『松潤結婚!』

そんな見出しがスポーツ新聞の見出しに踊り、『またか』という空気とともに俺たちの周りも微妙にピリピリし始めていた。

そんなとき、久しぶりに母親から電話があった。

「また、あの噂出てるじゃない。潤くん、大丈夫?」

俺たちの付き合いがもう15年以上になるのと同じように、お互いの家族とも15年以上の付き合いになる。
俺は基本、家族に隠し事はしないので、潤くんとのことも話していた。
母親は肝が座っているというか、『あらそうなの。潤くん、可愛いものね』なんて、すぐに納得してくれて、返ってこっちが驚いたくらいだった。

「大丈夫だよ。いつものことだし、俺たちがついてるんだから」
「そうね。でも、潤くんは繊細だから心配よ。ちゃんとケアしてあげなさいよ?」
「わかってるよ」



潤くんと今噂になっているのは、昔ドラマで共演した女優さんだ。
俺も共演したことがあるし、メンバー全員が顔見知りだ。
だから、彼女と潤くんの関係性というのもよくわかっている。
2人は本当にいい友達で、同じ芸能界で働く者同士の仲間意識みたいのもあるけれど、それはあくまでも『仕事』を通しての関係であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
それでも2人の噂が絶えないのには、この業界ならではの大人の事情というものがあるせいだった。
それがわかっているから潤くんは何も言わない。
否定も肯定もしない。
ただ、沈黙しているだけだ。
もちろん、本当は言いたいだろう。
だけど言えないのは、どんなにスターの立場になっても、この世界を形作っているひとつのコマであることは変えられない事実だと知っているからだ。
勝手なことをすれば、潤くんや彼女を取り巻く全てのものが音を立てて崩れていくだろう。
そしてそれがどんな結果をもたらすか、それは想像するに堪えないことなんだ・・・・。



「カズゥ、またコンビニ弁当しか食べてないの?」

午後になって俺の部屋に来た潤くんが、キッチンのゴミ箱を覗いて溜息をついた。

「つい、さ」
「ついじゃねえよ、体に悪いだろぉ、今、ごはん作るから」
「んふふ、ありがと」

辛いことがあった時、潤くんは俺たちと一緒にいたがる。
たとえば俺やリーダーだったら、わざと冷静な振りをして周りに気どられないようにしたりするし、翔くんも俺たちには相談せずに1人で解決しようとする。
相葉さんの場合はただただ自分の中に溜めこんでいつも以上に笑顔でいようとするだろう。
もちろん15年以上一緒にいるメンバーにはそれとなくわかるものだけど、でも相手が気付かれたくないと思っていればその気持ちをくむこともできる。
だけど潤くんは、わかりやすく落ち込むし、ときには甘えてくれる。
本人は隠そうとしてるみたいだけど、ばればれなんだよね。
そういうとこが、また可愛いんだけど。

今日はきっとマネージャーに例の噂のことで何か言われたんだろう。
ここに来た途端何か作り始めるとか、イライラしてる時の行動の1つだと俺は思ってる。
そうして料理してるうちに、冷静さを取り戻していくんだ。
冷静にならなきゃと思えるようになったのは、潤くんも大人になったってことなんだろうな。

「なに作ってくれんの?」

キッチンへ行き、潤くんの肩にあごをのせて覗きこむ。

「ん~?ナポリタンと~、サラダ、と・・・・スープ、飲む?」
「ん~・・・・あ、俺昨日味噌汁作ったの。お弁当だけじゃ体に悪いと思って」
「マジ?えらいね~。パスタに味噌汁?」
「んふふ、おいしいよ。潤くんも食べるでしょ?」
「うん、食べる」

野菜を刻むのが終わり包丁を置いたのを見計らって、俺は潤くんの首筋にキスをした。

「・・・潤くん、ちゅーしよ」
「今、作ってる最中・・・」
「だって、来た途端キッチンに入っちゃって、まだ全然触れてないよ」
「・・・そっか」

今気付いたようにそう言うと、潤くんは体の向きを変え、俺にキスをした。
俺は潤くんの腰に手を回し、体を密着させるとさらに深く口付けた。

「ふ・・・・ッ、ん・・・・カ・・・・」
「・・・・何?」
「あとで・・・・」
「今が良い。1週間ぶりでしょ?」
「早い方だけど・・・・」
「本当は、毎日会いたいのに」
「カズ・・・・」
「うそ。ごめん、困らせたいわけじゃないよ」

長い睫毛を震わせる潤くんの頬を、そっと手で撫でる。

「・・・・好きだよ、潤くん」
「・・・気ぃ使ってくれてる?」
「そんなわけないでしょ?本当に好きだから言ってるの。いつだって、そう思ってるから」

潤くんの瞳が揺れ、それをごまかすように俺の肩口にそのおでこをすり寄せた。

「・・・・辛いのは、俺だけじゃないってわかってるから・・・・」
「うん。でも、潤くんは辛いの我慢しなくていいんだからね」
「でも・・・・」
「いいの。俺が潤くんを甘やかしたいんだから、たくさん甘えてくれればいいんだよ」
「・・・・・りがと・・・・・」

何度も何度も流される噂に翻弄されて、心ないことを言うやつらだっている。
それに耐えて、いつもキラキラのアイドルスマイルでいられる潤くんは、一見とてもメンタルが強いように思えるけど。
だけどそれが潤くんの『責任感』から来るものだって、俺たちはちゃんとわかってる。
ファンに対する責任。
メンバーに対する責任。
芸能人でいることの責任。
俺たちだってそうだけど。
それが時に、潤くんの中で溢れだしてしまう時があるんだ。
そうして溢れ出たものをすくって、昇華させるのは俺たちの役目だと思ってる。

何度も繰り返しキスをして、その体が熱を持ってくるともう止めることなんてできなくて。
俺は潤くんの手を引き、寝室へと向かった。

「カズ、メシ―――」
「あとでいい。今は、潤くんが食べたいの」

潤くんの顔が真っ赤になるのを見て、俺は口の端を上げる。
何度肌を重ねてもそうやって恥ずかしそうにするところが本当にツボで、相手を煽ってることなんて潤くんは気付いてない。
でもそのままでいい。
潤くんはずっと、変わらずにいてくれれば・・・・・




「あ、味噌汁うまい」
「でしょ?」
「カズ、もっと料理すればいいのに。器用だから、俺なんかよりも絶対うまいもん作れるようになるよ?」
「自分で作るより、潤くんに作ってもらったもの食べたいもん。あ、でももし潤くんが具合悪くなったら俺がご飯作りに行ってあげるからね」
「んふふ、期待してる」

ちょっと元気、出たな。
潤くんの笑顔にホッとして、こっそりと胸をなでおろす。

「あ、そういえば言ってなかったけど」
「なに?」
「俺、来週智とロスに行くの」
「―――はい?」

突然な話に、思わず反応が遅れる。

「ロス?リーダーと?どうして?」
「仕事―――と、プラベ。事務所がね、さすがに今回のこと悪いと思ったのか、ちょっとだけ休暇くれたの」

えへへと嬉しそうに笑う潤くん。

「それは・・・よかったね。でも、なんでリーダーも?」
「ちょうど、智とスケジュールが合いそうだったから。でね、ラスベガスにも行くんだ。舞台見に行きたくって」
「ふーん・・・楽しそうだね。けど、来週なんてよくそんなスケジュール空けられたね」
「ロスはね、もともと仕事で行く予定だったから。前に行ったときにダンスを教えてくれた人にも会う約束してたし、智もスケジュール的に行けたら行きたいって言ってたの。それでラスベガスの舞台も、ずっと行きたいって言ってて。なかなか事務所が良いって言ってくれなかったけど、ようやくO.Kが出たんだ」
「へ~え、知らなかった。俺たち3人には内緒でそんなことしてたの?」

ちょっと、言い方が嫌味っぽくなってしまった。
だって、仮にも俺たち付き合ってるのにさ。

「ごめん、ロスのことはね、ぎりぎりまで黙ってろって言われてたの。なんか、本当だったら5人共行かせたかったみたいよ?」
「え、そうなの?」
「うん。でも結局スケジュールが合わなくて、俺と智だけになっちゃったから。ラスベガスもついこないだいけるってなったから・・・ごめんね、黙ってて」
「いや・・・・まぁ、しょうがないよね。5人揃ってっていうとやっぱり難しいし・・・・。去年、あれだけ5人でいられたことが奇跡に近いもんね」
「うん、でも、去年は楽しかった。すごく充実してたし。また、ああいう時間をたくさん作れたらいいね」

そう言って本当に楽しそうに笑う潤くんの笑顔に、ちょっと反省する。
潤くんは、いつだって俺たちのこと考えてくれてるんだよな・・・・。

「気をつけて行って来てね。リーダーにも、よろしく言っといて」
「ん、わかった」

2人で旅行して、きっとまたいろいろ吸収して帰ってくるんだろうな。
日本の喧騒から離れて、少しは休めるといいんだけど。
心も、体も・・・・。
そして帰ってくる頃には、あの噂もなりを潜めてくれていたらいい・・・・
そんなことを、俺は心から願っていた・・・・。





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