「潤ちゃん!おはよう!」
「おはよ、相葉ちゃん」
潤ちゃんは、あの話の翌日、俺の家へやってきた。
メールで『いつでもいいよ』と言ったら、『じゃ、明日』と返事が来てさすがにびっくりしたけれど―――。
「あれ?荷物は?それだけ?」
潤ちゃんが持ってるのは少し大きめのボストンバッグ1つだけ。
「ううん、家具とかはあるって言われたから1人でも大丈夫かなって思ったんだけど、意外にいっぱいあって。だから、手伝ってもらった」
「え―――手伝ってもらったって、誰に―――」
「お邪魔しま~す」
ちょっと高めの声とともに姿を現したのは、潤ちゃんよりも背の低い、犬みたいな顔のやつ―――。
「ニノ、ありがとね」
潤ちゃんにそう言われると、ニノと呼ばれたその男がにっこりと笑った。
「このくらい、全然いいよ。部屋はどっち?」
彼の両手には、大きめのスーツケースとスポーツバッグが。
「相葉ちゃん、俺の部屋、どっち?」
「え―――あ、こっち。あの、潤ちゃん―――」
ちらりとその男の方を見ると、男も俺をちらりと見る。
どう見ても、友好的とは言えない視線。
「あ、ニノ―――え―と、ニノ、なんだっけ?」
潤ちゃんが首を傾げる。
「―――二宮和也です」
にこりと笑うその目は、全然笑ってない。
「今日、引っ越すって言ったら手伝ってくれるっていうから・・・・。上がってもらってもいい?」
「あ、うん。じゃ・・・こっち」
俺は、一応朝から掃除しておいた部屋に2人を通した。
「結構広いんだね」
「でしょ?ここにあるものは全部自由に使って大丈夫だから」
部屋な10畳くらいの広めのワンルームで、前の住人が置いて行ったセミダブルのベッド、テレビ、DVD、洋服ダンスなどが置いてあり、備え付けのウォークインクローゼットがあった。
キッチンとリビング、それからトイレとお風呂は共同スペースとなっていた。
「荷物はこれだけ?」
俺の言葉に、潤ちゃんは頷き―――
「うん、あ―――バッグ、玄関に置いてきちゃった。とってくるね」
そう言って、部屋を出て行った。
「―――二宮―――くんは、何やってる人?年は?」
二宮が、俺をちらりと見た。
「親がやってるまん喫でバイトしてます。年は二十歳。潤くんと一緒ですよ」
「潤ちゃんの同級生、とか?」
「いや。友達―――ていうか、ファンです」
「ファン?」
「あんた―――一緒に住むからって、潤くんに手ぇ出さないでくださいね」
「は?」
「下心、見え見え」
じろりと俺を睨みつける二宮に、俺はむっとした。
「はぁ?何言ってんの?俺は、潤ちゃんのために―――」
その時、扉が開いてバッグを手にした潤ちゃんが顔を出した。
「ねえ相葉ちゃん、キッチン使っていい?」
「え、いいけど―――何か作るの?」
「ん。引っ越しそば、みんなで食べようよ」
そう言って、潤ちゃんはにっこり笑った。
―――天使。
俺と二宮はちらりと目を見交わし―――
「いいね!」
「いただきます」
潤ちゃんに笑顔を向け、部屋を出たのだった・・・・。
「おいし~。このそば、うまいね!」
潤ちゃんが作ってくれたそばを食べ、俺が感激していると、潤ちゃんは嬉しそうに笑った。
「でしょ?家の近くにすごくおいしいお蕎麦屋さんがあって、そこに行って分けてくださいってお願いしたんだ」
「へえ~。そういえば、潤ちゃんて料理もするんだっけ」
「うん、好きだよ。味は保証しないけど・・・・。相葉ちゃんは?」
「俺も、実家が中華屋だからできるけど、好きってほどでもない」
「そうなんだ。じゃあ、今日は俺が夕飯作るね」
「マジ?超楽しみ!」
「―――潤くん、甘やかし過ぎ」
二宮が、ぼそりと言った。
「なんだよ」
むっとした俺を二宮が睨みつける。
「お手伝いさんじゃないんだから、なんでもやってあげちゃダメだよ?」
「んふふ、でも俺、料理好きだから。1人分よりも、2人分作る方が楽しいもん。あ、今日はニノも食べてってよ。手伝ってくれたお礼」
潤ちゃんの言葉に、二宮の頬が染まる。
―――こいつ・・・・・
「あ・・・・ありがと。あ、じゃあ、買い出しとか付き合うよ。荷物持ちするから」
「ありがと」
「ニノってさぁ」
突然そう言った俺に、二宮の顔が引きつる。
「―――は?なんであんたがニノって呼ぶの?」
「いいじゃん、潤ちゃんがニノって言ってるんだし。今日から俺と潤ちゃん、一緒に住むんだし。友達になったも同然でしょ?」
「なんで俺が―――」
その時、潤ちゃんの携帯が鳴りだした。
「―――あ、智だ―――もしもし」
「・・・・何で、俺があんたと友達になんなきゃいけないんですか」
小声になったニノに、俺はにやりと笑った。
「俺と潤ちゃんが友達だから。友達の友達はみな友達だよ」
「―――ばっかじゃないの」
「バカじゃねえしっ!」
「ねえねえ相葉ちゃん」
電話で大野さんと話していた潤ちゃんが、突然俺に声をかける。
「ん?なに?」
「智がね、一緒にご飯食べたいって。ここに呼んでもいい?」
「あー・・・・大野さんなら、別に・・・・」
「ありがと。―――もしもし、うん、いいって。―――駅まで迎えに行くから、着いたら電話して―――」
「―――大野さんって?」
ニノが俺に小声で聞く。
「翔ちゃんの先輩」
「翔さんの?―――へえ」
ニノの眉毛がピクリと動いた。
どうやら翔ちゃんのことも、あまり良くは思ってないみたいだ。
「―――ニノって、すぐに思ってること表情に出す方なんだ?」
「隠す必要ない時はね。無駄な気を使うつもりはないんで」
―――なるほど。
だから、潤ちゃんにはめちゃくちゃ優しいんだ。
「俺も見習おう」
「は?」
「俺、ニノには気ぃ使わないことにする」
「―――俺も、そのつもりですけど」
「なら、遠慮はいらないね」
「ですね」
俺たちは、潤くんを間にはさみ、バチバチと見えない火花を散らしていた・・・・。
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