「まぁくん、がんばってね!」

バスケ部の練習試合で、俺はコートに出ていた。

潤の声が体育館の中に響き、相手の学校の選手たちが潤の方を見た。

「まぁくんだってさ」

「アイドルかよ」

「てか、あれ1年?先輩のことまぁくんて呼んでんの?」

「超生意気じゃね?」

「でも、あいつかわいくね?色白でさ、目ぇでかくて女の子みたいじゃん」

「なんだよお前、そういう趣味あったの?」

潤のことを見ながら勝手なことを話している相手選手たちを横目で見ながらウォーミングアップを続ける。

「・・・・どこ行ってもお前の弟は注目の的だよなあ」

同じクラスの渡部が言った。

「目立つんだよなあ、あの顔も、声もさ。確かにうちのクラスの女子より数倍可愛いもんな」

「・・・・潤に手ぇ出したら殺すよ?」

じろりと睨みつけると、渡部が顔をひきつらせた。

「冗談だって!松本家を敵に回す勇気はねえよ!」

潤の方を見ると、俺に気付いた潤がかわいらしく手を振った。

その横で、カズが興味のなさそうな顔で俺たちの方を見ていた。

「お前らマジで、仲良過ぎなんだって!てか、末っ子可愛がりすぎだろう。こないだ俺、廊下で末っ子と話してたらお前の兄貴に睨まれたからな。マジこえぇ。お前も、弟のこととなると人が変わるもんなぁ。さすがに女子もひいてたぜ」

だろうね。

俺も含め、うちの兄弟は潤のことに関して容赦ないからな。

普段は温和そうに見える智にぃも、潤のことになると目がマジになるからね!

あの人は、実は一番怒らせちゃいけない人だと思う。

翔ちゃんもいつも優しいのに俺が潤とのお風呂権獲得すると、すげえ不機嫌になるし。

カズなんかあからさまに威嚇してくるし!

「ホントお前らブラコンだよな」

まあ、事実だから否定しない。

昔からそうだからきっとこれからも変わらない。

潤に、もし恋人ができたりしたら変わるのかな。

潤に恋人・・・

そうなったらやだなあ。




試合が始まって、ちょっと俺は集中できてなかったのかもしれない。

「―――危ない!!」

そんな声が聞こえて、はっと気付いた時には遅かった。


―――ガツンッ


思いきり、同じチームのやつと接触してしまった。

肩に激痛を感じ、その場に倒れたまま肩を押さえる。

「おい、大丈夫か!?」

「―――はい、すいません」

俺の言葉にキャプテンはほっとした表情を見せたものの、結局交代させられてしまった。

接触したチームメイトは特に問題なさそうなのでそのまま試合に出ていた。

「まぁくん、大丈夫?」

俺の肩を冷やしながら、潤が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

カズも俺の隣に来て、

「ぼーっとしてるからだよ」

と言って、呆れたように俺を見た。

「お前も心配しろよ!」

「ちょっとぶつけただけじゃん。ただの打ち身でしょ?それより、チームに迷惑かけたんだから反省してもらわないと」

「う・・・はい」

カズの言うことはもっともだ。

練習試合とはいえ、レギュラーなんだからしっかりしないと!

「―――大した怪我じゃなくてよかった」

潤が、ほっとしたように微笑んだ。

「俺、まぁくんがシュートするとこかっこよくて大好きだからさ」

その笑顔に、胸が高鳴る。

やっぱり、潤が好きだなって思う。

兄弟だって、関係ない。

いや、大事な家族だってことは事実だけど。

でも俺は、やっぱり潤が好きなんだ。

「・・・心配かけて、ごめんね。俺、がんばるよ」

「うん!」

「雅紀、コーチが呼んでるよ」

カズの言葉に、俺は立ち上がった。

「まぁくん、いける?」

「全然、大丈夫!見てて、潤。俺、潤のためにゴール決めてくるから!」

そう言って二カッと笑うと、潤も笑顔になった。

「うん、がんばって!」

その満面の笑みに、俺はがぜんやる気になった。

コーチのもとへ走り、再びコートに戻る。

「まぁくん、がんばって!」

潤の声を、背に受けながら―――





「まぁくんすごいね!!いくつゴール決めたの!?」

3人での帰り道、潤が興奮気味に俺の腕を掴んだ。

「えー、いくつかなぁ」

答えながら、思わずにやにやしてしまう。

「運動神経だけはいいよね」

ボソリと呟かれたカズの言葉は聞こえない振りだ。

「超かっこよかった!」

潤が嬉しそうで、俺はそれだけで幸せな気持ちになる。

潤が喜んでくれるなら俺は幸せ。

それで、ずっと潤と一緒にいられたら嬉しい。

俺は潤の肩を抱き、やわらかな髪に頬を擦り寄せた。

「―――おいっ、調子に乗んなよ!」

後ろからカズが俺たちの間に無理矢理割り込んで来た。

「なんだよぉ!」

「くっつきすぎなんだよ!」

俺とカズがぎゃあぎゃあやり合っているのを、潤が楽しそうに見つめていた。

兄弟げんかさえも潤にとっては幸せなことなんだと、俺たちも知っていた。



『ずっと一緒だよ』

『約束だよ』



小さなころにした、5人の約束。

俺たちはずっと一緒。

だからいつでも笑顔でいられる。

潤が、俺たちの弟でいてくれる限り・・・・。



だけど最近、ちょっと胸が痛い。

だって、潤のことが好き過ぎるから。

触れられる距離にいるのに、それ以上触れられないもどかしさ。

柔らかな髪に触れれば、その赤い唇に触れたくなる。

そして、こんな思いを抱いてるのが俺だけじゃないってことも知ってる。



俺たちは、これからどうなるのかな・・・・・



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