そばを食べ終わり、潤くんの部屋の整理を手伝い、ひと段落してから一緒に買い物に出かけた。


相葉さんも一緒だ。


直接会うのは初めてだけど、雑誌なんかで見るよりもずっと人懐こくて、そしてバカだ。


いちいちリアクションが大きいし、おせっかいな感じがちょっと苦手だ。


だけど、潤くんはこのおバカな同居人が大好きで、とても信頼しているのが見ていてわかる。


ま・・・・優しいのは認めるけど。


潤くんに対しての優しさは、好きな女の子に対してのそれだ。


わかりやす過ぎる。


2人きりで暮らすなんて、心配でしょうがないけど―――


でも、きっとこの人は潤くんを傷つけるようなことはしない。


そんな風に思えるのが、何だか悔しかった。


「潤ちゃん、なに作ってくれるの?」


スーパーにつき、3人で店内を歩きながら話す。


「ん~・・・・相葉ちゃん、何食べたい?今日は相葉ちゃんの好きなもの作るよ」


「ほんと?え~、潤ちゃんが作ってくれるなら何でもいいけど~」


鼻の下伸び過ぎ。


ほんっとにわかりやすいやつだな。


「そうだな~、俺ね、カレーライス大好き!」


「カレー?OK、決まりね」


ニコッと笑う潤くんを見て、相葉さんの顔がだらしなく緩む。


「・・・・変な顔」


聞こえないくらいの小さい声で呟いたのだけれど、本人にはしっかりと聞こえたようだ。


むっとした顔で、俺をじろりと睨んだ。


「―――現役モデルに向かって、それ言う?」


「俺は、松本潤派だから」


「むー・・・・どうせね、潤ちゃんみたいな美少年には敵わないけどね。だいたい、最初から張り合うつもりなんてないし」


「へえ?」


潤くんが野菜売り場でニンジンやジャガイモを吟味している間、俺は相葉さんと話していた。


「―――初めて潤ちゃんと会ったとき、本当にドキドキした。すっげえキラキラしててさ、笑顔がかわいくて、背が低いとか、そんなの全然気になんなかった。潤ちゃんみたいのが本当のスターなんだって、俺本気で思ったもん」


「・・・・ただのファンじゃないですか」


「ニノだってそうでしょ?」


「俺は、ただのファンじゃないですよ」


「じゃ、なに?」


「潤くんの、熱狂的なファンです」


「・・・・1番のファンは俺だけどね」


バチバチと、睨みあう。


「相葉ちゃん、ニノ、肉は牛と豚、どっちがいい?」


「豚!」


「牛!」


「・・・・・・じゃ、鶏にしようっと」






「色は、チャコールグレーなんかいいと思ってるんですが―――」


「いや、わたしはブラウンの方が―――」


九州での仕事は、なかなか難航しそうだった。


俺のデザインを見て推薦してくれたのはその会社の会長だったが、実際に打ち合わせにやってきたのは別の人物で、最初に聞いていた会長のコンセプトとは若干ずれがあるようだった。


「―――では、今日はこの辺で」



結局今日1日話し合って決まったのは大まかな企画の中の10%にも満たないことだった。



ホテルにつくと、俺はネクタイを緩め、ベッドに疲れた体を投げ出した。


「―――腹、減ったな・・・・・」


いつもなら、家に帰れば潤がいて、俺の好きなものを作って待ってくれていた。


どんな時でも笑顔で、『お疲れさま』って言ってくれる潤に、俺はいつも癒されてた・・・・。


「―――何してんだ、俺・・・・」


今頃潤は、何をしてるんだろう?


仕事はちゃんとできているだろうか。


ご飯はちゃんと食べているだろうか。


いつも俺のことばかり心配して、食事も俺の好きなものばかり。


俺がいないときは、DVDで映画をずっと見ていたりゲームをやっていたり―――食事も忘れてしまっていることがある潤。


食が細くて、熱を出しやすくて、肌も弱くて―――。


全てが繊細にできてる潤は、誰かが傍にいてやらなくちゃいけないって、そう思ってた。


そして、それは俺の役目だって・・・・・。


でも・・・・・


テレビの中で輝いている潤を見て、俺は気がついた。


潤は―――俺だけの潤じゃないんだって。


これから先、潤はもっと輝けるはず。


俺は、それを邪魔しちゃいけないんだ・・・・・。


俺の腕の中に閉じ込めていたら、潤は飛び立てない。


潤は、優し過ぎるから、きっと俺を1人ぼっちにはできない。


だから、俺から離れるんだ。


潤が、広い世界へ飛び立てるように―――。



『ピンポ―――ン』



「―――?誰・・・・?」


こっちに、知り合いはいないはずだけど・・・・


会社の人だろうか?


扉にチェーンをかけ、そっと開けてみると、そこに顔を覗かせたのは―――


「―――来ちゃいました」


「・・・・松下さん・・・・・」






「ビール買ってきた!」


夜になってからやってきた大野さんは、そう言ってにこにこしながら両手に持ったスーパーの袋一杯のビールを差し出した。


「やった!大野さん、サンキュー!ほら、ニノ運ぶの手伝って!」


「言われなくてもやりますって」


「ニノっていうの?俺、大野。潤は?」


翔さんの先輩だというその人は全然先輩っぽくない態度でフニャフニャと笑う人だった。


「潤くんは今カレー作ってます」


「あ、今日カレー?やった!じゅ~ん!」


「ちょっと、走ったらビールが!」


ビールの入った袋を揺らしながらキッチンへと走っていく大野さん。


―――ビールが泡立つって!


「―――あ、智、お疲れ」


「ただいま、潤!」


そう言って潤くんに抱きつく大野さんを、相葉さんも呆れて見る。


「ただいまって―――自分ちか」


「―――この人、なんなの?」


あまりに自然に潤くんに抱きつくもんだから、俺たちは怒ることも忘れていた・・・・・。




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