「ちょっと、ニノも持ってよ!」
「俺、箸より重いものは持っちゃいけないって父親の遺言で―――」
「うそつけ!おやじ生きてんだろうが!」
「あなた俺の親父知らないでしょうが!」
「うるさい!喧嘩してねえで早くそこ開けろよ!これ重いんだから!」
ニノと俺が玄関の扉の前でギャーギャー言い合っていると、後ろで両手に袋一杯のビールを持った大野さんが真っ赤な顔で怒鳴った。
「あー、すいませんね、大野さん」
同じく両手に袋一杯の肉を持っている俺の隣にいた、唯一手ぶらのニノが、玄関のインターホンを押した。
『はーい』
潤ちゃんののんびりした声が中から聞こえ、鍵を開ける音がして、扉が開いた。
「お帰り。あ、すげえ肉いっぱい」
潤ちゃんが俺の持ってる袋を見て目を丸くする。
「でしょ~?超安かったんだよ、これ」
「俺が紹介してあげたんですよ」
「へ~、ニノさすが」
潤ちゃんに褒められ、ニノが胸をはりどや顔をする。
「おい、早く入れってば!」
俺の後ろに隠れるように立っていた大野さんがいらいらと怒鳴り、潤ちゃんが気付いてそっちを見る。
「うわ、重そ。智、それ一つ持つから貸して」
と、手を伸ばす潤ちゃんに、首を振る大野さん。
「んにゃ、潤には持たせらんねぇ。翔くん、持って」
そう言って、横を見る。
―――え?翔ちゃん?
俺たちが驚いて大野さんの視線の先を見ると―――
「―――良くわかったね、俺が来たの」
暗がりの中、立っていたのは確かに翔ちゃんだった。
「しょおくん!仕事、終わったの?」
玄関から顔を出した潤ちゃんの顔が、パッと明るくなる。
それを見た翔ちゃんも、柔らかい笑顔を浮かべる。
「うん。―――これ、ワイン買ってきたんだけど・・・・そんだけビールあったらいらなかったかな」
そう言った翔ちゃんの片手には、おしゃれな袋からワインボトルが覗いていた。
「―――お酒なら、たくさんあって困ることないでしょ。全員揃ったんだし、早速はじめましょうよ」
そう言って、ニノがさっさと家の中に入って行った。
今日は、潤ちゃんの送別会。
翔ちゃんとめでたく想いが通じ合った潤ちゃんは、やっぱり翔ちゃんの住むマンションへ帰ることになった。
俺たち3人は、わかってはいたことだけれどやっぱりショックを受けていた。
潤ちゃんの気持ちはわかっていたけれど、やっぱり心のどこかで翔ちゃんを許すことができないでいたから。
『んじゃ、送別会、やろう』
そう言いだしたのは大野さんだ。
もちろんここから引っ越すだけで会えなくなるわけじゃない。
これからいつだって、会おうと思えば会える。
潤ちゃんが、もともと住んでいたところへ戻るだけなんだから。
それでも、やっぱり寂しさは拭うことができなかった。
翔ちゃんには敵わないってわかってたけど、それでも俺は―――俺たちは、本気で潤ちゃんが好きだったから・・・・・。
「皿、持ってくよ。これでいい?」
「うん。ありがと、しょおくん」
楽しそうな潤ちゃんと、気まずそうに何か手伝おうとうろうろする翔ちゃん。
大野さんは翔ちゃんとも付き合い長いし、俺も翔ちゃんとは潤ちゃんを介してなんだかんだ知り合って長いけれど。
ニノとは、こないだが初対面で、ちゃんと顔を合わせるのは今日が初めてと言ってもいいくらいだ。
お互い簡単な自己紹介なんかは交わしていたけれど、どうにも気まずい。
特にニノは翔ちゃんと一度も目を合わせようとしないし、翔ちゃんもニノを胡散臭げに見ている。
潤ちゃんはそんな2人の気まずい空気に全く気付いていないようだった。
ときどき翔ちゃんとこそこそ何か話してはかわいらしく笑う潤ちゃんを見て、せつなそうな目をするニノがいたり、逆にニノとキャッキャはしゃいでるのを見て、不機嫌になる翔ちゃんがいたり・・・・。
これが計算してやってるんだとしたらとんだ小悪魔だけど、潤ちゃんの場合は全く自覚なしでやってるから、見てる方はずっとハラハラし通しだった。
今日は潤ちゃんの大好きなスキヤキ。
いつもなら食べる前から飲みはじめてる大野さんも、今日は準備ができるまでおとなしく待ってた。
「―――じゃ、始めよっか!いっただきま~す!」
俺の掛け声で、口々に「いただきま~す」と食べ始める面々。
潤ちゃんの送別会だけど、肉を焼いたり取り分けたりすんのはやっぱり潤ちゃんの役割になっちゃうんだよなあ。
―――こういうのも、当分はできなくなっちゃうのかな・・・・・。
「智、ビール注ぐよ」
「ニノ、ほら、お肉もっと食べなよ」
「相葉ちゃん、ごはんおかわりする?」
甲斐甲斐しく動いてくれる潤ちゃんだけど、なぜか翔ちゃんにはあんまり声をかけない。
でも、見てるとさりげなく小皿に肉をとってあげたり、ビールを注いであげたりと黙っててもちゃんとやってあげてるんだよな。
そして、翔ちゃんもやってもらってるだけじゃなくて「潤も食べな」とさりげなく声をかけていたりする。
やっぱり一緒にいる時間が長いから、自然とそういう空気になってるってことなのかな・・・・・。
「潤くん、いつここを出るの?」
ニノの言葉に、潤ちゃんはちらりと翔ちゃんを見た。
「・・・・明日のロケは、午後からなんだ。だから午前中に荷物を運んじゃおうかなって」
「明日?そんなに早く?」
思わず俺は大きな声を出した。
「ごめん、当分休みもないし、半日空くのが明日だけで・・・」
「そっか。忙しいもんね・・・あ~、でも明日は俺、朝から仕事なんだよなあ。手伝いたいけど―――」
「大丈夫。そんなに荷物多くないし、何か忘れてたらあとで取りに来るよ」
そう言って笑う潤ちゃんの横で、ニノが口を開いた。
「―――俺、手伝うよ」
「え、でも、ニノ仕事―――」
「明日は休みだから。ここに来る時も、俺が手伝ってるし・・・・ね?」
ニノの笑顔に、潤ちゃんも嬉しそうに笑った。
「―――俺も、明日は休みとってるから、車出せるよ」
と、唐突に言いだしたのは翔ちゃんだった。
「え―――ホント?休み、わざわざとってくれたの?」
潤ちゃんが目を丸くする。
「車、あった方が荷物も楽に運べるから、さ」
ちょっと照れくさそうにそう言って爽やかに笑う翔ちゃん。
なんかちょっと、かっこよすぎるよな~なんて思ってたら・・・・
「―――そうやって、美味しいとこ持ってっちゃうんだ、翔さんは」
ぼそっと低い声で呟いたニノの言葉に、翔ちゃんの表情が変わる。
その瞬間。
俺たちの間の空気が、一気に凍りついた―――。
1人きょとんとする、潤ちゃんを除いては・・・・・。
にほんブログ村
ランキングに参加しています♪お気に召しましたらクリックしてくださいませ♪
拍手お礼小話はこちらから↑