「まいど~!!潤ちゃ~ん!コーヒー3つお待たせ~~~!!」


事務所に元気な声が響き渡り、一人の若い男が姿を現した。


「相葉ちゃん、ありがと」


松本が椅子から立ち上がり、男を出迎える。


入ってきたのは、松本より少しだけ背の高い、ひょろりとした青年だった。


白いシャツに黒いパンツ、黒いエプロンにはアルファベットで『ARASHI』とプリントしてあった。


―――そういえば、この探偵社の下が『ARASHI』っていう喫茶店だったなと思い出す。


相葉と呼ばれた男が、俺たちに愛想の良い笑顔を向けて軽く頭を下げる。


「ちわ!コーヒーどうぞ!」


そう言って、トレーに載せてきたコーヒーカップを3つ、俺たちの前のテーブルに置いた。


「―――どうも」


「ありがとう」


相葉は無遠慮に俺たちを見て、にこりと笑った。


「へ―え。刑事さんってもっとおっかない感じかと思ったら、意外と優しそうじゃん。潤ちゃん、良かったね」


「ふふ・・・・・そうだね。相葉ちゃん、ミルクとお砂糖は?」


「あ!やべ、また忘れた!ごめん潤ちゃん!」


相葉が顔の前で手を合わせると、松本は可笑しそうに笑った。


「ふふ、いいよ。こっちで用意するから」


「ごめんね~」


まだ謝っている相葉に手を振りながら、松本が奥の扉をあけてキッチンがあるらしい部屋へと入っていき、扉を閉めた。



とたんに相葉の顔から笑顔が消え、俺とニノをじろりと睨みつけた。


「―――あんたたち、旬くんを殺したのが潤ちゃんだと思ってんの?」


その言葉に、俺たちはちらりと目を見交わした。


「いや、まだそうとは―――」


俺が言いかけると、相葉はその言葉を聞こうともせず、まくし立てた。


「潤ちゃんは、違うよ、絶対に!あの子ほど純粋でまっすぐで優しい子はいないんだから。人殺しなんて、できるはずない!」


「―――ずいぶん彼のことをよく知ってるんですね。そんなに親しいんですか?」


ニノが顔色を変えずにそう聞いた。


相葉は、ちょっと胸を張り腕を組むと、俺たちを見下ろして口を開いた。


「潤ちゃんがこの探偵社に来てから、毎日のように顔合わせてるからね。あのルックスで人見知りで照れ屋さんだから、誤解されることが多いけど―――本当に優しい子なんだよ。それに、繊細で傷つきやすい・・・・・。お願いだから、彼を傷つけるようなことはしないでください。潤ちゃんは・・・・・今まで充分過ぎるほど傷ついてきてるんだ」


それは、どういうことですか?


そう聞こうとしたが、その時、奥のキッチンから松本が砂糖とミルクを乗せたトレイを手に戻ってきた。


「お待たせ―――。あ、相葉ちゃん、ごめん、今払うから」


「ああ、いいよいいよ。あとで翔ちゃんにまとめて払ってもらうし」


「そう?ごめんね、いつも」


「いえいえ。じゃ、またね~」


そう言いながら、相葉はまたにこにこと笑いながら事務所を出て行ったのだった・・・・・。





「―――どうぞ」


シュガーポットとミルクの入った小さな小瓶をテーブルに置くと、松本は俺たちの前に座った。


「どうも、いただきます」


そう言って、俺は砂糖とミルクを1杯ずつコーヒーに入れた。


ニノはブラック。


見ていると、松本もブラックだった。


ニノはコーヒーを1口飲むと、意外とおいしかったのか、ちょっと目を見開き、もう一口飲んだ。


俺もひとくち飲んで―――


「あ―――うまい、これ」


俺の言葉に、松本が嬉しそうに微笑んだ。


「でしょう?相葉ちゃんの淹れてくれるコーヒーはすごくおいしいんだ」


まるで子供のように、顔をくしゃっとさせて笑う松本。


その、クールな見た目とは正反対の無邪気な笑顔に、なぜか俺の胸が大きく高鳴った・・・・。





「ところで、先ほどの話の続きですが。小栗旬さんとは、恋人同士だったんですか?」


再び、ニノが口を開いた。


その言葉に、松本もまた元のクールな表情に戻る。


「キスしてたからって、恋人同士とは限らないでしょ?」


松本の言葉に、ニノは眉を顰めた。


「まぁ・・・・それはそうですけど。でも、好きでもない相手とキスはしないでしょう?」


「もちろん、俺は旬のことが好きだったよ。でもそれは親友として。恋愛感情はないよ」


「恋愛感情がないのに、キスできるんですか?」


あまり感情を表に出すことのないニノが、珍しく苛立っているようだった。


「できるよ、俺はね。―――慣れてるから」


「慣れてるって―――」


「俺がホストだったってことは聞いてんでしょ?客にキスされることなんていつものことだったし。あいさつみたいなもんでしょ」


―――あ、挨拶・・・・


とてもついて行けない。


俺は口をポカンと開けたまま、松本の顔を見つめていた。


その視線に気付いたのか、松本がちらりと横目で俺を見た。


うぁ、目があっちった。


とたんに心臓の鼓動が速くなり、俺は慌てて下を向いた。


松本が、くすりと笑う。


「―――旬は、自宅近くの公園で殺されてたんでしょ?」


松本の言葉に、ニノが頷いた。


「はい」


「争った跡はなかったんだってね。で、俺が疑われてるんだ」



―――そう。殺されていた小栗に抵抗の後はなく、現場に争った跡もなかった。叫び声などを聞いたという情報もないことから、顔見知りの犯行ではないかとみられていた。


「しかも、アリバイもないしね。―――で、動機は愛情のもつれってとこ?」


まるで他人事のように楽しそうに話す松本。


そんな松本に、ニノはますます苛立ちを露わにした。


「何が楽しいんです?あなたの親友が殺されたんですよ?」


その言葉に、松本はちょっと目を見開いた。


「あれ?俺、楽しそうに見えます?―――悲しいですよ?もちろん。もう、旬とは二度と会えないんですから・・・・・」


そう言って首を傾げた松本の表情からは―――


やはり、その心情を読みとることはできなかった・・・・・。



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