潤の手首を壁に押し付け、深い口づけを繰り返す。
潤の体から力が抜け、息が上がってきたころ、漸く唇を解放する。
潤が、うるんだ目で俺を見た。
「・・・・・んで・・・・・?」
「・・・・・お前が、無防備だから・・・・!」
「は?」
潤が、わけが分からないと言うように首を傾げる。
「七之助くんとはどういう関係?」
「どういうって・・・友達だよ」
知ってるだろ?という口振り。
「それだけ?」
「・・・どういう意味?」
「・・・・七之助くん、お前のあの写真、良く1人で眺めてたって言ってたじゃん。普通、ただの友達がそんなことする?」
俺の言葉に、潤は動揺したように視線をさまよわせた。
「そりゃ・・・・あいつ、歌舞伎の女形だし、あの写真見てなんか参考にしてたのかも・・・・・」
理屈では、そんなこともあるかもしれない。
だけど、俺は潤の様子を見て確信してた。
七之助くんの気持ちを・・・・・
「お前・・・・・七之助くんの気持ちに、気付いてたんだな」
「は?」
「七之助くんがお前のこと好きだって、気付いてたんだろ?」
潤の顔色が変わる。
俺から離れようと体をひねろうとするけれど、そうはさせない。
俺は、潤の手首を掴み、壁に押し付けた。
息がかかるほど、顔を近づける。
潤の、長くてきれいな睫毛が揺れていた。
「・・・・・気付いてたんだろ?」
「・・・・だったら、何?翔くんに関係ないじゃん」
「・・・・・・何だよ、それ」
「あいつが俺をどう思ってようと、関係ないじゃん」
「・・・・・・・」
手首を掴む手に、力がこもる。
「っつ・・・・・・」
潤の顔が、痛みに歪んだ。
「・・・・・お前は、どう思ってんの、七之助くんのこと」
「どうって・・・・・」
「好き・・・・・なのか・・・・・?」
声が、震えてしまった。
情けないほど、小さな声。
潤の口から、その言葉を聞くのが怖かった。
潤が、はっとしたように俺を見る。
その大きな瞳が、俺を映し出す。
「・・・・・好き、だよ」
「・・・・・!!」
「友達、だからね」
「え・・・・・」
「俺と七は、翔くんが思ってるような関係じゃないよ。俺にとって、あいつは親友だし、七にとっても・・・・・」
「嘘、つくなよ!」
あの時の七之助くんの目は、明らかに俺に嫉妬してた。
彼は・・・・・・潤のことが好きなんだ。
それくらい、俺にだってわかる。
「嘘なんて、ついてないよ。確かに・・・・・ずっと前に、七に告られた事もあったけど・・・・・」
そう言って、潤はバツが悪そうに下を向いた。
「・・・・いつ?」
「高校卒業して、すぐくらい。でも、俺が断ったら『わかった』って言ってすぐに元の関係に戻ったよ。あいつ、あの頃いろいろ仕事のことで悩んでたし、いろいろ溜まってたんだと思う。だから・・・・・本気で俺と付き合いたいとか、そんなんじゃなかったと思うよ」
真面目な顔でそう言う潤を、俺はちょっと呆れて見ていた。
ちょっと、七之助くんが気の毒になってきた。
あの目は、どう考えたって本気の目だ。
そういえば・・・・・
潤は、やたらと人には気を使うし細かいことにも気付くくせに、自分のこととなると驚くくらい鈍感だった。
ちょっと天然というかなんというか・・・・・
潤にとっては、本当に彼は親友でしかないんだと、今の潤を見ていたら納得することができた。
俺は、そっと潤の手を離し、今度はその手を優しく握った。
「・・・・・ごめん。痛かったよな」
素直に謝ると、潤はすぐに笑顔になった。
「平気だよ、こんなの」
愛しさが、溢れて止まらなかった。
「潤・・・・・」
俺は、そっと潤の体を抱きしめると、その肩に顔を埋めた。
「・・・・俺・・・・・潤が好きだ・・・・・」
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