「智ぃ、今日家来る?」


翌日も潤のバイト先であるカフェへ行くと、すでにニノがきていたので同じテーブルにつく。


するとすぐにそこへ潤が水を持って来て、オーダーを取る前にまずそう聞いてきたのだ。


「へ・・・・?」


思わず呆けた声を出してしまうと、ニノがむっとした表情で俺を睨みつける。


「・・・・・何で大野さんにそんなこと聞くの?」


「智と、ちょっと話したいことがあるから。今日もラストまでだし、遅くなると電車もなくなるし、無理だったらいいんだけど」


「話って・・・・・?」


俺の言葉に、潤はちらりとニノを見てから肩をすくめた。


「・・・なっちゃんのことだよ。でも、別に今日じゃなくてもいいよ。時間があるときでいい」


「いや、俺はいいんだけど・・・・でも、電車がなくなるのは困っちゃうな。昨日も終電ぎりぎりだったし。まあ、昨日は俺が勝手に最後までいたからいいんだけど」


結局昨日は3人で潤を家まで送っていったのだ。


終電の時間は午前1時で、昨日はぎりぎりで飛び乗ることができたけれど、本当に1分遅かったらアウトだった。


「なら、家に泊ってく?」


潤の言葉に、俺は思わず口に含んだ水を吹き出しそうになる。


そして、それを聞いたニノの顔が引きつる。


「潤くん?それは―――」


「うち、俺1人だから部屋なら余ってるし。いつでもいいよ?」


―――別に、特に意味はないんだろう。


そりゃそうだ。


俺も潤も男なんだから。


深い意味なんてあるわけがない。


なのに、何で俺はこんなに動揺してるんだろう・・・・・。


「それ、俺も一緒じゃだめなの?」


ニノの言葉に、潤はちょっと困ったように笑った。


「ごめん、ちょっと他の人がいるとこじゃ話せないことなんだ」


その言葉に、俺は思い当たった。


もしかして、夏美・・・・・?


ニノは、夏美が潤の中にいることを知らない。


もちろん、こんな人のいる店で夏美が出てくるわけにもいかないだろう。


完全に、潤がただのおかまになったようにしか見えないはずだから。




潤が離れると、ニノが俺を睨みながら言った。


「どういうこと?」


「え?」


「・・・・・大野さん、潤くんに手ぇ出さないでくださいね?」


「だ、出さないよ。何言ってんの」


「・・・そうですよね。あなたは夏美さんが好きだったんですもんね。その弟に、なんて、ねぇ?」


「そう・・・・だよ・・・・・」


そうだよ。


俺は、夏美と結婚するはずだったんだ。


そうなってたら、潤は俺の義弟になってたはずで・・・・・


その潤を好きになるなんて、あり得ないことだ・・・・・・






「俺さ、着替えとか持って来てないけど」


潤の家へと向かう道を2人で歩きながら、俺は言った。


ニノは潤の家まで一緒に来ると言っていたけれど、潤に『毎日2人も3人も送ってくれなくて大丈夫だよ。今日は智がいるから、ニノは帰っていいよ』と言われ、仕方なく帰ったのだった。


「着替えくらい、俺の貸すよ。コンビニ寄って、歯ブラシだけ買って行こう」


と言われ、2人でコンビニに入る。


「あ、そういや下着も買った方がいいよね。あとは、靴下と・・・・・何が必要?」


なんか、恋人同士の会話みたいだよな・・・・・。


俺は気恥ずかしくなって、潤と目を合わせないようにわざと店内をきょろきょろと見回していた。


「いや、そんくらい?―――あ、あれうまそう」


ふとレジの横を見ると、フランクフルトや唐揚げ、コロッケなどがショーケースの中に並んでいた。


「食べる?そういや、カズも智もあの店にいるときあんまり食わないよね?お腹すいてんじゃない?」


そう。俺もニノも、あの店にいる間はコーヒーばかり飲んでいるためかお腹がたぽたぽしてしまってあまり食欲もわかず、サラダくらいしか食べないのだ。


で、今頃になって腹が減ってくる。




結局そこでコロッケなどの惣菜をたくさん買って、潤の家へ向かった。


家につくと、潤は惣菜を皿に並べ、ビールを出してくれた。


「え、ビール、飲むの?」


潤は確かまだ19だったはず。


まあ、あと1ヶ月ちょっとで20歳になるけれど。


「俺は飲まないよ。智はビール飲むって聞いたから、買っといたの」


「あ、そうなんだ・・・・。聞いたって、夏美に?」


「他にいないじゃん。・・・・・なっちゃんが、智と話したいって」


「夏美が・・・・・」


「とりあえず、食べてよ。俺も一緒に食べたいし。それで風呂入ってから、なっちゃんと代わるから」


「あ・・・・・うん」




2人で、他愛のない話をしながら、遅い夕飯を食べる。


潤は、笑う時にそのきれいな顔をくしゃっとさせて思いきり笑う。


無邪気で、子供のような笑顔はまるでひまわりみたいだった。


―――『潤は、自分のことをわかってないから・・・・・』


夏美の言葉が頭をかすめる。


なんとなく、その意味がわかる。


その笑顔にどれだけの威力があるか、潤はたぶん全くわかってないんだと思う。


ニノや、相葉くん、それから翔くんの想いにも、本当には気付いていなんだろうな・・・・・。


「―――智、絵は昼間に描いてるの?」


「うん。今は、そうだね。特に時間を決めてるわけじゃないけど」


「へえ。今度、見にいってもいい?」


「え、俺の絵を?潤、絵に興味あるの?」


「あるよー。美術館とか行くの好きだもん。スペインでも時々行ってたよ」


「マジで?じゃあ、今度個展やれたら見に来てよ」


「行く行く。んふふ、超楽しみ。―――あ、いいよ、俺片付けるから」


食べ終わった皿を持った俺に、潤が声をかける。


「いいよ、皿洗いくらい俺にもできるから。潤、風呂入ってくれば」


「そう?じゃあ・・・・・ごめん、ありがとう」




潤が部屋から出ていくと、俺は軽く息を吐き出した。


皿を流しに運び、洗いものをしながら心を落ち着かせる。


別に、緊張する必要なんかない。


ただ、夏美の家に泊るだけだ。


そう。


俺は、夏美と話をするために呼ばれたんだから。


そう自分でもわかっているはずなのに―――


俺の脳裏には、潤の無邪気な笑顔がこびりついて離れなかった・・・・・。



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