俺の声に振り向く石倉。


その瞬間、潤が石倉に体当たりし、石倉は呆気なくその場に倒れた・・・・・。


「潤!!大丈夫か!!」


俺は潤に駆け寄った。


「智―――早く、救急車!安井さんが!」


言われて、初めて潤の前に倒れている安井に気付く。


「―――救急車呼びます!」


すぐにニノが携帯を取り出す。


俺たちの後ろからも刑事たちが駆け付け、逃げようとした石倉を取り押さえた。


「離せ―――!俺を誰だと思ってるんだ!!」


わめいている石倉を、刑事たちが両側から体を抱え、連れていく。




「安井さん、すぐに救急車来るから・・・・・」


潤の言葉に、倒れていた安井が微かに目を開ける。


「潤・・・・・」


震える手を伸ばす安井。


潤がその手を取り、両手で握りしめた。


「―――大丈夫。助かるよ。俺にはわかる。だから、安心して」


潤の言葉に、安心したように再び目を閉じる。




やがて、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた―――――



その後安井は救急車で警察病院へ搬送されたが、刺し傷は急所を外れていたため、命に別条はないとのことだった。


石倉は事情聴取、潤もまた事情を聞かれるため俺たちとともに警察へと向かったのだった。




石倉は全ての犯行を自供した。

小栗旬殺害も、潤の襲撃も、石倉によるものだった。

動機は、『松本潤』そのものだった。

安井が潤を店に連れて来た時から、ずっと潤を好きだったという石倉。

石倉は、もともと同性愛者で、今までにも何人ものホストと関係を持っていた。

だが、安井はそれを知っていても咎めることはなかった。

理由は石倉の父親にあった。

石倉の父親は有名な政治家で、まだ安井が若くぐれていた頃、弁護士だった石倉の父に世話になったことがあり、その縁で今のホストクラブを経営することができたのだという。

そして、そのホストクラブ開店の条件だったのが、石倉を店長として雇うことだった。

石倉は大学を出たものの就職もせずにぶらぶらと遊び歩いているような男だった。

ホストクラブの店長になってからも、ホストに手を出すなど好き放題で手を焼いていた。

ただ、人を使う能力には長けていたようで、ホストクラブの経営はおかげで大成功だった。

そこへ現れたのが、潤だった。


潤に一目惚れした石倉は、しかし、潤には手を出すことができなかったという。


『潤は特別なんだよ。俺なんかが汚しちゃいけない存在なんだ。潤は絶対に、きれいなままでいなくちゃ・・・・・』


その言葉こそが、まさに犯行動機だった。


突然ホストクラブを辞めてしまった潤。

安井は潤が望むならと、最初は納得していたのだ。

だが、石倉に『絶対に連れ戻せ』と命令され、また自分も潤に未練が残っていたこともあり、潤を説得し続けていた。

だが、潤のもとへ通い詰めているうちに、潤が安井に笑顔を見せなくなって来てしまった。

そのことに安井の精神のバランスが狂い始め―――

そのバランスを取ろうとするかのように、安井は潤の後を付け回し、写真を撮り始めたのだった。


だが、それが小栗旬にばれてしまった。

旬は、安井を脅した。

『石倉さんの親って、あの有名な政治家だって?政治家の息子がゲイで、自分の店のホストに手ぇ出して、しかも店のオーナーまでもが辞めたホストのケツ追いかけてストーカーまがいのことしてる―――なんて、結構なスキャンダルだよなぁ?』

その言葉に青くなった安井に、旬はくぎを刺した。

『安井さんも、自分の店潰したくないでしょ?石倉さんのこと―――説得してくれよな?もう、潤のことは諦めろって。もちろん、安井さんもね』

言うことを聞くしかないと思った。

だが―――


最初こそ父親のことを気にしておとなしくしていた石倉だが、それも長くはもたなかった。

潤に会えないことに、精神的な限界を感じていた。

石倉が潤に会おうとしていたのを止めていたのは安井だったが、怒りの矛先は旬へ向かっていた。

潤を手に入れるためには、旬を消すしかない。

そう思いこんだ石倉は、何度となく安井の目をくぐりぬけ、旬を殺す機会を狙っていたのだ。

チャンスは夜中、まだ店が営業中に、安井が事務所に詰めている間、休憩すると言って1時間ほど抜ける時だった。

何度か旬のマンションまで足を運び、張り込んだ結果、旬がいつも2時から3時頃までの間にたばこを買いに公園を通り抜け、近くのコンビニまで出ていることを知った。


スーパーで包丁を買い、それをバッグに隠し持ち、公園で旬が通るのを待った。

後ろから襲うつもりだったが、公園の中で一瞬旬を見失い―――

気付くと、旬が後ろにいた。


『―――石倉さん?こんなとこでなにしてんの?』


『小栗・・・・・いや、ちょっと客を送った帰りで―――』


『へえ?ごくろうさん』


旬は特に疑う様子もなく笑っていた。


『―――潤は、元気か?』


『もちろん。あいつ、探偵に向いてるよ。ちょっと優し過ぎるけどな。あー、石倉さんには言っておこうかな』


『え?』


『俺ね、潤と一緒に住もうと思ってるんだ』


『一緒に・・・・住む・・・・・?』


『ああ。結婚はできなくても、同棲ならできるからね。俺が、潤を幸せにするよ。だから、石倉さんや安井さんには見守ってて欲しいな』


『・・・・・・そう、だな・・・・・わかったよ・・・・・潤のため、だもんな・・・・・』


『そうだよ。潤のため――――――!?』


包丁の刃は、音もなく旬の体に吸い込まれていった。


旬の体が崩れ落ちる。


石倉はその上に覆いかぶさり、何度も何度も、旬の体を刺し続けた。



安井が石倉を見つけたのは、石倉が呆然と旬の前に座りこんでいる姿だった。


安井はすぐに状況を把握し、石倉の持っていた包丁を取り上げ、指紋をふき取るとその場に残し、石倉を安井の自宅へ連れていき、帰り血の付いた服を着替えさせ店に戻したのだった・・・・・。



石倉をなんとか説得し、仕事を続けさせていた安井。

だが、石倉が今度は潤の命までも狙っていることを知る。

『―――誰かに汚される前に、潤を俺のものにするんだ』

そう何度も呟いているのを聞いてしまったのだ。


そしてあの日。

石倉がいないことに気付いた安井は、相葉の店に行き、潤の無事を確認する。

その後潤の自宅近くで石倉が現れるのを待っていた。

だが、そのときすでに、石倉は潤の家に忍び込んでいたのだ。

鍵は、潤がホストをしていた時にこっそり合鍵を作っていたのだった。


潤が帰ってきて、部屋に入り―――

中の物音に、何かあったと気付いた安井。

助けに入ろうと思った時、石倉が中から飛び出してきた。

中の様子を伺い、潤が無事だということがわかると、安井はすぐに店に向かった。

事務所にいた石倉に、もう潤を襲わないよう説得していたが―――

石倉に、『この店が持てたのは誰のおかげだと思ってるんだ?親父の顔に泥を塗るつもりか』と責められ、石倉が安井に罪を着せようとしているのを知り、その場から逃げるように去る。

そしてその事実を潤に告げようとするが、潤の周りには常に刑事がつき、さらには本当に自分が疑われ、追われていることを知った安井は、姿を現すことができなくなってしまったのだ。

だが、どうしても潤に自分の無実を知って欲しかった安井は、潤がニノの家へ行き、1人になったタイミングに電話したのだ。


そして、それに気付いた石倉がそこへ現れた―――というわけだった。



石倉は、事情聴取中も、まるで呪文のように同じことを呟いていた。


『潤は、俺のものなんだ・・・・・潤は、誰にも汚すことができないんだ・・・・・潤は、特別なんだ・・・・・』



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