「―――何なの、あれ」
俺はむっとしたままそう吐き捨て、ジョッキをどんとテーブルに置いた。
相葉さんと入った居酒屋の個室で、3杯目のビールを飲んでいた。
「それ言うの、何回目だよ」
相葉さんが困ったように苦笑する。
「だってさぁ、見た?潤くん、あれ絶対嘘だよ?撮影の前に聞いた時は、今日はなにも用事ないって言ってたんだから!」
「だから松潤も言ってたじゃん。友達からメール来たって」
「あんなの嘘だよ!潤くん正直だから、うそつくときは目ぇ見ないんだもん。で―――あのとき、確かに翔くんの方を見た。翔くんも、ちらっとだけど潤くんを見たんだよ」
「―――それが、なんだって言うの?」
「今日、潤くんと翔くん、一緒の撮影だったじゃん。あのときに、翔くんが潤くんに何か言ったんだと思う」
「何を?」
「わかんないけど・・・・・」
「何それ」
呆れたように笑う相葉くん。
でも、あの撮影から戻ってから、潤くんはちょっと様子がおかしかった。
ちらちらと翔くんの方を気にして―――
それが、俺には気に入らなかった。
昔から、潤くんは翔くんの行動や言葉に敏感なところがあった。
いつも翔くんのあとにくっついていた潤くん。
俺は、そんな潤くんをいつも見つめていた。
だけど潤くんは俺の視線には全然気付いてくれなくて―――
潤くんに冷たい態度をとったこともあった。
翔くんは大事な仲間だけど。
でも、俺と潤くんの仲を邪魔するようなことがあれば、俺は翔くんを許さない。
ずっとずっと、好きだったんだ。
翔くんは、俺の気持ちを知ってる。
知ってても、何も言わない。
俺と潤くんがつきあうと言ったら、翔くんはどう思うんだろう。
反対、するんだろうか。
ていうか・・・・・・
潤くんは、どう思ってるんだろう。
あのとき、酔っぱらってたとはいえ、潤くんは確かに俺と付き合ってもいいって言ったんだ。
リーダーのせいで、その話はうやむやになっちゃったけど―――
潤くんも、俺に対して好意を持ってくれてることは確かなんだ。
でも、翔くんのことは?
もし―――
翔くんが潤くんを好きだと言ったら・・・・・
潤くんはどうするんだろう・・・・・?
「もしもーし、潤くんですかぁ?」
無駄に大きな声を出すと、電話の向こうの人物が、一瞬黙った。
『―――ニノ、酔ってるね』
「んふふふ~~~~酔ってないですよ~~~」
『―――相葉ちゃんと飲んでたんでしょ?まだ飲んでるの?』
「いんや。あの薄情なおバカさんはもう帰っちゃいましたぁ」
『そうなの?じゃあ今どこから?家?』
「んふふふ・・・・どこからでしょ~~~。今ね~マンションの前にいますよ~~~えーと・・・・ふぉ・・・・れすと・・・○○・・・・・?』
『―――――は?ちょっと待て、何?来てるの?』
「はい、せいか~~~~い」
そう、俺は潤くんのマンションの下まで来ていた。
オートロックのマンションだから、潤くんが入口を開けてくれなければ入れない。
『ちょ―――ちょっと待ってて!迎えにいく!今!』
バタバタと潤くんが慌てながら電話を切る。
俺の突然の訪問に慌てる潤くんの姿が目に浮かび、おかしくなる。
「ふふ・・・・・可愛いんだから~~~」
「何、どうしたの、突然」
マンションの下まで降りてきてくれた潤くんが、俺を見て目を丸くする。
「潤く~~~ん」
俺はふらつく足で歩み寄ると、勢いに任せて潤くんに抱きついた。
「うわっ、酒くさっ」
潤くんが顔をそむける。
「潤くんの部屋に行きたいな~~~」
ぎゅうぎゅうとその体を押すように抱きつくと、潤くんが俺の体を支えつつ、オートロックパネルのキーを押す。
扉が開き、俺を引きずるようにして中に入り、エレベーターに乗り込む潤くん。
その間中、潤くんの腕が俺の腰を支えていて、それだけで俺は夢見心地だった。
本当はエレベーターの中でキスの一つもしたかったけど、監視カメラの存在を思い出し、自重する。
「―――珍しいね、ニノがそんなに酔っぱらうなんて・・・・・何かあった?」
潤くんが俺をちらりと見る。
―――何か、だって?
潤くんにとっては、どうってことないことなんだろうけど。
俺にとっては重要。
潤くんに嘘をつかれたことも。
誘いを断られたことも。
それに、翔くんが絡んでいるかもしれないことも。
エレベーターから降り、潤くんの部屋につくと、潤くんは俺の靴を脱がしてくれ、リビングまで連れて行ってくれた。
「―――ちょっと待ってて。水持ってくる」
俺はソファーにごろんと寝転がると、部屋の中を見渡した。
きれいに片づけられた部屋。
シンプルで、清潔感のある部屋は男の1人暮らしの部屋というより、女性の部屋みたいな印象を受ける。
外見は男らしいのに、実は女性的で繊細なところが多いんだよな・・・・・。
―――ここに、翔くんは来たことあるのかな・・・・。
勝手に2人がソファーでくつろぐ姿を想像して、へこんでいると、潤くんが水の入ったグラスを手に戻ってきた。
「はい」
差し出されたグラスを、俺は半身を起して受け取った。
「―――今日は、誰と飲んでたの?」
水を飲みほしてからそう聞くと、潤くんが一瞬キョトンとした。
「え?」
「今日、友達と飲みに行ってたんでしょ?メール来たって言ってたじゃん」
俺の言葉に、潤くんははっとしたように目を見開いた。
「あ――――ああ、うん。高校の時の友達と――――」
―――やっぱり、うそだ。
どこか落ち着かず視線をさまよわす潤くんに、俺は確信した。
「―――なんで?」
「え?」
「なんでうそつくの?そんなに俺と飲みたくなかった?」
俺の言葉に、ぎくりとする潤くん。
「うそなんて・・・・・」
「じゃ、俺の目ぇ見て言ってよ。高校の時の同級生って誰?名前は?」
そう言って、俺は潤くんの顔を覗きこんだ。
潤くんは困ったように眉根を寄せていたけれど―――
ふうと溜息をつくと、申し訳なさそうに目を伏せた。
「―――ごめん」
「・・・どうして、うそついたの?」
「―――翔くんに・・・・言われたんだ」
「なんて?」
「ニノと、つきあってるのかって・・・・・」
「・・・・それで?」
「違うって言ったよ。翔くんも納得してくれたけど―――もし、本当にニノと付き合うことになったとしたら、翔くんはどう思うだろうって考えたら・・・・」
「―――翔くんの気持ちが気になるんだ?潤くんは。俺と付き合うこと、翔くんには知られたくないんだ?」
「え・・・・・」
酔いは、冷めていたと思う。
だけど、俺はこの時完全に冷静さを失っていた。
潤くんが翔くんのことをどう思ってるのかって考えだしたら―――
もしかしたら、翔くんのことが好きなのかもしれない。
だから、俺とのことを知られたくないのかもしれない。
そんな疑念に俺の心は支配されて・・・・・
気付いた時には、俺はその場に潤くんを押し倒していた・・・・・
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