「キスしたんだよ、キス!!」


「もう、わかりましたって。大野さん興奮しすぎですよ」


ニノがうんざりした顔で俺を見た。


興奮もするって!


だって、男が男にキスをしてたってだけでもびっくりなのに、相手はもう死んでるんだよ?


でも・・・・・


そのキスシーンは、まるで映画のワンシーンのようにきれいで、俺は一瞬息をするのも忘れるほどだった・・・・・。



「―――松本潤と小栗旬は、そういう関係だったってことですかね」


ニノがそう言って顎を撫でた。


「櫻井翔の話では、あの探偵社は3年前に櫻井と、高校の後輩だった小栗とで立ち上げたらしいです。で、松本潤は1年前、小栗が連れて来たと」


「連れてきた?」


「松本はもともと新宿のホストクラブで働いていたそうです」


ホスト・・・・・。あの容姿からすれば合ってるような気もするけど・・・・・。


「そのホストクラブに、小栗がある調査のために潜入した時に知り合ったみたいですね。松本は、あの通りの容姿ですから、そのホストクラブでも1、2を争うほど人気があったそうなんですけど、本人はあまりやる気がなかったみたいで―――」





『松本は、もともと人を見る目に長けてるんです。それも、特殊能力と言ってもいいくらいに。その人間を見るだけで、その人の性格や職業、家族構成などをぴったり言い当てることができる。そのせいでホストクラブに来る客がどういう人間で、どういう事情できているのかまで全てわかってしまう。ホストという職業を考えればそれは悪いことではなかったでしょう。だが、彼はもともとホストになりたかったわけではなく―――普通に働きたかったのに、世間には受け入れられなかったんです。あの容姿と、独特の人を惹きつけるオーラのせいで、どこへ行っても松本をめぐる争いが起きてしまって・・・・。そんな松本に目をつけたホストクラブのオーナーにスカウトされて、ホストになったんです。
松本はすぐにその店でナンバーワンになった。でも・・・・・あいつは、優し過ぎるんです。来ている客の事情がわかると、高い酒を勧めたりすることに抵抗を感じ、営業できなかった。それでもあいつに入れ込む客は後を断たなくて、オーナーはあいつを離したがらなかった。松本も、拾ってもらった恩もあるから、ホストを辞めることができずにいたんです。
小栗は、ある浮気調査の依頼でそのホストクラブにホストとして潜入したんです。オーナー以外の人間は事情を知らなかった。だけど、松本はすぐに小栗の正体を見破りました。それでも彼は、黙って小栗に協力してくれました。その件は、松本のおかげで成功したと言ってもいいくらいでした。小栗は松本を誘い、性格的に合っていたのか、松本もホストを辞める決意をし、僕の所へ来てくれたんです。
オーナーは納得いかず、その後も松本をホストクラブへ戻そうとしていたようですが―――最近はようやく落ち着いたと、小栗が言っていました』



櫻井は、どうして松本のことばかり聞くのかと、訝しげに思ったようだった。


「な―んか、ただならぬ雰囲気だったじゃないですか。今、あの探偵社では事件に繋がりそうな重要な案件はないと言っていたし、何より小栗が最後に話した相手はあの松本です。死亡推定時刻は夜中の3時。松本と会話した1時間後だ。きっと松本は事件に絡んでると見てるんですけど」


そう言ってニノは俺を見た。


「どう思います?大野さん」


「うーん・・・・・何か知ってそうな気もするけど、直接関わってるかどうかは、わからねえよ」


当の松本からは、特にこれと言った話は聞けなかった。


あまりおしゃべりな方ではないのか、聞かれたことには素直に答えるけれど、それ以外では口をつぐんでいた。


正直、俺はそれどころではなくて―――


あのキスシーンを見てしまってから、まともに松本の目が見れないのだ。


松本の方は、癖なのか、話している時はその相手の目をじっと見つめてくるのだ。


あの吸い込まれそうな大きな瞳に見つめられ―――


しかもあのキスシーンが目の前にちらついて、聴取どころではなくなってしまったなんて、ニノにはとても言えないけれど―――


「大野さん」


ニノが、じろりと俺を睨む。


3年後輩のニノは、新人の頃から俺と組んでいた。


小柄でどこへでも紛れ込むことができるニノは、いつも猫背でうつ向き加減で、面が割れては困る捜査などにはうってつけだった。


俺とは何となくうまが合い、『大宮コンビ』なんて言われて、組まされることが多かった。


「ちゃんと仕事してくださいよ?小栗には特定の恋人もいなかったらしいですし、一番親しくしてたのがあの松本です。まずは小栗の周辺と、松本のことを調べないと」


「わかってるよ。松本に、アリバイはないんだっけ?」


「時間が時間ですからね。その時間は一人暮らししているマンションでパソコンをいじっていたと言ってますが、1人ですから、当然証人はいません。あ、ちなみに松本にも恋人はいないそうです」


そうなんだ。


ちょっと喜んでしまっている自分に、自分で驚く。


相手は男だぞ!俺にそんな趣味はない!






俺とニノは、嵐探偵社へ向かった。


「―――どうぞ」


俺たちを出迎えてくれたのは松本だった。


紺のざっくりした長めのニットに洗いざらしのジーンズ。


何を着てもスタイリッシュに着こなす男だなと思った。


「―――社長は?」


ニノの言葉に、ちらりと俺たちを見る。


「―――仕事。今日は、俺に用があるんじゃないの?」


その言葉に俺たちはちょっと顔を見合わせた。


『事務所の方に伺いますので』


とだけ言っておいたのだ。


「よくわかりましたね」


そういうニノをじっと見ながら、松本がふっと笑みを浮かべた。


それは、思わず身震いするほどのきれいな微笑だった。


「あんた、俺のこと疑ってるでしょ?旬が最後に電話で会話したのが俺だから。―――それに」


それから、俺に視線を移す。


口元に笑みを浮かべながら見つめられると、まるで体に電流が走ったような衝撃を受ける。


「昨日、俺が旬にお別れのキスしてるの、見てたでしょ?」


「あ・・・・・」


気付いてたのか。


てか、あれってお別れのキスだったんだ?


「―――単刀直入に伺います。あなたと小栗さんは、恋人同士だったんですか?」


ニノの言葉に、松本はさらに笑みを深くして―――


おかしそうに、笑った。


「旬は、好きだったんじゃない?俺のこと。キスは何度もしたよ」


そう言った松本の顔は―――


まるで女神のように美しく、輝いて見えた・・・・・・




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