やばい。


やばい、やばい、やばい。


何なんだ、この状況は!?





今、俺の目の前にはシャワーを終えて出てきた松本潤がいた。


白いバスローブをはおり、濡れた髪をタオルで無造作に拭いている。


濡れた髪が額や首筋に張り付き、白い肌を一層引き立てていた。


バスローブの胸元は少しはだけ、きれいな鎖骨とほんのり上気した陶器のような肌―――そこに、まだ赤みの残る痛々しい刃物の傷が斜めに走っていた。



―――何でこいつは男のくせに、こんなに色気があるんだよ・・・・・


艶めかしいその姿から、目が離せない俺。


俺だってもう29の男だ。


それなりに女性と付き合ったことだってある。


だけど、そんな今まで見てきたどんな女性よりも、松本はきれいで、妖艶に見えた。




あまりに俺がじっと見ているものだから、松本がその視線に耐えられなくなったようにそのきれいな顔を上げた。


「―――何?」


照れているのか、頬が少し赤かった。


「あ、いや・・・・あの、何か食べる?俺、いつも外食か、適当に弁当とか買って済ませてるんだけど―――」


時間はもう10時近かったが、探偵社から帰宅後すぐに事件にあった松本は、まだ夕食を食べていないだろうと思った。


もちろん、俺もまだ食べていない。


いろいろあって忘れかけていたが、そういえば腹が減っている。


「ああ・・・・・食材は、何もないの?」


「え?そうだなぁ、こないだ母ちゃんが来たときにいろいろ買って来てたけど・・・・俺、あんまり自分で作らないから」


作れないわけじゃないけど、やっぱり1人分作るのは面倒くさかった。


「見てもいい?」


「うん」


松本はソファーから立ちあがると、対面式になっているキッチンの中へと入った。


冷蔵庫を開け、中をじっと見ていたけれど・・・・・


「―――うん、なんとかなりそう。俺が作ってもいい?」


「え、いいけど・・・・」


この男が料理?


なんだか、意外な気がした。


自分で作らなくても、いくらでも作ってくれる人間がいそうだったからか。


意外と、俺の人を見る目も当てにならないなと思った・・・・・。




出来上がった料理はシーフード焼きそばと中華風の卵スープ・・・・だそうだ。


「―――すげえ、うまそう・・・・」


俺の言葉に、松本がくすりと笑った。


「どうぞ」


「あ、いただきます」


シーフード焼きそばをひとくち食べる。


「うめえ!なんだこれ!」


店で食べてるみてえじゃん!


思わず興奮して言うと、松本がぷっと吹き出した。


「ほめすぎ。これくらい、誰でも簡単にできるよ」


「いや、俺にはできねえ」


「それは、やらないからだよ。大野さんなら器用だし、できると思うけど」


さらりとほめられ、思わずドキッとする。


これは・・・・もてるよな。


この容姿に加え、ちょっと低くて甘い声も、その声で囁かれる優しい言葉も、ストレートに胸に響く。


でもそれがわざとらしくなく、しかも常に甘い言葉を吐いているわけでもないから、余計にドキドキするんだ。


―――って、なんで俺がこんなにドキドキしてるんだよ!相手は男なのに―――


それにしても、松本の作ってくれた焼きそばもスープも本当に絶品だった。


こんなにおいしいもの、毎日作ってもらえたら幸せだろうな・・・・


―――って、だから違うって!


なぜか俺の頭に膨れ上がってくる妄想を振り払うように、がつがつと料理を平らげた俺は、早々に風呂に逃げ込んだのだった・・・・・。





―――落ち着け、俺。あれは男だ。どんなにきれいでも男。俺と同じお・と・こ!!


そう自分に言い聞かせ。


俺は、ちょっとのぼせ気味で風呂を出たのだけれど・・・・・





「さ~~~~とし~~~~~」


「・・・・・・・・・・・・・はい?」


風呂から出てきた俺を待っていたのは、なぜかべろべろに酔っぱらった松本潤だった。


「な・・・・・何してんの?」


「お酒、飲んでる~~~~。そこにあったやつ、勝手にもらっちゃった~~~」


そう言って、松本はキッチンを指差した。


確かに、冷蔵庫にあったはずのビールの缶が5本、テーブルの上に転がっていた。


「え・・・・俺が風呂入ってる間に、こんなに飲んじゃったの?」


「だ~って、智出てくんの遅いんだもん」


―――だもんって・・・・・


てか、いつの間に智呼び?


「んふふ、智っていい名前だねぇ~~」


・・・・・ま、いいか。


「智も一緒に飲もうよ~~~」


「いや、あの、松本さん―――」


と、俺が言いかけると、松本が俺をジロッと睨みつけた。


顔が整っている分、こういう表情はとても迫力があった。


「潤!」


「へ?」


「潤って呼んでよ、俺のこと!」


「え、いや、それは―――」


「やだ!潤って呼んでくれないなら、もう何も喋らない!!」


―――やだって・・・・だだっ子かよ・・・・・


さっきまでクールそのものだった男のまさかの豹変ぶりに、俺は体の力が抜けていくのを感じた。


「―――わかった。潤・・・・・、今、潤がここにいるってことは俺にとって勤務中とほぼ同じ状況なの。勤務中に酒は飲めないから・・・・・」


「―――勤務中?ふーん・・・・?」


潤はにやりと笑みを浮かべ、俺を横目で見た。


アルコールのせいか、そういう視線やら仕草がやたらと色っぽい。


「智、ここ座って」


潤が、自分の隣を手で示し、床をパンパンとたたいた。


言われたとおりそこへ座ると、突然潤が俺に顔をぐっと近づけてきた。


目の前に迫った潤の顔に、俺の心臓が大きな音を立てる。


見事にカールした長い睫毛が、バサッと音を立てそうな勢いで揺れる。


―――うわ、マジきれいだな・・・・・


「―――さっき、俺の風呂上がりの姿見て、興奮したろ?」


「な・・・!!」


顔が、熱くなるのがわかった。


「俺って、まだ容疑者の1人でしょ?その容疑者の1人と何かあったりしたら・・・・・問題だよね?」


「・・・・・!!」


―――脅し?


と思ったら、すぐにくしゃっと無邪気な笑顔を見せる。


「な~んてね。別に、俺は構わねえよ。智がべろべろに酔っぱらったって、誰にも言わないし、自分の身は自分で守りまっす!」


「でも―――」


「俺、智と一緒に飲みたい。そしたら、智が聞きたいことに何でも答えてあげる」


そう言って、上目遣いで俺を見つめる。


「―――だめ?」


―――か、可愛い・・・・・


もう、俺の理性は崩壊寸前。


「わ・・・かった。じゃ、少しだけ・・・・」


その言葉に、潤は嬉しそうに微笑み―――


「んふふ、ありがと。智、大好きだよ」


と言って


ちゅっと、かすめるように俺にキスしたのだった・・・・・・。




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