「―――何が言いたいわけ?」


翔ちゃんがニノをちらりと睨む。


ニノは翔ちゃんの方は見ずに、肩をすくめた。


「別に。ただ―――羨ましいだけですよ」


「羨ましい?」


「そう。潤くんに想われてるって自信があるから、そんな態度でいられるわけでしょ?何を言えば潤くんが喜ぶか、ちゃんとわかってる」


翔ちゃんが、持っていたグラスをテーブルに置いた。


「―――俺が、自信あるように見える?」


「見えますよ。結局、何があったって、潤くんの気持ちは変わらない。ただ1人、翔さんのことだけをずっと思ってるんですから」


その言葉に、潤ちゃんの頬が微かに染まった。


「翔さんだって、ずっと潤くんのことが好きだったくせに、潤くんのことを思ってだか何だか知りませんけど、さんざん潤くんを傷つけて、寂しい想いさせて―――それで、自分が寂しくなったらそうやってぬけぬけと潤くんを連れ戻しちゃうんですよね」


「ニノ、ちょっと―――」


俺はニノを止めようとしたけれど―――


隣にいた大野さんが、そっと俺の腕を掴んで首を横に振った。


―――やらせとけ。


そう言われたみたいだった。


「潤くんがここに来てから、一度だって会いにきたりしなかったくせに。他の女と結婚するって話だって、あれでどれだけ潤くんが傷ついたか―――今更・・・・今更、やっぱり潤くんが好きだなんて、勝手過ぎるだろ!!」


ニノが顔を上げ、鋭い目で翔ちゃんを睨みつけた。


翔ちゃんがここへ来て―――初めて、2人の視線が会った瞬間だった。


「―――確かに、俺は勝手だよな」


翔ちゃんが、静かに口を開いた。


真っ赤な顔で翔ちゃんを睨みつけるニノの視線を、翔ちゃんは穏やかに受け止めていた。


「ずっと、潤にはひどい態度をとってきた。潤が、傷ついてるのわかってたのに―――止めることができなかった」


「しょおくん・・・・」


「結婚のことも、俺は潤のためだなんて言いながら、結局潤も、彼女も傷つけた。最低だよな」


自嘲気味に笑う翔ちゃんの手に、そっと潤ちゃんが自分の手を重ねた。


その手を、翔ちゃんがもう一方の手で包む。


「でも・・・・おかげで、はっきりわかった。俺が好きなのは―――本当にそばにいて欲しいのは、潤だって」


「都合良過ぎるだろ。潤くんの気持ち知ってて―――」


「確信があったわけじゃないよ。ただ、家族として―――兄として慕っているだけなのかもしれない。そんな気もしたんだ。だから―――わざと、潤の気持ちを確かめるようなことをしてたのかもしれない。ずっと前の結婚の話の時も―――」


「翔くんは、ガキなんだよ」


と、大野さんがビールを飲みながら言った。


「潤はずっと翔くんのことが好きなのに、翔くんは自分に自信が持てなくて、とっかえひっかえ女作って―――」


「智くん!俺、とっかえひっかえなんて―――!」


翔ちゃんが慌てて大野さんの言葉を遮る。


が、そんなことで大野さんはへこたれなかった。


「ほんとのことじゃん。一時期ひどかったもんね。来るもの拒まず。けどさぁ、俺知ってるんだよね。潤を自立させるためなんてもっともらしい言い訳してたけど、結局潤の顔色見て潤の気持ちを確かめて―――で、潤の気持ちが自分に向いてることがわかると、女はどうでもよくなっちゃうんだ。てか、女を必要以上に潤に近づけなかったのは、潤を取られないようにするためでしょ?」


大野さんの言葉に翔ちゃんの顔色がさっと変わり、潤ちゃんは目を瞬かせた。


「どういうこと?智」


「女を潤に会わせると、女の方が潤を好きになっちゃうから。もともと翔ちゃんはその女のことなんて大して好きじゃないからさ。女が潤に興味を持ち始めると別れちゃうんだよな」


「て・・・・彼女を潤ちゃんに取られるからじゃなくて、潤ちゃんを取られるから、なの?」


俺の言葉に、大野さんは大きく頷いた。


「翔くんにとって、大事なのは女よりも潤だもん。あの、結婚の話のときだって・・・・こないだのじゃなくて、その前のね。結局、潤の存在にこだわる彼女がうっとうしくなったんだと俺は思ってるよ。彼女は、潤の気持にも気付いてた。たぶん、翔くんの気持ちにも。翔くんのこと好きだったのは本当だったんだろうけど―――でも、潤にも興味を持ってたんじゃない?」


「―――そうだよ。彼女は・・・・俺の気持ちも、潤のことも手に入れようとしてたんだ」


翔ちゃんが溜息をつき、ちらりと潤ちゃんを見た。


「俺が、潤と離れることはできないと思って彼女に別れを切り出そうとした時―――彼女が、俺のいない間に潤の寝込みを襲おうとしてたのを見ちゃったんだよ。それで、気付いたんだ。彼女は、純粋に俺のことが好きで潤と離れさせようとしてたんじゃないって。俺と潤を離すことで俺と結婚し―――それから、親切面して1人になった潤に手を出すつもりだったんだって」


何とも信じられないような話に、潤ちゃんは呆気に取られ、さすがのニノも開いた口が塞がらないようだった。


「そんなことがあっても潤に気持ちを言えずに1人でウジウジ悩んじゃってさ。自分はそうやって女と遊んでるくせに、俺が潤を誘って釣りに行ったりするとすげえ不機嫌になるし」


「なるほど・・・・そりゃ、ガキですね」


うんうんとニノが頷く。


「うるせえよ。お前ら―――3人とも、潤に手ぇ出そうとしたくせに」


「え」


「お」


「―――潤くん、言っちゃったんだ」


「ごめん」


潤ちゃんが、てへっと舌を出して首を傾げるから、俺たちも怒るに怒れない。


「でも―――元はと言えば俺のせいで潤が家を出てったんだし、そのことはもう忘れることにする。―――すげえムカつくけど、我慢する。ホントはぶん殴りたいけど―――」


―――こわっ


「その代わり―――これからは、絶対に潤を傷つけたりしないって、約束する。潤を泣かせたりしないって。だから―――潤と俺のことを、認めて欲しい。ここにいる3人が、潤にとってすごく大事な存在だってこと、わかってるつもりだ。だからこそ・・・・3人には、認めて欲しい」


そう言って、翔ちゃんは俺たちの顔を順番に見渡した。


潤ちゃんの手を、ぎゅっと握りしめ―――


それから、俺たちに向かって深々と頭を下げた。


「―――お願いします!」


「しょおくん・・・・・」


潤ちゃんの目に、涙が溢れた。








「―――そんなこと言われたら、ダメなんて言えるわけないよ。翔ちゃんずるい」


思わず俺が言うと、ニノがぷっと吹き出した。


「あなた、これだけ溜めて言うことそれですか」


「ええ!?なんで?俺おかしなこと言った?」


「だって相葉さんは、もう最初から翔さんと潤くんのこと認めてるじゃない。あなたは、潤くんが幸せならそれでいいって人だもん。あなたも大野さんも翔さんとも友達だから―――結局認めてるじゃないですか」


その言葉に、ずっと大人しかった潤ちゃんが口を開いた。


「―――ニノは、認められない?」


「俺、は・・・・・俺は翔さんのことなんてほとんど知らないし・・・・」


潤ちゃんに見つめられて、俯くニノ。


「じゃ、これから知ればいいよ」


「え・・・・・」


戸惑うニノに、潤くんがにっこりと微笑む。


「これから、知ればいいよ、しょおくんのこと。うちにご飯食べに来てもいいし、しょおくんと一緒にニノのお店にも行くし、3人で今度飲みに行こうよ」


「え・・・・」


今度は、翔ちゃんが戸惑った顔になる。


「俺、ニノにもちゃんとしょおくんのこと知って欲しい。ニノとも、仲良くなって欲しい。結構気が合うと思うんだ、2人」


「「ええ!?」」


2人の声が合さり、潤ちゃんが楽しそうに笑う。


「んふふ、ほら」


そして、おいしそうにビールを飲む。


ニノと翔ちゃんも、気まずそうにしながらも再び飲みはじめた。


―――この2人が、仲良くなれる?


ちょっと疑問は残るけれど―――


それでも潤ちゃんは笑顔だから。


俺はやっぱり、潤ちゃんに笑顔でいてもらえたら、それが1番だと思う。


翔ちゃんに対して言いたいことは、ほぼニノと大野さんが言ってくれたし。


大人でスマートで、完璧だと思っていた翔ちゃんが、実は不器用で子供っぽいところもあったんだとわかって少しほっとしたし。


俺は今まで通り潤ちゃんと遊べれば、いいかな・・・・・。


ちらりと大野さんを見ると、大野さんも俺の方を見て笑ってた。


考えてることは同じ。


ただきっと、大野さんはまだ諦めてないと思うけど。


翔ちゃんのことも応援しながら、隙あらば潤ちゃんの隣を陣取ってる人だもん。


「じゅーん、今日最後だから、また一緒に寝ようよ」


大野さんの言葉に、翔ちゃんがさっと青ざめる。


「智くん!ダメだよ!」


「いいじゃん。どうせ明日から、翔くんが潤を1人占めしてあんなこともこんなこともするんでしょ?」


「あんなこともこんなこともって、なんだよ!」


「今翔くんがしたいと思ってることだよ」


「ば・・・・っ、何言って―――って、潤・・・・?」


見ると、潤ちゃんは真っ赤だった。


いつも、どんなに大野さんがくっついても楽しそうに笑ってるだけで赤くなったりしないのに。


こんな潤ちゃんの顔見たの、初めてだ・・・・・。


それほど、翔ちゃんの存在が潤ちゃんにとって大きいということ・・・・・


そしてそんな潤ちゃんを見た翔ちゃんの顔もまた―――


「うわっ、翔さんエロ!」


そう言ってニノが顔を顰めた。


「な、何―――」


「だって今、絶対エロイこと思い出してたでしょ!潤くんのあんな顔とかこんな顔―――」


「―――!!!お前、やめろよ!」


すでに真っ赤になってる翔ちゃんの言葉には、なんの説得力もない・・・・・。


そして潤ちゃんもさらに真っ赤になってて―――


「―――なるほど。潤はもう翔くんにあんなこともこんなこともされてたんだな・・・・。それじゃあ、どんなことされてたのか今日俺がベッドでゆっくり聞いて―――」


「だから、ダメだって―――っ!!?」


その時突然、潤ちゃんが翔ちゃんの首にぎゅっとしがみついた。


「じゅ、潤・・・・?」


「・・・・・恥ずかしい・・・・・・」


いや・・・・潤ちゃん、今のその状態が一番恥ずかしいというか・・・・・翔ちゃん、今にも卒倒しそうだけど・・・・・?


俺ら3人、もう何も言うことができなかった。


こんな潤ちゃん見ちゃったら、何も言えないよ。


別々に暮らすのは寂しいと思ったけど、毎日こんな光景見せられるよりは・・・・いいか。


俺たちは2人から目をそらし、そっと溜息をついた。


―――ま、潤ちゃんが幸せなら、それでいいか・・・・・?


そんなことを思いながら―――


潤ちゃんの送別会は明け方まで続いたのだった・・・・・。





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