「翔ちゃんにいはいつ話すの?」


相葉さんの言葉に、俺は一瞬つまってしまった。


5人での仕事の日、楽屋には俺と相葉さんだけがいた。


「―――いつ、かなぁ」


俺のとぼけた言葉に、相葉さんは苦笑する。


「なんで翔ちゃんにはそんな逃げ腰なわけ?翔ちゃん、優しいのに」


相葉さんの言葉に、俺は思わず眉を顰めた。


―――優しいよ、そりゃあ。


翔くんは優しい。


真面目で、責任感があって、それでいて面白いし、親しみやすい。


まさに非の打ちどころがないってやつ?


だけど、だからこそ、俺にとっては常に目の上のたんこぶのような存在だった。


もちろん、嫌いなわけじゃない。


大事な嵐のメンバーだし。


それでも俺が翔くんに対してどこか素直になれないのには理由があって。


それが、他でもない潤くんのことだった。


ジュニアの頃から2人は仲が良くて―――


それこそ、潤くんは翔くんにくっついて離れなかった。


周りのジュニアが『怪しい』って噂するほど、いつも一緒にいた。


嵐になって、2人の距離はちょっとずつ変わってきた。


俺たちだって、いつまでも子供じゃない。


大人になっていく。


良くも悪くも。


潤くんが翔くんと距離を取るようになって、翔くんの潤くんに対する態度も変わったけど。


でも、翔くんの潤くんに対する気持ちが変わったわけじゃないって、俺は思ってる。


いつだって潤くんのことを気にしてる。


潤くんが気付かないようにいつも目で追って。


潤くんの行動を、心の動きを、気にかけてる。


そんな翔くんが俺やリーダーの気持ちに気付かないはずはなく。


あからさまに邪魔することはなくても、潤くんと話している時にわざと話しかけてきたりとか、新聞の陰からじっと見ていたりとか、潤くんは全く気付いていないけど俺やリーダーにはわかるような牽制をしてきたりもするんだよ、あの人は。


はっきりと言って来ないあたりがいやらしさを感じるじゃん。


すげえ爽やかな笑顔なのに、実は目が笑ってないこととか、何気に潤くんが絡むと翔くんの周りの空気がピリッとしたものに変わる。


だから、優しいけど怖い。


何を言われるのかってことを考えると―――


「はあーーーーーーっ」


大きな溜息をついた瞬間。


「―――何か悩みごと?」


突然相葉さんじゃない人物の声がして、俺は驚いて顔を上げた。


目の前にいたのは翔くんだった。


「あ、あれ?相葉さんは?」


きょろきょろすると、翔くんがふっと笑った。


「相葉ちゃんなら、俺が入って来たときに『トイレ行く』って出てったよ」


マジか・・・・・。


全然気付かなかった自分に驚く。


「よっぽど真剣に悩んでたんだね?俺が入ってきたことにも相葉ちゃんが出てったことにも気付かないなんて」


そう言って翔くんが笑った。


あちゃ・・・・・


俺は頭を抱えた。


あーでも・・・・今、他に誰もいないし。


いい機会かもしれない。


そう思いなおし、俺は改めて翔くんを見た。


「―――あのさ。話が、あるんだけど」


俺の言葉に、翔くんが笑うのをやめて、俺の顔を見た。


「―――わかった。じゃ、ちょっと場所変えない?ここだと、直にメンバーたちが来るし。飲み物でも買って―――そうだな。屋上なんてどう?」


「・・・うん、わかった」


俺は頷くと立ち上がって、翔くんの後について楽屋を出た。




収録が始まるまではあと1時間もあるし。


早めに来ていて良かった。


俺と翔くんは屋上に出た。


「―――松潤のこと?」


先に口を開いたのは翔くんだった。


やっぱり、気付いてたか。


翔くんのことだから、大体の察しはついてるんだろうなとは思ってた。


それでもこうして落ち着いているところが、また憎たらしいんだ。


「―――うん。俺、潤くんと付き合うことになった」


「―――――そう」


短い返事。


それきり、翔くんは黙ってしまった。


「それだけ?」


「―――他に、何を言って欲しい?『よかったね』って?それとも『認めない』って言った方が良かった?」


「それは―――」


翔くんの声が、ほんの少し高くなって、口調が早口になった。


翔くんが、動揺している時のくせ。


その横顔は、微かに笑みを浮かべていたけれど、眉間にはしわが寄り、見た目ほど余裕がないことを、金網を握りしめて白くなった手が語っていた。


「―――反対、できるものならしたいよ」


「翔くん・・・・・」


「ずっと、あいつを見まもってきた。最初は弟みたいで。でも、そんなもんじゃなかった。俺にとってもは、誰よりも純粋で、誰よりも可愛くて―――好きだった、ずっと・・・・!」


絞り出すようにその口から吐き出された言葉が、俺の胸に刺さる。


「でも・・・・あいつの俺への気持ちは、変わらなかった。『憧れ』で、『お兄ちゃん』みたいな存在。俺が近付いても、あいつは俺との距離を変えようとしなかった。変わったのは―――お前との距離、だよな」


そう言って、翔くんは俺を見た。


「最初からお前の気持ちには気付いてたけど、潤はまるっきり気付いてなかった。お前もあの頃は素直じゃなかったし、潤はお前に嫌われてると思ってたからお前に取られるなんて、考えもしなかった。でも・・・・きっと、もともと潤にとってもニノは特別だったんだろうな。お前が素直になって潤に構いだした途端、2人の距離が縮まって。俺がどんなに頑張っても近づけなかったのに、お前はいとも容易く潤の一番近い場所に行った」


「―――容易くは、なかったよ。俺だって、どうやったら翔くんに勝てるんだろうって、ずっと悩んでた。リーダーなんて誰が潤くんの傍にいようと関係なく、気付くと潤くんの隣を陣取ってるんだから」


その言葉に、翔くんがぷっと吹き出した。


「確かに。あの人はすごいよ。それでいて、あの独特の癒しオーラであの人なら大丈夫かなって思わされちゃうから、困るんだ」


「ほんとだよ!こないだなんて、ちゃっかり潤くん家に泊っちゃったんだから!」


「ええ!?マジで!?」



―――いつの間にか、話題はリーダーのことになってた。


あの人には気をつけた方がいいとか、そのうちすんなり恋人の座を奪われてるかもなんて脅されて、俺は顔をひきつらせた。


「―――勘弁してよ。それでなくても、潤くんて自分の魅力ってものに全く気付いてないんだから」


「ふふふ、言えてる。あいつの場合、周りがうらやんでることが全てコンプレックスに繋がってるから。でも―――そういうコンプレックスを理解して、あいつを笑顔にしてくれたのは―――ニノ、なんだよな」


「俺だけじゃないよ。嵐のメンバーがいるから、今の潤くんがいるんだよ」


それは俺の本心だ。


だから、俺と潤くんのこと、メンバー全員に認めて欲しいと思う。


潤くんが一番信頼している人たちだから。


「認めるのは悔しいな。俺は今でも、潤のことを一番好きなのは俺だと思ってるし。でも・・・・今、潤が一番好きなのはニノだってことは、悔しいけど認める」


「翔くん・・・・・」


「だから、俺はやっぱりこれからも潤を見守っていくしかない。だけど―――もし。もしも、お前が潤を悲しませるようなことがあれば、その時は俺が潤を守る。お前から奪って―――もう返さないから、覚悟しとけよ」


にやりと笑う翔くん。


その不敵な笑みは自信たっぷりで、かっこいいいつもの翔くんだ。


だから俺も、負けじとにっこり笑う。


「渡さないよ。だって、俺は潤くんを悲しませないから。ずっと、潤くんを守っていく」


「できんの?」


「できる!」


暫し睨みあう俺と翔くん。




「ふっ」


「ぶっ」


2人同時に噴き出して、お互いの肩をばしばしと叩く。


「いてぇよ!」


「俺のが痛いっつの!」


クスクス笑いながら、屋上の入口へと歩き出す。



「―――――ニノ」


「はい」


「潤を・・・・・泣かすなよ」


「―――はい」




そうして俺たちは、肩を組みながら楽屋へと戻ったのだった・・・・・。




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