「ニノはぁ、彼女いないのぉ?」
「いません・・・いないよ」
「んふふ、なんでぇ?もてそうなのに」
「もてないよ。俺潤くんみたいにかっこよくないし、暗いし」
「え~、暗くはないでしょ?女子社員たちはみんな、ニノのことクールでかっこいいって言ってたよ?」
「あー・・・まぁ、それは俺の作ったイメージだよね。あんまり構われないように、なおかつ嫌われないようにしようと思ってたから」
「ふは、すげぇ。計算通りだったんだ」
楽しそうに顔をくしゃっとさせて笑う潤くん。
「同じ会社の人と付き合うと、いろいろ面倒くさそうだなって思ってさ。自然とそういう感じになった」
「ふーん。相葉くんも、もてそうだよね」
「あの人は、最初は人見知りするいけど慣れると明るいし、優しいからね。でも今はいないんじゃないかな。前の彼女とは3ヶ月くらい前に別れたし」
「そうなの?なんで?」
「あの人、彼女といても他の女の子と平気で飲みに行ったりしちゃう人だから。何度か喧嘩して、結局向こうが他に好きな人ができたって、振られたらしい」
「あらら。智は?まだ独身だよね?」
「うん。あの人も変わってるからね。俺と同じで、基本放っておいて欲しい人なんだよ。意外と多趣味で、休みの日は家にこもっていろいろやってるらしいし。そういう自分の時間大事にしてるタイプって、結婚するのも難しいでしょ」
「そうかもね。・・・・ニノも、放っておいて欲しい人なんだ?じゃあ、俺じゃダメかなぁ」
「―――え?」
どきっと胸が鳴る。
今、この人なんて言った?
「俺、どっちかっていうと相手に構って欲しいし、構いたくなっちゃいタイプだもん。相手にもよるけど・・・。そっか、だからニノは俺のこと苦手なんだ」
「ちょ・・・違うよ?苦手かなって思ったのは最初で、今は思ってないから!てか、俺だって相手によるんだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ!」
俺の言葉に潤くんはふっと笑うと、持っていたグラスをテーブルに置き、隣に座っていた俺の方に体を向けてぐっと顔を近づけた。
「・・・じゃ、俺に構われるの、平気?」
「へ・・・・平気」
あまりに近い距離に、ドキドキする。
「俺、よく面倒くさいって言われるよ。放っておいて欲しいと思ってても、空気読めなくて構っちゃうかも」
「平気・・・・だよ」
長い睫毛に、吸い込まれそうな大きな瞳。
そこに映っているのは、今は俺だけ・・・・。
「それに俺気分屋で、落ち込みやすいし。・・・放っておいて欲しいって態度とってても、本当は構って欲しいと思ってる時もあるし。そういうとき、ニノならどうする?」
「俺は・・・・俺なら、ずっと潤くんの傍にいるよ」
「・・・・傍に?」
「傍に、いる。それで、潤くんの望むとおりにしてあげる。欲しいものがあればあげるし、しゃべってるのがいいなら、ずっとしゃべってる。優しくして欲しければ・・・頭を撫でてあげる」
俺を見つめる潤くんの瞳が、揺れた。
俺、何言ってるんだろう。
撫でてあげるとか、子供じゃねえんだから。
でも・・・・
潤くんの瞳はキラキラと輝いているのに、どこか寂しげで・・・・
その寂しさを、俺が拭い去ってあげたい。
そんな風に思ってしまったんだ・・・・。
「じゃあ俺が・・・・抱きしめて欲しいって言ったら・・・・・?」
「・・・・抱きしめてあげる。ずっと」
その瞬間、潤くんはその腕を俺の首に絡め、きゅっと抱きついてきた。
柔らかな髪が、俺の頬を撫でる。
「・・・甘いね、ニノは」
「・・・そう?」
「甘やかし過ぎだよ・・・・そんなに優しくされたら、俺、もっとわがままになっちゃう」
「・・・なっても、いいよ」
だって、俺が甘やかしたいんだから。
「・・・ありがと、ニノ」
「別に・・・・」
照れくさくなってちょっと身じろぎすると、潤くんがはっとしたように俺から離れた。
「あ、ごめん、つい抱きついちゃった。気持ち悪いよね?」
「え?いや、そんなことないよ。何で?」
「だって・・・・俺、男の人と付き合ってたし。ニノ、その気ないでしょ?」
「え・・・・それは、その・・・・」
「ごめん。ニノが優しいから、調子にのっちゃった。大丈夫。俺も別れたばっかで、すぐに乗り換えるとかないから」
苦笑する潤くんに。
俺の気持ちは複雑で、何も言葉が出て来ない。
だって、気持ち悪いどころか潤くんに抱きつかれて心地いいとさえ思ってしまったんだから。
確かに今まで俺は男と付き合ったことなんてないけど・・・・
でも潤くんは、周りの男たちとは違う。
相葉さんや大野さんとも違う。
それよりも、潤くんは今まで好きになったどの女性よりもきれいで、近くにいるといい匂いがして・・・
見つめられただけでドキドキする。
この感情を、なんて言えばいいんだろう・・・
そして、何よりも俺の胸を締め付けるのは、潤くんがまだ恋人のことを想っているという事実・・・・。
「・・・調子に乗っても、いいよ」
「え?」
「俺、潤くんを気持ち悪いなんて、思わない。それは俺が優しいからじゃないから」
そう言って、俺は潤くんの頬に手を添えた。
白い肌が、ビールを飲んだせいでほんのりと上気している。
「潤くんが望むなら、何でもしてあげる。でもそれは、誰にでもしてることじゃないよ。潤くんだから・・・してあげたいんだ」
「ニノ・・・・・」
「潤くんは、俺にとって・・・・そういう存在なんだよ」
まるでその瞳に吸い寄せられるように。
俺は、潤くんの唇に口付けた。
柔らかく、微かに甘いそのキスは・・・・
もう、あと戻りできなくなったことを俺に思い知らせていた。
―――潤くんが、好きだ・・・・・
「部長、ねぇ、今度いつカラオケ行きますう?」
「さぁ、今忙しいから・・・あ、佐藤さん、ここ直しといて」
「・・・はぁい」
さらりとかわされ、女性社員が口をとがらせながら潤くんに渡されたコピー用紙を手に自分の席に戻る。
潤くんは、その華やかな見た目よりもずっとまじめだ。
仕事中は必ず掛けている黒縁のメガネ。
それはファッションではなく、もともと目の悪い潤くんは仕事中はつい瞬きも忘れるほど集中しているので、コンタクトだとドライアイになってしまって辛いんだとか。
仕事が終わると同時にコンタクトに付け替えるところも含め、仕事とプライベートをきっちり分けているのだ。
だから、仕事中に誘われても相手にもされない。
でも・・・・・
「あ、ニノ、お疲れ」
トイレで顔を合わせると、潤くんはにっこりと笑った。
「お疲れさま。今日は定時で上がれそう?」
「うん、たぶん。さっき、智にご飯誘われた。ニノも行くでしょ?」
「うん」
「じゃ、またあとで」
軽く手を振る潤くんに、俺も手を振り返す。
周りには誰もいない。
潤くんは、俺たちにだけは素の表情を見せてくれる。
特に俺に対しては、仕事中でもときどきちらりと視線を送り、微笑を浮かべたりしてくれる。
それは、俺が特別なんだと言われているようですごくうれしい。
あの日の夜、本当はちゃんと告白したかった。
でも俺とのキスのあと、潤くんはまるで電池が切れてしまったかのようにその場で熟睡してしまい、俺の気持ちを伝えることはできなかった。
目が覚めた時には、潤くんはキスのことも、会話の内容もほとんど覚えていなくて・・・・
がっかりしたけれど、それでも潤くんの態度は今までとは違うものになった気がした。
だから、少しはうぬぼれてもいいんじゃないかと思っていたんだ。
この時までは・・・・・
「だからさぁ、大ちゃんは仕事中に寝過ぎなんだって」
「いやだって、昨日はすげえ調子よくってさ、つい創作に熱中しちゃって・・・・」
「あなた、趣味に集中し過ぎ。仕事中はちゃんと仕事しなさいよ」
「え~、智、今なに作ってんの?」
「フィギア。潤、見に来る?」
「え、いいの?」
「潤なら、いつでも」
「あ、ずるい!俺たちがいくら見たいって言っても見せてくれないくせに!」
「そうですよ!何そのあからさまなえこ贔屓!」
「だって潤はかわいいもん。お前らかわいくないから」
4人で、いつもの居酒屋でごはんを食べながらビールを飲む。
3人でいつもそうしていたけれど、そこに潤くんが加わることでそこに華やかさが加わった。
大野さんも相葉さんも潤くんのことが大好きで・・・・
ちょっと、2人とも潤くんに触り過ぎなのが気になったけど。
まぁ、潤くんが嫌がってないから俺からは何も言えないんだけどさ。
―――早く、潤くんが俺のものになればいいのに・・・・
つい、そんなことを考えてしまう。
「俺トイレ~」
「あ!俺も!俺が先行く!」
大野さんと相葉さんが先を争うように個室を出て行き―――
俺はほっと息をつき、潤くんの隣に座った。
さっきまで、大野さんが潤くんの隣を陣取ってたからね!
「・・・潤くん、今日、うちに来ない?」
「んー?ふふ・・・ニノ、近い」
「潤くん、今日も泊まって―――」
その時だった。
潤くんがびくりと体を震わせ、胸ポケットからスマホを出した。
「びっくり・・・・バイブにしてたんだった」
「・・・メール?」
「ライン・・・・え・・・・?」
スマホを見ていた潤くんの顔が、一瞬で驚きの表情に変わる。
「潤くん?どうし―――」
その瞬間、潤くんががたんと音をたてて席を立った。
「・・・ごめん、俺・・・今日は帰る」
「え・・・何で?潤くん―――」
「翔くんが・・・・」
「え?」
「翔くんが、日本に来てる」
「―――!」
「ごめん、ニノ。・・・あとで、連絡するから」
潤くんがバッグを手に持ち、出口へ向かう。
「え・・・潤くん!」
「あれ、潤ちゃんどこ行くの?」
「相葉くん、智、ごめん、俺帰る!」
「え・・・潤?」
トイレから戻ってきた大野さんと相葉さんの横をすり抜け、あっという間に潤くんは行ってしまった。
「え、なに?なんで潤ちゃん帰っちゃったの?」
「ニノ、どういうこと?」
2人の言葉に、俺は、事実をそのまま伝えるしかなかった。
「・・・・翔さんが・・・・日本に来てるって」
「え?」
「翔さんて・・・・あ、潤ちゃんの・・・・」
俺はぐっと拳を握った。
別れるって言ってたのに・・・・
やっぱりまだ、潤くんは・・・・・
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