昼休み。


俺は会社の食堂で1人で昼食をとっていた。


隣のテーブルでは女性社員たちがテレビを見ながらおしゃべりしている声が、自然と耳に入って来ていた。


「あ、これこれ!このマンガわたし持ってるの!」


「え?ドラマでしょ?」


テレビでは、昼のワイドショーで新しいドラマの制作発表記者会見の様子が放送されていた。


「そうそう、小雪がやるのよね。相手役は?」


「なんか、オーディションで選ばれたとか―――あ、ほらほらこの子!」


「え~、なんか可愛いね」


「ていうか、美人じゃない?名前は?」


と、1人の女性社員の声に応えるかのように、テレビから声が聞こえてくる。


『―――相手役に大抜擢されたのは、20歳の現役モデル、松本潤くんです!』


―――え?


俺は箸を持つ手を止め、テレビ画面を見つめた。


たくさんの記者たちを前に、緊張して他の出演者たちと並んで座っているのは―――


『―――松本潤です。あの・・・・がんばります』


「キャーーー、やばい!ちょっとかわいいんだけど!」


ちょっと頼りなげな、おどおどした様子の潤に女性社員が黄色い声を上げる。


俺はただ、口をぽかんと開けてテレビ画面に見入っていた。


役作りなのか、潤は髪にパーマをあて服もちょっと派手目なデザインで、より中性的な雰囲気になっていた。


主人公のOLにペットとして飼われるという一風変わった設定のドラマで、原作は人気コミックということで、原作との違いなどが語られている中、潤は落ち着かない様子で主役の女優の隣に座っていた。


俳優としては全くの新人で、無名と言ってもいい。


だけど、俺の目には潤はとても輝いて見えて―――


その存在感の大きさに、圧倒されていた。


「超美形じゃない?」


「美少年っていうの、ぴったりだね~」


「わたしこれ、絶対見よう!」


女性社員たちの黄色い声を聞きながら―――


俺はただ、テレビを見つめていた。


きっと潤は、この世界で生きていける。


今までずっと一緒にいて、俺は全然気付かなかった。


潤が、こんなにも輝いていることに。


喜びよりも驚きの方が大きくて、俺は呆然とテレビを見つめることしかできなかった・・・・・。







潤がもっと有名になって、ファンやマスコミに追いかけられるようになったら、俺たちはどうなるんだろう。


いとこ同士で一緒に住んでいることが明るみに出ても、何ら問題はないはずだ。


でも、もしも。


もしも俺たちの関係を怪しむものがいたら・・・・・?


あの時の彼女のように。


俺は、いい。


今の会社を辞めたとしても、インテリアデザイナーとして独立することだってやろうと思えばできる。


だけど、潤は?


もし俺たちのことがスキャンダルになったとしたら、潤はどうなる・・・・・?





「櫻井さん、どうかしました?」


休憩を終え、仕事に戻ってもまだぼんやりと考え事をしていた俺のことを、松下さんが不思議そうに見ていた。


「え?」


「なんだか、ずっと深刻な顔されてましたけど・・・・大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、大丈夫」


「そうですか?それならいいですけど・・・・・」


そう答えてから、彼女はちらりと素早く周りを見回して―――


「あの、今日、もしよろしかったら一緒にお食事しません?」


昨日、俺は結局彼女の告白に応えられなかった。


それでも、彼女は言った。


『―――わたし、諦めません。櫻井さんが振り向いてくれるまで、待ってますから』


「あー・・・・」


「あ、もし都合が悪ければ、言ってくださいね」


そう言って余裕の笑みを浮かべる彼女を、俺はしばらく見ていたけれど―――


「いや・・・・いいよ」


俺の答えに彼女は一瞬驚いたように目を見開いたけれど―――


すぐに嬉しそうに目を輝かせ、熱い眼差しを俺に向けた。


「嬉しい!楽しみです!」


美人で、仕事もできて、家柄も申し分ない。


いつまでも過去に立ち止まっていても、何も変わらない。


自分を変えるなら―――


今しか、ない・・・・・。





彼女と食事をし、家に帰ると潤が風呂から出てきたところだった。


「―――あ、お帰り」


バスローブ姿で濡れた髪を拭きながら、微笑む潤。


「・・・ただいま。ケーキ、買ってきた」


俺の言葉に、目を見開く。


「ケーキ?」


「ん・・・・お祝い」


「お祝い?なんの?」


「なんのって・・・・お前のに決まってるだろ?仕事、決まったんだから」


「あ・・・・・」


「ほら、コーヒー入れるから、服着ろよ」


「――――うん!」






「おいしそう」


俺の買ってきたフルーツタルトを嬉しそうに見つめる潤。


「見てないで、食えよ」


「ん。いただきます!」


そしておいしそうにタルトを食べる潤を、俺は見つめた。


「・・・・今日、テレビ見てた。すごい役もらったんだな」


「そう・・・・みたい。俺、全然、わかってなくて・・・・これからいっぱいやらなくちゃいけないことあって・・・・」


「頑張れよ。せっかく決まったんだから」


俺の言葉に、潤はまた嬉しそうに笑った。


「うん、がんばる」


「潤・・・・・」


「ん?」


おいしそうにタルトを頬張る潤に。


俺は、思い切って口を開いた。


「話が、あるんだ・・・・・」


潤が、口をもぐもぐさせながら、首を傾げる。


「なあに?」


「俺・・・・・同じ会社の女の子と、付き合うことに、なった―――」


潤の手が、止まる。


「・・・・そう・・・・」


俯く潤。


「それで・・・・俺・・・・・」


声が、震えそうになる。


ちゃんと、言うんだ。


「俺・・・・・彼女と・・・・・結婚を、考えてるんだ・・・・・」




潤の手から、フォークが滑り落ちた―――――




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