俺が京都へ行くという話は、あっという間に広まった。
「すげえじゃん、大野!」
「うん・・・・・」
ジュニアたちの羨望の眼差しにも、俺は複雑だった。
潤は、相変わらずいつも楽しそうににこにこしている。
俺の京都行きにホッとしたのか、ニノとも普通に仲よさそうに、楽しそうに話しているところをよく見かけた。
翔くんとも相変わらず仲がいい。
そんな潤を見るたびに俺の胸は鈍い痛みを感じていたけれど、そんなこと、潤が気付いてるわけもない。
ただ、時間だけがこくこくと過ぎて行く。
そして俺の周りは騒がしくなり、京都行きの準備もあって、潤との会話が徐々に少なくなって行った・・・・・。
「―――じゃあ、明日は新幹線に乗り遅れないようにな」
「はい」
いよいよ明日が出発だ。
結局潤とは、あれから大した話もできずにいたけれど・・・・・
―――潤にとって、俺はその程度の存在だったってことかな・・・・・。
潤には、翔くんやニノ、他にも仲の良いジュニアがいるし。
俺なんかいなくたって、問題ないんだよな・・・・・。
どうしようもない事実に俺の胸がきしむように痛み、涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
事務所を出て、すっかり暗くなった道を駅へ向って歩き出す。
―――その時。
電柱の陰から、突然白い影が飛び出して来て、俺は心臓が止まるかと思うほど驚いて体を強張らせた。
「!!?」
「―――智くん」
そこにいたのは、潤だった。
「潤・・・・何やってんの?1人?」
潤がこくりと頷いた。
俺は明日からの準備のために事務所に残っていたけれど、他のジュニアたちは1時間以上前にレッスンを終えて帰っているはずだった。
「だって・・・・・智くん、明日から京都行っちゃうから・・・・・」
潤が、俯いてきゅっと唇をかんだ。
「ちゃんと、挨拶しなきゃって・・・・・」
「あいさつ・・・・・」
それは、お別れのあいさつってこと?
さよならって?
そんなの・・・・・
「別に、あいさつなんていらないのに」
気がつけば、俺はぶっきらぼうな言葉を放っていた。
「え・・・・・」
「もう会えなくなるわけじゃないし。舞台が終われば、戻ってくるんだから」
「そう・・・・・だけど・・・・・」
潤の声がかすれる。
けど、その表情までは見えなくて、俺は潤の横を通り過ぎようとした。
「俺、明日早いから、もう行くよ」
「!・・・智くんっ」
潤が、俺の手を掴んだ。
「・・・・何?」
「あの・・・・・あの、がんばってね!俺・・・・・応援してるから!」
そう言って笑顔を見せる潤。
だけど、そんな笑顔さえも、俺にはただ辛いだけで。
「・・・・・ありがと。潤も、元気で・・・・・最近、ニノも優しいみたいで、良かったね」
「え・・・・・うん」
潤と同い年のニノと、潤が憧れてる翔くん。
俺が離れてる間、2人はずっと潤の傍にいられる。
その事実が苦しくて。
俺は、潤の顔がまっすぐに見れなかった。
潤が、俺の手を離す。
「―――じゃあね」
俺は再び、前を向いて歩き出した。
後ろにいる潤が、どんな顔をしてるかなんて見ようともせずに。
だけど、その時―――
「・・・・・・っく・・・・・・」
え・・・・・・
しゃくりあげるようなその声に、俺ははじかれたように振り向いた。
電柱の街灯の下で、潤の小さな肩が震えていた。
俺に背を向けた状態の潤の顔は見えなかったけれど―――
「―――潤!!」
俺は潤に駆け寄ると、回り込んで潤を正面から抱きしめた。
「・・・・とし、くん・・・・・ッ」
「なんで、泣くんだよ?」
「だ・・・・って・・・・・、智くんに、会えな・・・・くなる・・・・・」
「・・・・帰ってくるだろ?」
「だけど・・・・・」
「・・・・・何で、もっと早く言わなかったの?寂しいって、言ってくれたら俺・・・・・」
もっと早く、こうして抱きしめてあげられたのに・・・・・
ずっと、1人で泣いてたの・・・・・?
「困らせたく、なくて・・・・・智くん、に、頑張ってほしかった、から・・・・・」
泣きながら、それでも必死に言葉を紡ぐ潤。
今まで、どんな思いで笑っていたんだろう。
俺のために、自分の気持ちをおし隠して・・・・・
俺は、潤を抱きしめる腕に力を込めた。
「潤・・・・・!」
潤が愛しくて、堪らなかった。
ずっと、俺のために笑ってくれていた潤。
俺は、そんな潤の気持ちに気付かずに、ニノや翔くんに嫉妬して・・・・・
―――まだまだ、ガキだよな・・・・・
年下の潤の方が、よっぽどしっかりしてるかもしれない、なんて思っていた。
「智くん・・・・・ごめんね」
「なんで謝るの?」
「だって・・・・泣いたりして・・・・・最後まで笑顔で、見送りたかったのに・・・・・」
「・・・・・そのために、待っててくれたの?」
「うん・・・・・」
俺はそっと潤の顔を覗きこむと、その唇に素早くキスをした。
もう暗いとはいえ、誰に見られるかわからないからね。
「・・・・・潤、待ってて。俺、休みの日には必ず戻ってくるから」
「ほんと・・・・・?でも、大変じゃない・・・・・?」
京都と東京。もちろん決して近くはないけれど。
「だって、潤に会いてぇもん。だから、待ってて」
そう言って笑うと、潤もようやく笑顔を見せた。
「うん!待ってる!楽しみにしてるから」
ひまわりのような潤の笑顔に、俺の心も満たされる。
きっと、これで頑張れる。
俺は、温かい気持ちで、京都へと向かうことができたのだった・・・・・。
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