「お疲れ様で~す!」
事務所に入っていくと、ちょうどエレベーターから出てきた顔見知りのスタッフと目が合う。
「おー!珍しいな、売れっ子!今日はどうした?」
「あはは、やめてよその言い方!いや、今日は潤ちゃんも来るって言ってたからさ」
俺の言葉に、スタッフの顔色がちょっと曇った。
「ああ・・・・来てたよ、松潤。今社長と話してる」
「社長と・・・・・?」
心配になって、俺は早々に話を切り上げエレベーターに乗り込んだ。
「あ、相葉さん、お疲れ様です。すごいですね~、今月の表紙、3誌も!」
「あのさ、潤ちゃんは?」
女の子のスタッフが、ちらりと社長室に視線を送った。
「ああ・・・・今、社長とお話してます。松本さん、今月も仕事があまりなくて・・・・」
「そうなの・・・・?」
「はい・・・・あ、でも、ドラマのオーディションの話があるって聞きましたよ」
「ドラマ?潤ちゃん、俳優になるの?」
「わかりませんけど・・・・でも、モデルだけでやっていくにはもう厳しいんじゃないかって。松本さん、ルックスはいいんですけど、モデルとしては背が―――」
女の子がわけしり顔でペラペラしゃべってると、社長室から潤ちゃんが出てきた。
「潤ちゃん!」
俺の声に潤ちゃんが気付いて、にっこりと笑う。
「相葉ちゃん!」
潤ちゃんと会うのも久しぶりだ。
雑誌などの撮影現場でも、あまり一緒にならなくなってしまったから・・・・・。
「はい、潤ちゃん、たこ焼き」
近くの公園のベンチで待っている潤ちゃんに、2人でよく買いに行くたこ焼きを渡す。
「ありがと。相葉ちゃん、コーラでよかった?」
潤ちゃんは持っていたペットボトルの1つを俺にくれた。
「サンキュ―。・・・・オーディションの話があるんだって?」
「うん・・・・ドラマだって。俺、芝居とかしたことないんだけど」
「大丈夫だよ、潤ちゃんなら!がんばって!」
俺の言葉に、潤ちゃんはにっこりと笑う。
「うん、ありがと。相葉ちゃんに言われると、大丈夫な気がする」
ふわりと微笑む潤ちゃんは、天使みたいだった。
潤ちゃんとは5年前に知り合った。
モデルとして行った撮影現場にいた潤ちゃんは、女の子みたいに可愛かった。
モデルとしてはちょっと小柄だったけど、端正な顔立ちとスタイルの良さ、何よりもその華やかなオーラで誰よりも光り輝いていた。
そして、見た目はちょっと近づきにくい雰囲気を持っているのに、本当は人懐こくてすごくさびしがり屋な子なんだ。
それがわかってから、俺と潤ちゃんは親友になった。
他のモデルたちみたいにがつがつしたところのない、無邪気な潤ちゃんが俺は大好きだった。
俺たちの関係は、たとえ仕事で会えなくなったって変わらないよね・・・・・。
「相葉ちゃんののってる雑誌、見たよ。超かっこいいね」
「そう?潤ちゃんに言われると嬉しいなあ」
「みんな言ってるよ。俺、相葉ちゃんが褒められるとすげえ嬉しい」
「・・・・俺は、潤ちゃんに褒められると嬉しいよ」
そう言って潤ちゃんを見つめると、潤ちゃんは無邪気に微笑んだ。
「たこ焼き、おいしいね」
・・・・・ホント、無邪気だよね・・・・
「ん・・・・・おいしいね。このコーラも」
「うん、おいしい。―――あ、猫、相葉ちゃん、猫いるよ」
袖をくいくい引っ張る潤ちゃんにつられ木の上を見ると、枝の上に三毛猫が寝ていた。
「ほんとだ」
「降りて来ないかなぁ」
立ち上がって木に近付く潤ちゃん。
「おいで~、たこ焼きあげるよ~。カツオブシもかかってるよ~」
木の下で背伸びしながら猫に話しかける潤ちゃんは超絶可愛い。
でも残念。
猫は降りて来ない。
「潤ちゃん、猫に好かれないんじゃなかったっけ」
本人は動物大好きなのに、どうしてだか好かれなくて、いつも引っ掻かれるって前に言ってた。
「―――たまには、俺になついてくれる物好きな猫がいてもいいのに・・・・・」
そう言ってしゃがみこむ潤ちゃんは寂しそうだった。
―――何かあったのかな・・・・・。
「潤ちゃん・・・・翔ちゃんと何かあったの?」
俺の言葉に、潤ちゃんの体がピクリと震えた。
―――ビンゴ
潤ちゃんは本当にわかりやすい。
だから、潤ちゃんがずっと前から翔ちゃんに片思いしてることも知ってる。
モデルになったばかりの頃はよく潤ちゃんの家に遊びに行っていたので、翔ちゃんともよく顔を合わせていた。
爽やかなイケメンで、俺にも気さくに話しかけてくれる翔くんは、男から見てもかっこいいと思う。
勿論女にももててた。
結婚の約束までした彼女がいたけど、いつの間にか別れてたっけ。
その話を潤ちゃんに聞こうとすると、潤ちゃんはすごく悲しそうな顔をする。
だから、詳しいことは知らなかった。
最近は、俺も忙しくてなかなか潤ちゃんの家へ行く時間がないから、翔ちゃんとも会っていない。
2人の間に、何かあったのか・・・・?
「潤ちゃん、こっち来て一緒に食べようよ」
なるべく明るく声をかけると、潤ちゃんは立ち上がり、たこ焼きを両手でしっかり持ったままてくてくと俺の方へ歩いてきた。
そしてまた俺の隣に座ると、『ん』っと、たこ焼きを俺の膝に乗せた。
「え、もういらないの?まだ半分残ってるよ?」
「もうお腹いっぱい。相葉ちゃん、食べて」
そういえば、潤ちゃんて恐ろしく少食だったっけ・・・・。
俺がたこ焼きを食べている間、潤ちゃんはコーラを飲みながら木の上の猫を眺めていた。
「潤ちゃん・・・・・言いたくなかったらいいけど、翔くんと何があったの?」
その言葉に潤ちゃんは下を向き、きゅっと唇を噛んだ。
長い睫毛が揺れてきれいだった。
「俺・・・・1人立ち、するんだ」
「え・・・・翔くんの家、出るの?いつ?」
「わかんない」
「ええ?決まってないの?」
「うん」
翔ちゃんに、何か言われたのかな・・・・・?
「でも・・・・潤ちゃんは、出たくないんじゃないの?あの家」
「・・・・・でも、出るの。でなきゃ、ダメなの。今すぐは無理だけど、ちゃんと仕事が決まったら・・・・」
そう言う潤ちゃんの顔は
今にも、泣きだしそうに見えた・・・・・。
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