「でも、なんでニノと2人でいたんだろう?潤、仕事休みだったのかな」


智くんが首を傾げる。


店を出て、駅までの道を2人で歩いていた。


智くんもこれから会社へ帰るというので、一緒に帰ることにしたのだ。


「智くん、聞いてないの?」


「うん、聞いてない。―――あ、雨?」


ぽつぽつと、雨が降り出して来た。


「そういえば今日、本当は朝から雨が降るって天気予報で言ってたけど、今頃降り出したね」


俺はちょっと足を速めた。


智くんも歩幅を合わせて歩く。


「あ、天気のせいじゃないの?ロケって、天気に左右されることもあるんでしょ?」


「あー、そうかも。でもなんでニノと―――」


まだ納得がいかないようにぶつぶつ言っている智くん。


俺はそんな智くんを見て、ちょっと苦笑した。




智くんに潤を紹介したのは、潤と一緒に暮らすようになってすぐのころだ。


両親を亡くしたばかりで、毎日部屋に閉じこもっていた潤。


食も細く、このままじゃ病気になってしまうんじゃないかと心配して、智くんに相談したんだ。


智くんを家に呼び、潤に会わせた。


潤は人見知りで、最初は俺に隠れるようにしてほとんど話もしなかったけれど―――


智くんは無理やり話そうとはせず、ごく自然に、徐々に距離を詰めていき、いつの間にか2人で釣りに行くようにまでなっていた時には、俺の方が驚いていた。


『潤はかわいいなぁ』『潤が大好きなんだよ、俺』


ストレートにそう言ってふにゃふにゃと笑う智くんは、本当に潤をかわいがってくれて、俺も嬉しかった。


だけど、その気持ちは兄弟みたいなものだと思っていたんだ・・・・・。




「そういえば、智くんはなんであそこにいたの?」


潤のことばかりで気付かなかったけれど・・・・


「ん?俺は、今まで世話になった取引先にあいさつしに行ってた」


「あー、そっか・・・・」


やっぱり、本当に辞めちゃうんだな・・・・・。


寂しさが、こみ上げる。


インテリアデザイナーとして今の会社に入って、俺の一番の相談相手となってくれたのが智くんだった。


先輩後輩の垣根をつくらない、いつも自然体の智くん。


智くんといるときは、俺も自然体でいられたんだ。


「智くんがいなくなったら、寂しいなぁ・・・・」


ぼそっと呟いた俺の言葉に、智くんが苦笑した。


「何言ってんの。翔くんは、俺がいなくたって全然大丈夫だよ」


「そんなこと、ないよ。いつも悩んだ時には智くんに相談してたもん」


「けど、最終的に解決してたのは翔くん自身でしょ。俺はただ、翔くんの話を聞いてただけだよ。翔くんはいつだって自分の考えをしっかり持ってて、最初からちゃんと結論が見えてるんだよ。それを、筋道立てて俺に話すことで確認してるだけ。翔くんなら、俺が力を貸さなくたってちゃんとやっていけるよ」


「・・・・買い被らないでよ」


「―――翔くんが本当に必要としてるのは、俺じゃないと思うけどなぁ」


「え――――」






翔くんに、助言なんかしてる場合じゃなかった。


翔くんが見たという、潤とニノのことが気になって仕方なかった。


ドラマへの出演が決まってから、潤は休みなく働いていた。


今日だって仕事だったはずなのに・・・・。


昨日、家族との約束があったために潤に会いに行けなかったのも気になっていた。


昨日はニノもバイトだと言っていたから、相葉ちゃんと2人きりだったはずだ。


あの相葉ちゃんがまさか、とは思うけど―――




「―――ただいま!潤!!」


インターホンを押し、中から扉を開けられると、俺はすぐに潤の姿を探した。


「うわ、大野さん?何血相変えてんですか」


扉を開けたニノが驚いて俺を見た。


「潤は!?」


「今、飯作ってますよ」


その言葉を聞き、俺はすぐにキッチンへ向かった。


グレーのエプロンをつけた潤が、楽しそうに野菜を刻んでいた。


「あ、智、お帰りぃ。今日のおみそ汁は大根だよぉ」


「―――今日、何してた?仕事は?」


俺の言葉に、潤は一瞬キョトンとして目を瞬かせた。


「仕事は、休み。雨が降るって予報だったから。今日はね、ニノと映画見に行ったよ」


「なんで!」


「なんでって、ニノも休みだったから・・・・何怒ってるの?智」


不思議そうに首を傾げる潤。


俺は、包丁を握っていない方の手をぎゅっと握って、潤を見つめた。


「―――ずるい」


「へ?」


「だって、昨日の夜は相葉ちゃんと2人きりで、今日はニノとデートしたんでしょ?俺だけ何もしてない!」


「何言ってんですか」


いつの間にか後ろに立っていたニノが、腕を組んで俺を睨んでいた。


「大野さんは、普段から潤くんにべたべたしまくってるじゃないですか」


「そんなことねーもん」


「そんなことありますよ。潤くんが嫌がらないからって、毎日抱きついてるじゃないですか!」


「だって、潤嫌がってないんだからいーじゃん!」


抱きつくのは、ただのスキンシップだ。


潤にしかしたことないけど。


潤は寂しがり屋だから、気を許した人間に対してはすごく甘えるし、ぴったりとくっついてくることが多い。


体全体で、『さびしい』『くっつきたい』って気持ちを表現するんだ。


初めて会った時よりも背も伸びたし大人っぽくなったけど、そういうところはずっと変わらない。


「俺も、潤とデートしたいのに!」


思いきりふてくされると、潤が困ったように眉を寄せた。


「え~、明日は仕事だからなぁ・・・・今日は・・・もう夜だし、雨降ってるし・・・・」


真剣に考えてくれる潤がもう、かわいくて愛しくて・・・・。


俺は、潤をぎゅっと抱きしめた。


「ああ!ほらまた!大野さん、潤くん今料理してくれてるんだから!」


ニノが後ろから俺の体をはがそうとする。


「だって、潤とくっつきたい!」


「ダメだって!」


「やだ!」


「子供か!!」


「じゃあ、潤、一緒に寝よ!」


「うん、いいよ」


さらりと答えた潤に、ニノが慌てる。


「潤くん、またそういうこと!!」


「だって、智とデートできないから・・・・。今日だけ、いいでしょ?」


そう言って目を潤ませる潤に、ニノも頬を染める。


そんなかわいい顔されたら、ニノだって何も言えなくなる。


本人に自覚が無いのが、また性質が悪いんだ。


「~~~~~~今日だけ、だからね?」


「ん。ありがと、ニノ」


「大野さん、変なことしないでくださいね?」


「あ~い」


じろりと俺を睨みつけるニノに、俺は目を合わせない。


変なことなんてしないよ。


だって、変なことってなんだかわかんないし。


ただ俺は、潤とくっついてたいだけだからね。


嬉しくて潤を見つめると、潤は無邪気な笑顔で俺を見つめ返してくれた・・・・・。




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