「何?このベッド?え、まさかここで寝るの?」


翔くんの驚いた声に、俺たちも目を丸くする。


「―――ここに、いていいってこと?」


潤が遠慮がちに言う。


「あ―――そういうこと?ここで横になってれば、帰らなくてもいいって?」


俺の言葉に答えるように、ベッドの後ろから、上重アナウンサーが現れた。


「その通りです。まず―――松本さん、そのベッドに横になってください」

 

潤は、言われた通りステージの真ん中の俺達の後ろに置かれたベッドに上がり、横になった。


「はい、ちゃんとお布団掛けてくださいね」


上重さんに言われ、一番近くにいたニノが、かけ布団を潤の肩が隠れるまで掛けてやった。


「はい、オッケーです。この状態で番組は続けていただきますが―――もし、熱が下がらず39度を越えてしまうようでしたら、そこで松本さんには退場していただきますので、ご了承ください」


俺たちはそれぞれ顔を見合わせ―――


「―――じゃ、話の続き、しようか」


翔くんの言葉に、みんなが頷く。


「・・・・ベッドに横になってると、眠くなっちゃいそうだよ」


潤の言葉に、ニノが笑った。


「いいよ、寝ちゃっても。今日はJの退院祝いだから」


その言葉に、相葉ちゃんも笑う。


「そうだね。もう、松潤がここにいるってだけでテンションあがっちゃうし」


「松潤の熱まで上げるなよ?」


苦笑して言う翔くんに、みんなが笑う。


「やっと『嵐』になったね。マジで、松潤がいないってだけで物足りない感ハンパなかった」


嬉しそうな相葉ちゃんに、潤が照れくさそうに苦笑する。


「たった1ヶ月ちょいじゃん。前に、ニノがいない時期だってあったよ?あの時の方が長かった」


「あー、あったね。でも、あのときはちゃんと期間が決まってたしさ」


翔くんの言葉に俺も頷く。


「そうそう。それに、ちゃんと元気に仕事してるってこともわかってたから、なんの心配もしてなかったし」


「そこはちょっとくらい心配しろよ」


ニノが顔を顰め、みんなが笑う。


「今回はね・・・・今回だけは本当に心配だった。どこの病院にいるかも教えてもらえないで、詳しい病状もわからなかったし。1週間って言ってたのに1ヶ月たっても退院しないし・・・・そんなに具合悪いのかって思ったら、もう会えないんじゃねえかとか、悪いことばっかり考えちゃって」


翔くんがその時のことを思い出したように神妙な顔つきで言うのを、潤はじっと聞いていた。


「―――あのさ、俺たちがあのテレビ電話でJと話した後、入院中の様子をVTRで見たの・・・・知ってた?」


少し言いづらそうにニノが言うと、潤が『ああ』と思い出したように笑った。


あのとき収録されたものは、まだ放送されていなかったので見てはいないはずだけれど、もうマネージャーから聞いているのかなという感じがしていたのだ。


もし聞いていなければ、俺たちから話そうと、4人で決めていた。


潤の母親の了解があるとはいえ、本当にプライベートの、しかも入院中の映像なんて、本当なら人には見られたくないものだろうと思った。


と、潤は穏やかにふわりと微笑んだ。


「うん、聞いたよ。ちょっとびっくりしたけど―――でも、そのおかげで俺の体調も良くなったし、何よりみんなが会いに来てくれたのがすげえ嬉しかったから、見てもらってよかったと思ってる」


「松潤・・・・なんかほんと、雰囲気変わったね。超優しい感じになってる」


相葉ちゃんの言葉に、潤がくすくす笑う。


「そんなに?なんか俺、入院する前よっぽど怖かったみたいじゃん」


「いや、怖くはなかったよ。怖くはなかったけど・・・・・正直、もう少しきつい印象はあったじゃん。あくまでも仕事の時だけど」


とニノが言うと、翔くんも頷いた。


「うん、そうだよね。楽屋なんかでは松潤って結構話す時も穏やかなんだけど、仕事に入るとわりとテンション上げてしゃべるっていうか・・・・きついっていうよりもはっきりもの言う感じになるの」


その言葉に、潤が眉を寄せ、ちょっと上目遣いになり考える素振りを見せる。


「そうだった?そんな風だったかなあ。俺、あんまり意識してなかった気がするけど・・・・・無意識にオンとオフと分けてたのかもね」


「もう、分けないの?」


俺が聞くと、潤はちょっと首を傾げた。


「え、わかんない。だって、自分では分けてたって自覚もないし。今、そうなってないなら分けてないのかな」


―――やっぱり、可愛くなってるよ!


首を傾げたり、ベッドに頬杖ついて上目遣いになったりする仕草が、めちゃくちゃ可愛い。


こんな姿、オンでもオフでも滅多に見たことないのに!


それからしばらく入院中のエピソードなどを話していたけれど・・・・・

 

「―――だよね?松潤。あ・・・・・」


潤に話を振ろうとして、くるりと振り返った翔くんが、目を見開く。


潤は枕の上で腕を組み、その上に顔を乗せた状態でうとうとしていたのだ。


「え・・・・寝ちゃったの?」


相葉ちゃんが小声で言うと、観客も気を使ったのか、静かにざわめいた。


「―――薬が効いてきたんじゃない?」


ニノの言葉に、翔くんも頷いた。


「そうかも。どうする?このまま寝かせておく?」


翔くんが俺たちを見渡す。


「どうする?リーダー」


ニノが俺を見た。


俺は、迷わずに口を開いた。


「寝かせてあげようよ。今日退院したばっかりなんだもん。普通だったら仕事すること自体無理じゃん」


「だよね。松潤、まじめだから早く復帰したかったんだろうけどね。俺たちも早く復帰して欲しいと思ってたけどさ」


相葉ちゃんが笑って言うと、翔くんも笑いながら、


「まあ、確かにね。でもやっぱり無理はしないで欲しいよね。また具合が悪くなって病院に逆戻りとかなったら困るし」


と言った。


「――――それにしても、可愛いなぁ、松潤」


俺の言葉に、客席から笑いが起こった。


「あんた、さっきからJの顔しか見てないでしょ」


呆れたようなニノの言葉に、俺は真面目に頷いた。


「だって、本当に可愛いんだもん」


「まあ、思う存分見てくださいよ。何なら、お持ち帰りします?」


翔くんの言葉に、どっと笑いが起きる。


「お持ち帰り!やばいよ、リーダー!あの顔本気で考えてる!」


相葉ちゃんが俺を指さして笑った。


「ダメダメ!J、病み上がりなんだから!」


ニノもわざと声を張り上げるけれど―――


俺は、実は本気で考えてた・・・・・。


だって、潤がかわいすぎて。


胸が、苦しくなるんだ。


この想いを隠しておける自信なんて、俺にはなかった。


すぐにでも伝えたかった。


潤が、好きだって・・・・・