喫茶店で働く潤は、とても楽しそうでキラキラと輝いて見えた。
顔色こそ悪いけれど、いろんなお客さんとの会話を楽しみながら調理もこなし、優雅にコーヒーを入れる姿に店内の客がみんな見惚れるほど様になっていて。
あのガラの悪い中崎という男がモデルにと誘う気持ちもわからないではなかった。
その中崎とも潤はそつなく会話をし、決していやな顔を見せなかった。
なんだか、潤を見ているだけであっという間に時間が過ぎていくみたいだった。
見ていて、飽きることがないというのか。
どうしてそんな気持ちになるのかはわからなかった。
潤の中に、夏美を見ているからなのか、それとも・・・・・
そしてニノもまた、ずっと潤を見つめいた。
その瞳には、切なさもにじんでいて・・・・・
俺がニノの顔を見ていると、ニノが俺の視線に気づいて顔をしかめた。
「なんすか」
「いや、別に。・・・・・ここのバイトって、何時までだっけ」
「ラストまでだよ。12時。あんたは何時までいるつもり?」
12時・・・・そうか。酒も出すんだもんな、この店。
「特に、決めてなかった。ニノは?最後までいるの?」
「俺はそのつもりですよ。帰り、潤くん1人じゃ心配だし」
心配って・・・・・潤も一応男だけど。
でも、何となく心配する気持ちがわかる。
潤は、純粋で真っすぐで・・・・そして儚げだ。
どこか、守ってやらなければと思わせるんだ。
「潤ちゃんは俺が送ってくからいーっつってんのに」
そう言って、俺たちのグラスに水を注いだのは相葉くんだ。
「あれ、あなた今日いたんですか」
「ひどっ。遅番だから、7時からなの!俺も今日はラストまでだから、潤ちゃんと一緒に上がりだし、ちゃんと送っていくよ」
「そういうあなたが一番危ないから」
「危ないって何!俺は潤ちゃんに変なこととかしないもん!」
「変なことって何」
くすくすと笑いながら、潤が椅子を一つ持って、俺らのテーブルに着いた。
「潤くん、休憩?」
「うん。相葉ちゃん、ありがと」
潤の前にパスタの皿とコーヒーを置く相葉くん。
「いえいえ、ごゆっくり」
相葉くんも笑顔を向け、それからまた他の客のところへ行った。
「いきなりラストまでなんて大丈夫なの?疲れない?」
俺の言葉に、潤は笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。これでも体力ある方だし。仕事してた方が時間も早く過ぎるし、返って楽なんだよ」
「でも・・・・・」
「2人は?これからどうすんの?」
潤の言葉に、俺とニノは顔を見合わせた。
「―――潤くん、俺とこの人、別に一緒に来てるわけじゃないからね」
ニノの言葉に、潤は笑った。
「わかってるよ。けどなんか、仲よさそうに見えるからさ」
「どこが?話なんてほとんどしてないのに」
ちょっと憮然とした態度でニノが言う。
「でもなんか、見ててしっくりくるって言うか・・・・相性、よさそうだよ?」
「「いや、よくはないから!」」
思わずはもったニノと俺を見て、噴き出す潤。
無邪気な笑顔が可愛くて、胸が高鳴った。
なんだろうな。
胸が苦しい。
ずっと見てたいのに、見てると苦しくなる。
視線がそらせないのに、そらさなくちゃいけないと思う。
―――夏美・・・・・
俺は、どうしたらいい・・・・・?
『―――潤』
その夜、結局カズと智は店が終わるまで残ってて、俺たちは相葉ちゃんも含め4人で帰ることになった。
そして俺の家の前で別れて、今風呂に入ろうと洗面所の鏡の前に立ったところだった。
「なっちゃん・・・・」
鏡の中の俺が、なっちゃんの声で話しかける。
顔は俺なのに、表情と声がなっちゃんで、混乱しそうになる。
『バイト、がんばってるね。でも、あんまり無理しないでね』
「無理なんてしてないよ。これからは俺1人で暮らしてかなきゃいけないんだからさ、バイトくらいちゃんとやらなくちゃ」
俺の言葉に、なっちゃんの顔が曇る。
「あ・・・・ごめん。なっちゃんのこと、責めてるんじゃないよ?」
『わかってる・・・・・潤、でもわたしの保険金もその内下りると思うし、やっぱり無理はしないで』
なっちゃんは、俺の知らない間に俺を受取人にして保険に入っていた。
俺のために・・・・・
「・・・・無理はしてないってば。バイト、楽しいんだ。翔くんと相葉ちゃんもいるし。あー、今日はカズと智も来たよ」
『うん。知ってる・・・・・。智には、わたしがお願いしたの。潤のことが心配だから・・・・・』
「大丈夫なのに・・・・・。それより、なっちゃんはいつまで俺の中にいるの?俺が、なっちゃんをひきとめてるの?」
俺のことが心配だというなっちゃん。
その心配がなくなるまで、なっちゃんは成仏できないんだろうか?
それで、大丈夫なんだろうか?
死後の世界のことなんてよくわからないけど・・・・・
『潤のせいじゃないの。わたしが、勝手に心配してるだけ。昔から、潤のことずっと心配してたから、くせになってるのね』
そう言って笑うなっちゃん。
でもその笑顔は、どこか寂しげだった。
「なっちゃん・・・・・?」
『ねえ、潤・・・・・。今度、智をここへ呼んでくれる?』
「え?ここって、この家ってこと?」
『そう。やっぱり外じゃなかなか智と話ができないから・・・・・ここなら、落ち着いて話せるでしょ?』
―――ああ、そうか・・・・・・
なっちゃんは、智と話がしたいんだ。
恋人だった智と・・・・・
だから、俺の中に・・・・・
『ときどきで、いいの・・・・・』
「・・・・・わかった。ここに来てもらうよ」
俺の言葉に、なっちゃんは嬉しそうに微笑んだのだった・・・・・。
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