きっかけは、TV番組で潤がボブヘアーのウィッグをつけたことだった。



その姿は、思わず息をのむほどきれいで。



あの場にいたニノが言葉をなくすのにも納得。


そしてそれをTVで見た俺も、息をのんだ。


「やべえ。超可愛いじゃん」


もちろんそう思ったのは俺だけじゃなかった。


翔くんや相葉ちゃんも。


そして他にも―――





「―――松潤、この名刺何?」


楽屋で、俺は潤のバッグからヒラヒラと落ちてきた1枚の名刺を手に持った。


「―――え?あー、それ。こないだ、知り合いのパーティーに呼ばれた時にもらったんだよ」


「パーティー?」


「うん。知り合いの、そのまた知り合いの誕生日パーティー。世話になった人だから断れなくて」


そう言って潤は困ったように笑った。


華やかな世界で、特に潤みたいに見た目も派手だとパーティーなんて日常茶飯時だと思われがちだが、実はそんなことはないのだ。


仲間内の気軽な飲み会は大好きだけれど、パーティーのような形式ばったものは苦手だった。


そういう場では、たいてい個人としての松本潤ではなく、嵐としての松本潤を求められてしまうからだ。


そして、その場での対応次第で嵐の評価が問われる事態にもなりかねない。


そういった気を使わなければいけないことが、俺たちは5人が5人とも苦手だった。


「へえ。で、この名刺の人ってどんな人?」


ちょっと気になったのは、潤がその1枚だけを持っていたこと。


きっとほかにも名刺を渡して来た人間はいただろう。


なのに、この1枚だけを持っていた。


どうして?


とある企業名と役職―――代表取締役とあったから、社長なのだろう―――と、男性の名前。


会社の名前も社長の名前も聞いたことのないものだったけれど・・・・・



「あー・・・・リーダーは知らないか。その人の会社、ファッションブランドをいくつも抱えてる会社でさ。その中の一つが俺の好きなブランドで・・・・・ちょっと興味ある話をしてたから、なんとなくとっといたんだ」


言いながら、俺から目をそらす潤。


それが、俺のアンテナに引っかかった。


「―――その人と、何かあるの?」


俺の言葉に、潤の肩がピクリと反応する。


楽屋には俺と潤の2人だけ。


こういうとき、回りくどい言い方はしない方がいい。


「潤」


俺は、潤の腕を掴んだ。


「な―――なに?」


潤は俺と目を合わせようとしない。


「何しようとしてる?」


「な―――何も・・・・・」


「隠し事するの?」


「―――んなこと・・・・・」


じっと、潤の目を見つめる。


潤はしばらく俯き、視線をさまよわせていたけれど。


俺が視線をそらさないことに観念したのか、溜息をついた。


「―――CMに出て欲しいって、言われたんだ」


「CM?」


本来、タレントに直接する話ではないけれど、そういったパーティーではそんなこともあるだろう。


好きなブランドなのだから、潤にしてみればうれしい話のはずだが。


その顔は、なぜか浮かなかった。


「すげえ、いい条件で・・・・いい条件過ぎるって思ったんだ。でも、できるならやりたいし―――そう思ってその人の話真剣に聞いてたら・・・・」


「―――なんて言われたの?」


「CMに出たいなら・・・・・一つだけ、希望を聞いて欲しいって」


「希望?」


「うん・・・・・。その希望を聞いてくれるなら、5年間のCM契約をしてくれるって・・・・・もちろんこっちにいい条件で」


「で?その希望って、何?」


そう言われて、眉を寄せる潤。


絶対おかしいじゃんか。


そんなおいしい話なら、もっと嬉しそうな顔するはずなのに。


なんだか、とても嫌な予感がした。


「―――潤?」


「―――今度、2人で会って欲しいって」


「は?」


「その時に―――詳しい話をするって言われたんだ」


「それって・・・・・」


いくら俺が鈍感でも、わかる。


この世界、ストレートのやつらばかりじゃない。


大物になればなるほど、その世界にハマるものも多いって話だ。


男性アイドルがそういったやつらに狙われるのも珍しい話じゃないらしい。


潤は、きれいだ。


特にそんな趣味はなくたって、潤に見惚れないやつはいないだろうって思うくらいきれいだ。


潤には、そんな自覚はないけれど・・・・・


「潤!そんなの、絶対行っちゃダメだよ!」


俺は、潤の腕を掴む手に力を込めた。


「リーダー・・・・でも・・・・・」


「CMに出たいって気持ちはわかるけどさ、でも、その話が本当かどうかだってわからないし―――だいたい、そんなことで仕事手に入れて、嬉しいの?」


俺の言葉に、潤は首を振った。


「そんなつもり、ないよ。でも―――その人が言ったんだ。そのCMに、俺だけじゃなくて嵐全員を使いたいって。一つのブランドだけじゃなくって、その会社が持ってるブランド全てのCMに嵐に出て欲しいって・・・・。これが決まれば、嵐にとってすごいプラスになるよ」


―――そういうことか。


相手は、嵐のこと―――潤のことを調べつくしてるんだ。


潤が、自分のことよりも嵐のことを優先するって知ってる。


「―――でも、そのために潤が犠牲になること、誰も望まないよ?」


「犠牲って・・・・だって、まだ話も聞いてないのに、それがどんな話なのかわかんないじゃん」


「だけど―――」


「とにかく―――話を聞いてみるだけ、聞いてくれって言われたんだ。それで・・・・・いやなら断ってくれて構わないって」


そんなの・・・・・


俺は、溜息をついた。


潤だって、100%信じてるわけじゃないくせに。


それでも、少しでも嵐の役に立つ可能性があるのなら。


潤は純粋で・・・・・


そして、頑固なんだ・・・・・。



「―――で?」


「え?」


潤が、目を瞬かせる。


「会う約束、したんでしょ?いつ?」


俺の言葉に、潤はちょっとためらった後―――小さな声で答えた。


「――――今日」



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