「あれ?お前、勝手に人んち上がって何してんの」


潤がマンションの扉を開けるなり、そこにいた人物に声をかけた。


「いいじゃん、別に彼女もいないんだし―――って、櫻井さん?一緒だったんですか」


そう言って俺を見て目を丸くしたのは、潤の高校の同級生で親友、そして歌舞伎役者の七之助くんだ。


「こんばんは」


俺が声をかけると、七之助くんは恐縮そうに頭を下げた。


「こんばんは!すいません、ずうずうしく上がり込んじゃってて。てっきり潤1人で帰ってくると思ってたもんすから」


「あはは、ですよね。別に僕は良いですけど・・・・・」


ちらりと潤を見ると、潤はひょいと肩をすくめた。


「一緒に飯食ってきたんだよ。で、こないだ買った映画のDVDの話になって、見たいって言うから貸そうと思って、寄ってもらった」


「へ~、あ、どうぞ上がってください」


「お前が言うなよ!」


潤が七之助くんの頭を軽くはたく。


相変わらず仲の良い様子に、俺は声をあげて笑ったけれど・・・・・


並んでリビングへ入っていく2人の後ろ姿に、すぐに笑顔は消える。


―――2人きりだと思ったのにな・・・・・。




「―――で、お前は何しに来たの?」


七之助くんがリビングのソファーに座ると、潤は腕を組んで立ったまま、七之助くんを見下ろした。


「いや、今日ちょっと部屋の掃除してたらさぁ、懐かしいモノ見つけちゃって。お前に見せてやろうと思ってさ」


そう言って、七之助くんは足元に置いていたバッグから、B4サイズの封筒を取り出した。


俺は、潤に促されて七之助くんと向かい合う形で床に敷かれたラグマットの上に座った。


七之助くんが、封筒をソファーの前のガラスのテーブルの上に置く。


その封筒を手に取る潤。


「何?これ」


封筒を開け、中から数枚の写真らしきものを取り出して―――


すぐに潤の眼が、驚きに見開かれた。


―――なに?


不思議に思っていると、潤の手から七之助くんがその写真をさっと取りあげた。


「あっ!!」


止めようとする潤の手を交わし、七之助くんはそれをテーブルの上に置いた。


俺はそれを覗きこんで―――


「え!!」


思わず声を上げた。


それは、歌舞伎の女形のように、きれいな着物を着て白塗りの化粧をした潤の写真だった。


「うわ、ちょ・・・・・見るなよ!」


潤がその写真を取ろうとして―――


七之助くんが、潤を抑えた。


「いいじゃん!きれいなんだからさ。ね、櫻井さん、きれいでしょ?潤」


「・・・・・うん、きれい・・・・・・」


完全に見惚れてた。


こんなきれいな女、見たことない。


赤に白い牡丹の花の刺しゅうを施した着物はあでやかで、真っ赤な口紅で斜め下あたりに流し目を送る潤の表情は超絶に艶っぽくて・・・・・。



「お前、なんでこんなもの持ってんだよ!」


真っ赤な顔で怒る潤に、七之助くんはニコニコと楽しそうに笑う。


「お前、これ撮ったのも忘れてただろ?これ、あんまりきれいだから俺がとっといたの。部屋で1人でいるとき、良くこれ眺めてたよ。超きれいなんだもん、お前」


「お前~~~~~」


「・・・・・・これ、いつの潤?」


ぼそっと呟いた俺に、2人がぴたりと動きを止める。


「いつだっけ・・・・・」


首を傾げる潤。


「確か18の時だよ。それ、俺の衣装なんだけど、ちょうど仕上がったばっかりのを俺が試着してるときに潤が遊びに来てさ。で、兄貴が潤に『似合いそうだから着てみろよ』って言ったの。最初は嫌がってたんだけど、化粧までしたらまんざらでもなくなって、撮影会やったんだよ」


「うわ・・・・ちょっと思い出してきた。そうだよ、お前と兄貴が面白がって・・・・」


「お前だってノリノリだったじゃん!きれいだきれいだって言われてさー。あれで舞台上がったら、マジいけてたと思うぜ」


「バーカ、何言ってんだよ」


恥ずかしそうに七之助くんを睨む潤。


俺は潤の写真に見惚れながら・・・・・・


胸に、微かな痛みが走るのを感じていた。


俺の知らない潤の顔を、七之助くんが知っていたことに、わかってはいても嫉妬せずにはいられなかった・・・・・。



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