「あんなセリフ、練習して意味あんのかなあ」
俺が呟くと、隣で寝ころんでいた潤がぷっと吹き出した。
「ふふ、でも、相葉くん一生懸命練習してたし、きっと今頃まだ1人で練習してるんじゃない?」
明日、船上でデビュー発表をすると言われ、なぜかジャニーさんがインタビュアー役になりみんなでインタビューに応える練習をさせられた。
そしてなぜか急きょ参加が決まったはずの相葉くんが一番長いセリフを任されることになり、相葉くんは顔面蒼白で緊張しまくり。
あのニノが、横で『大丈夫だよ!みんなでフォローするから!』と一生懸命励ましていたのがちょっと微笑ましかったけど。
「しかし、デビューかぁ・・・・全然実感湧かねえなぁ」
う~んと唸りながら、俺はベッドにごろんと転がった。
隣にいた潤がくるりと体の向きを変え、俺の顔を覗きこんだ。
「でも俺嬉しい!智と一緒のグループなんて!俺、もっと歌上手くなるようにがんばる!」
「ふはは、何それ」
「だって、智は歌もダンスも超うまいじゃん!俺、がんばらないと・・・・智の足、引っ張らないように」
きゅっと唇を結んだ潤の頭を引き寄せ、その唇にキスをする。
「・・・・潤が喜んでくれるなら、俺も嬉しい。でも、潤ならすぐに俺を抜かしていくよ。身長だって、いつの間にか俺を抜かしちゃったじゃん」
俺の言葉に、潤は嬉しそうに笑って起き上った。
「うん!なんか急に伸びちゃって、俺もびっくりした」
「あ~んなにちっちゃくてかわいかったのになぁ」
ため息交じりに言うと、途端に潤の顔が曇る。
「智は、ちっちゃい俺の方がよかった?俺の方が大きくなったら、嫌いになる?」
不安げに揺れるその瞳に、俺は思わず苦笑する。
体を起こし、潤の体をぎゅうっと思い切り抱きしめた。
「バカだな。そんなわけないじゃん。俺にとっては、潤がどんなに大きくなったってずっと可愛い潤なんだから」
「・・・・嘘だ。俺、もう可愛くないよ?」
「かわいいよ。潤はいつだって可愛い。ずっと、大好きだよ」
「ほんと・・・・?」
「うん、ほんと。潤は?俺のこと、これからもずっと好きでいてくれる?すげえかっこいいやつが潤のこと好きっていっても、俺のこと好きでいてくれる?」
―――知ってるんだ。翔くんだってニノだって、全然潤のこと諦めてないんだから。
潤は俺のことを上目遣いで見つめると、ちょっと小首を傾げた。
「ずっと好きだよ。俺が、智以外の人好きになるわけないじゃん。智が一番、かっこいいのに」
「そう言ってくれるのは潤だけだけどな」
「そんなことないもん」
「んふふ、俺はそれでもいいよ。潤に好きって言ってもらえればいい」
ずっと潤と一緒にいられれば、それで満足。
「え~、それはダメだよ」
「え・・・なんで?」
「だって、これからは嵐っていうグループになって、たくさんのファンの人に応援してもらえるようにならなきゃいけないんだから。だから、たくさんの人に好きになってもらわなきゃ」
「・・・・俺が・・・・なれると思う?」
メディアに露出の少ない俺は、きっとファンの人が思うグループのメンバーには入っていない気がして。
ずっとそれが心配だった。
だけど、潤はそんな俺の不安を吹き飛ばすような満面の笑みを浮かべた。
「なれるに決まってるよ!だって、俺が好きになったんだから!」
そうして、俺の首に腕を絡めて肩口に鼻をすり寄せる。
「・・・・智、大好きだよ」
「潤・・・・」
俺は潤の髪を撫で、その耳元にそっとキスをした。
潤の体がピクリと震える。
そのまま、潤の唇にキスをしようとして―――
―――バタンッ
「はいタイムア―――――ップ!!」
突然部屋に入ってきたのはニノと翔くんだ。
「さあさあ寝る時間ですよー」
「ええ、もう?」
翔くんの言葉に、潤が眉を顰める。
「あったりまえだろ、もう夜中の零時過ぎてんだぞ。明日は朝早いんだから」
「そうそう。ほら、大野くん、あんたは相葉くんと同室でしょ?あの人、今緊張でがちがちなんだから1人にしないでやってよ」
俺はニノにぐいっと腕を引っ張られ、慌ててベッドから降りる。
「なんだよぉ、お前仲いいんだから、一緒にいてやればいいじゃん。部屋代わってやるから―――」
「いやですよ!せっかくじゃんけんで1人部屋ゲットしたのに!ほら、早くいきますよ!」
ぐいぐいと体を押される俺。
俺も仕方なく部屋の入り口に向かいながら、潤の方をちらりと見る。
「智、おやすみ!また明日ね!」
笑顔で手を振る横で、俺のことをじっと目で追う翔くん。
「・・・・おやすみなさい、智くん」
そう言って、にやりと笑った顔に、胸騒ぎ・・・・・。
「ちょ・・・ちょっと翔くん!潤に、変なことしないでよ?潤は、俺のだからね!」
そう思わず叫んだ俺から目をそらし、あさっての方向を見る。
「俺の?いや・・・・松本は、もう今日から『嵐の松本潤』、でしょ?1人占めっていうのはなぁ・・・・」
「な・・・・!」
「そういうこと。今日から俺たち5人で嵐なんだから、2人だけでくっつくとかあり得ないでしょ?ほら、大野くん行きましょう」
ニノにひっぱられながら金魚みたいに口をパクパクさせる俺に、ニコニコと笑顔で手を振る潤。
その後ろで不敵な笑みを浮かべる翔くんに―――
「じゅ――――ん!!」
という、俺の虚しい叫び声が響いたのだった・・・・・。
翌日は、見事な快晴。
予定通りクルーザーに乗り込んだ俺たちだったけれど―――
「無理!降りる!気持ち悪い!!」
そう言ってスタッフを困らせているのは、ニノだった。
「二宮くん、少しの辛抱だから―――」
「無理だって!俺が船ダメだって、知ってるくせに!!」
普段我慢強いニノが、ここまで嫌がるのは本当に船がダメだからだ。
だけどもう海に出てしまっていて、後戻りはできなかった。
みんな困ったように顔を見合わせる中、潤がニノの傍に行って、へたり込んでいるニノの前にしゃがんだ。
「ニノ、大丈夫だよ。俺たち、ちゃんとフォローするから。ちょっとだけ、我慢してればすぐに終わるよ」
優しく笑う潤に、ニノはちらりと視線を上げた。
「・・・・だから、デビューなんかいやだったんだ。嵐なんて、だせー名前だし」
「そお?俺はかっこいいと思うけど」
「・・・・バカじゃねえの」
「んふふ。―――こないだね、電車で女の子たちがニノの話してた」
「・・・・・」
「ニノってかっこいいよねって。ダンスもうまいし、演技もうまいし、すごいよねって」
「・・・・・」
「ニノがデビューしたら、絶対ファンクラブ入って、ずっと応援するって言ってたよ。俺、それ聞いてすごく嬉しかった」
「・・・・ほんとかよ」
「うん、ほんと。そのニノと、同じグループでデビューできるって聞いて、もっと嬉しくなった。ニノ・・・一緒に、がんばろ?」
そう言って、潤は手を差し出した。
ニノは、じっとその手を見つめていたけれど―――
やがて、そろそろと手を伸ばし潤の手を握った。
「・・・・・一緒に?」
「うん、一緒に」
潤が立ち上がり、それに合わせてニノも立ち上がった。
ニノの目つきが変わっていた。
みんなの中に、ほっとした空気が流れた。
「・・・・相葉ちゃん、大丈夫?」
もうすぐTVの生中継が始まる。
相葉ちゃんは緊張でがちがちになっていた。
「どうしよ。俺、絶対噛むよ」
「大丈夫だって。あんなに昨日練習したんだし」
そう、俺と同室だった相葉ちゃんは、昨日俺が部屋に戻ってからも緊張して寝られないというので、俺がずっと練習に付き合っていたのだ。
「噛んだら、どうしよう。デビュー会見なのに・・・・」
「・・・それはそれで、いいんじゃない?」
「え!?」
「だって、俺ら新人じゃん。噛むくらい緊張してて当たり前じゃん。それに、緊張してるのは相葉ちゃんだけじゃないんだから」
俺は、船酔いしてるニノにずっとついてる潤と翔くんたちの方を見た。
相葉ちゃんもつられてそっちを見る。
「―――みんな、一緒だよ。俺ら、今日から一緒のグループなんだから」
「・・・・みんな、一緒・・・・」
「うん。5人で、嵐だって。昨日、潤が嬉しそうに言ってた」
相葉ちゃんはしばらく3人の方をじっと見つめていたけれど―――
すくっと立ち上がり背筋を伸ばすと、瞳をキラキラと輝かせて俺を見た。
「うん!そうだよね!俺・・・頑張る!大ちゃん、よろしくね!!」
「おお・・・うん、よろしく・・・・頑張って」
緊張した生中継もあっという間に終わったけれど、岸に戻る頃にはみんなぐったりとしていた。
「・・・・・終わったね・・・・・」
潤の言葉に、翔くんが苦笑する。
「おい、なんだよ終わったって。これから始まるんだろうが」
その言葉に、みんなが顔を見合せて笑う。
「ふ・・・・そうだった。これから・・・・これからのが、長いんだよな」
ニノが空を仰ぐ。
ハワイの空の下、5人で同じ空を見上げてる。
これから、この5人で同じ道を進んでいく。
それは不思議な感覚。
だけど、きっと―――
潤の方を見ると、潤も同時に俺を見た。
2人で笑い、手を繋ぐ。
俺よりも小さかった潤の手は、今は俺よりも大きくて。
でもその笑顔は、変わらず可愛くて。
やっぱり大好きだと、改めて思う。
「―――邪魔する気はないけど、いちゃつくのはほどほどにしといてね、智くん」
翔くんの言葉に、俺たちはくすくすと笑う。
「・・・・潤、大好き」
「俺も、智、大好き」
「え!2人ってそういう関係だったの!?」
相葉ちゃんの言葉にニノが苦笑する。
「お前、今更・・・・・」
まだデビューした実感はわかないけど。
でも、楽しくなりそうな気がした。
隣に、潤がいれば―――
そして、この5人が一緒なら・・・・・
fin.
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