「潤ちゃ~ん!」
俺は、ダンスレッスンを終えてタオルを手に出てきた潤ちゃんに手を振った。
潤ちゃんが、俺に気付いて笑う。
「相葉ちゃん」
「ランチ一緒しよ!」
「ん」
ファッション誌の撮影で隣のスタジオに来ていた俺。
潤ちゃんがダンスのレッスンでこのスタジオに来ていると聞き、やってきた。
潤ちゃんが今度のドラマでやる役はダンサーの役なので、潤ちゃんはダンスのレッスンも受けることになっていた。
体が柔らかく、運動神経の良い潤ちゃんはダンスも『飲み込みが早い』と先生に褒められていた。
スタジオを出て、近くのカフェまでいこうと歩いていると、潤ちゃんがある方向を見ているのに気づいた。
「どうかした?」
「ん・・・・この近くに、しょおくんの会社があるんだ」
「え、そうなの?今ちょうど12時だし、お昼ごはん一緒に食べれば?」
でも、潤ちゃんは首を横に振った。
「どうして?」
「―――相葉ちゃん、俺ね・・・・」
「ん?」
「俺・・・・あの家を出ようと思って」
「え・・・・それはこないだも聞いたけど・・・・え?すぐにってこと?」
「うん」
「なんで?何で急に―――」
その時だった。
「潤!」
後ろから声がして、俺たちは同時に振りかえった。
笑顔で手を振りながら近づいてきたのは、確か翔ちゃんの先輩の・・・・大野さん、だったかな。
「智」
潤ちゃんが笑顔になる。
「なにしてんの?」
「近くのスタジオで、ダンスレッスンしてた。智、これからランチ?」
「うん。翔くん誘おうと思ってたんだけど、先に出ちゃったみたいでいなかった。2人もこれから?一緒する?」
「うん!」
俺たちは近くのカフェに入り、ランチのセットを注文した。
ランチを食べ、しばらくは楽しくおしゃべりをしていたけれど―――
俺は、さっきの潤ちゃんの言葉が気になって仕方なかった。
どうして、急に家を出ようと思ったのか―――
「ねえ、潤ちゃん、さっきの話・・・・本気?」
俺の言葉に、潤ちゃんの隣に座っていた大野さんがきょとんとする。
「・・・・なんの話?俺が聞いても大丈夫なこと?」
「―――智なら、大丈夫。うん、本気だよ。俺、あの家を出ようと思ってる」
「なんで?翔ちゃんと何か―――」
「相葉ちゃん、今1人暮らしでしょ?」
潤ちゃんは俺の問いには答えず、そう聞いてきた。
「うん、そうだけど―――」
「俺、1人暮らししたことないから、よくわかんなくて・・・・どの辺に住むのがいいのかな。事務所に近い方がいいと思う?」
「え、そうだね、でも―――」
「ちょっと待って。潤、家出るの?それ、翔くん知ってるの?」
大野さんが話に割り込んでくる。
潤ちゃんはちょっと俯き、小さく首を振った。
「まだ言ってない」
「なんで―――」
「・・・・しょおくんが・・・・・」
潤ちゃんがそう口を開いた時―――
ふと、潤ちゃんが窓の外に目をやり、はっとしたように目を見開いた。
「しょおくん・・・・」
「え?」
「あ、ほんとだ。あれ、あの子・・・・・事務の女の子かな」
店の窓から、向かい側の通りを歩く翔ちゃんの姿が見えた。
翔ちゃんは、きれいな女の人と一緒だった。
「・・・・・たぶん、あの人だ」
潤ちゃんが言った。
「え?何が?」
俺が聞くと、潤ちゃんは翔ちゃんをじっと目で追ったまま、言った。
「―――しょおくんが、結婚したい人」
「はぁ?結婚?」
大野さんが素っ頓狂な声を上げる。
「何言ってんの?潤。結婚なんて、翔くんがするわけ―――」
「しょおくんが昨日、言ってたんだよ。結婚したい人がいるって・・・・。たぶん、あの人だよ。俺・・・・もう、しょおくんの邪魔はしたくない。だから、家を出るの」
そう言って、潤ちゃんは力なく笑った。
「潤、ちょっと待って、その話―――」
大野さんが何か言いかけた時、潤ちゃんの携帯の着信音が鳴りだした。
「あ―――ごめん」
潤ちゃんは携帯を出すと、耳にあてた。
俺と大野さんは、ちらりと目を見交わした。
「―――大野さん、聞いてた?翔ちゃんに」
「結婚の話?全然。だって翔くんは―――」
「―――わかりました。じゃ・・・・・」
潤ちゃんが、電話を切る。
「相葉ちゃん、ここから青山って、どうやって行ったらいい?」
「え・・・青山?こっからだとタクシー使った方が・・・」
「じゃ、そうする」
そう言って立ち上がろうとする潤ちゃんを、俺は慌てて止める。
「え、すぐ行くの?仕事?」
「うん。マネージャーが、すぐに来いって」
「ちょ―――場所、ちゃんとわかってるの?」
「なんとなく」
先にすたすたと歩いて行ってしまう潤ちゃんの後を、俺は慌てて追う。
「なんとなくって―――ちょっと待って、俺も一緒に行くから!―――大野さん!翔ちゃんのこと―――」
潤ちゃんのと2人分の代金を渡しながら、大野さんを見ると、大野さんが頷く。
「わかってる。任せといて」
「―――よろしく!」
「―――あ、ランチのお金」
タクシーに乗り込むと、潤ちゃんが急に思い出したように口を開いた。
「俺が払っといたから」
「あ―――ごめん、今、払うから」
バッグから財布を取り出そうとする潤ちゃんの手を、俺は止めた。
「いいよ。それより―――本気で家を出るの?」
「―――うん」
そう言って頷く潤ちゃんの目に、迷いはなかった。
繊細で、流されやすいところもあるけれど、潤ちゃんは意外と頑固だ。
こうと決めたら、てこでも動かないところがあるのだ。
「―――じゃあ、俺のとこに来ない?」
「―――え?」
目を瞬かせる潤ちゃんに、俺は言った。
「俺の住んでるとこ、もともとモデル仲間とシェアしてたとこだから、部屋は余ってるんだ。今、俺1人だからね。2人用だから家賃もちょっと高めで、シェアしてくれる人探してたの。だから、潤ちゃんさえよければ一緒に住んでくれると嬉しい。前の住人が置いて行ったから、一通りの家具は揃っててすぐに住めるし」
先月、結婚して引っ越していったモデル仲間は、相手がどこだかの令嬢だとかで、使っていた家具や電化製品など、ほとんどの物を置いて行っていた。
まさか、潤ちゃんと住むことになるなんて思わなかったけれど―――
でも、翔ちゃんが結婚するっていうのなら―――
俺が、遠慮する理由なんてないもんね?
俺、本当に・・・・・
「どうする?潤ちゃん」
潤ちゃんが、にこりと笑った。
「うん、俺、相葉ちゃんと一緒に住む!」
潤ちゃんが、好きだよ・・・・
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