と潰れていくんだ・・・・・。
ふと気付くと、潤の姿が見えなくなっていた。
ベランダへ出る窓が、少し開いている。
俺はそっとベランダへ出ると、手すりに寄りかかって空を見上げる潤の横に立った。
「―――酔い醒まし?」
「ん・・・・・今日、楽しかった」
「―――そう?智くん、ちょっとお前にくっつき過ぎじゃない?」
「そう?智はいつもあんな感じだし」
「・・・・・イタリア、行くの?」
「わかんないけど、行きたいな。外国って、楽しそう」
「智くんと・・・・・?」
俺の言葉に、潤はゆっくり俺の方を見た。
大きな瞳に、俺が映る。
「しょおくんは・・・・行きたくない?」
「え・・・・・」
「俺は、しょおくんと行きたい。ずっと一緒にいるけど―――しょおくんと一緒に旅行したことって、ないじゃん」
「そう、だね。でも、ニノが・・・・・」
「うん。それはしょうがないと思ってるけど・・・・でも、ほら・・・・ちょっと、新婚旅行・・・・みたいでしょ?」
赤くなった頬を隠すように、口を両手で覆う潤。
―――ああもう、なんだってこんなにかわいいんだか・・・・・
俺は潤の肩を抱くと、そっとその唇にキスをした。
「俺は、潤と一緒ならどこにでも行くよ。来るなっつっても行く」
その言葉に、潤がおかしそうに笑う。
「来るななんて、言わないよ」
「ニノが言いそう」
「んふふ、大丈夫。ニノ、意地悪なこと言うけど基本優しいから」
―――お前にはな。
そう思ったけど、口に出すのはやめておいた。
嫉妬深いと思われそうだ・・・・・。
「潤・・・・・」
俺は、そっと潤の手を握った。
「ずっと、好きだよ。愛してる・・・・」
潤んだ瞳を、恥ずかしそうに伏せる潤。
俺はまた、潤にキスをする。
何度も何度も、その存在を確かめるように―――
ずっと好き。
愛してる。
もう、自分をごまかしたりしない。
この手は、ずっと離さない・・・・・
fin.
お読み頂きありがとうございました!
初めての翔潤連載は、思っていたよりも難しくって、なかなか2人をいちゃいちゃさせてあげられませんでした。
ハッピーエンドを迎えることができたのは、皆様の温かいコメントと、智二雅の3人のおかげです♪
次に翔潤を書くときは、もうちょっと2人をくっつけてあげたいと思います。
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